SEP-06(A) アレックスの栄転(前編)
暇が、無い....ッ!
スペシャルエピソード初の前後編です。
自分に才能が無いといつ悟っただろうか。
俺は、幼い頃からエストニアの息子として厳しい教育を受け、剣の修行をさせられた。
だがそれらは全て実を結ばなかった。
それだけではない。
意識すれば認識できるはずの”スキル”。俺はこれを認識することができず、
事実、鑑定魔石にて調べてもらった時、俺のスキルは無かった。
まるで何者かに仕組まれているかのように俺はスキルや魔法を習得できず、
家族や家臣にまで蔑視された。
食事の手を抜かれるのは当たり前、掃除も洗濯もされず自分で覚えた。
昔使っていた長男の立派な部屋は次男に奪われ、地下室で寂しく過ごした。
そんな生活が数十年続き...
そして、学院からの招待状を見つけたのだ。
親は体面を何より重視する奴らだ。
こんな俺でも利用価値があると思ったのか、学院へ行きたいと申し出た俺に親はそんなに行きたいのなら喜んで行け。ただしエストニアの名を表で一切出すな。恥となるからな。
と言い含めて俺を学院に送り出した。
幸い学院では、剣術、魔法、薬学、数学以外の分野で俺は活躍することができ、
身分も気にされず沢山の友も出来た。
しかし、何年経とうとも、友人のユイナに手伝ってもらってあらゆる治療を受けようとも、スキルを習得できない体質は治ることが無かった。
それだけが俺の心に蟠りとして残り、三年生になるまでもやもやとした日々を送った。
しかし、そんな俺にも天は救いをくれた。
特大の、そして二度とないような救いを。
その日、俺は休日を利用して東の森林地帯に来ていた。
都から離れ、森は静かで気持ちの良い空気に満ちていて、俺は久々にリラックスしていた。
授業は難しく、付いていくのがやっとだからな...
しかし、昼を少し過ぎたあたりで俺は違和感を感じ取った。
どこからか血の臭いが漂ってきている。地響きのような音もするし、本当に微かだが剣がぶつかる音もする。
「...何が起きているんだ?」
俺は、一応護身のために持ってきていた剣を腰に下げ、
音のもとへと走り出した。
道中、木々の合間から音の方向へと走る魔物を見つけた。
そいつらは俺を襲わず、一心不乱に音の方向へと向かっていた。
俺も、音の正体を確かめるべく走る。
そして、段々と音は大きく、近くなっていき...
鬱蒼とした木々の視界が一気に開けた。
「光の重鎚!」
途端、目の前で光の爆発が起きた。
これは決して錯覚などではなく、俺は光と共にやってきた衝撃波を受け、数歩後ろへ吹きとんだ。
その時だった。
俺の胸の内で何かが熱を持ったのだ。
あの光の爆発で、身体の中にあったなにかが共鳴したように感じた。
...確かめないと。
俺は光の爆発があった場所へと走り出す。
「少女....!?」
そこには、まるで剣で斬られたように裂けた服を着て戦う、
女神と見紛う美貌を持った少女がいた。
しかし、その手に握られているのは華奢な身体に似合わぬ武骨で巨大な重鎚だった。
少女は疲弊した様子で、そこに一匹のオーガが飛び掛かっていった。
「おおおおおおおっ!」
俺は脇目も振らず剣を引き抜いた。
スキルの無い俺では魔物に敵うはずがないと分かってはいる。
だが、俺はなぜかあの少女が傷つくところを見たくないと思った。
そして...剣を思い切り投擲した。
重い剣は予想を超えた速度で風を切って、オーガに突き刺さり吹き飛ばす。
「ん?」
それを見た少女が反応した。
俺に驚いた様子はない。...まあ、冒険者なのだろう。
「大丈夫か!?助けがいるなら助太刀する!」
「....助かる!」
少女は俺の無謀な決断を、受け止めてくれた。
しかし...
「君はどうやって戦うんだ?」
「そういえば...」
剣はさっき投げてしまった。
拳で殴ろうにもそこまで鍛えているわけではない。
困った俺を察したのか、少女が声を発する。
「ん?武器が無いなら貸そうか?」
「.....その戦鎚は受け取れない」
「いやいや~。問題ないよ。ビルドウェポン、セイントソード」
少女が何かを呟くと、その手に純白の剣身を持った美しい剣が現れた。
「...これは?」
「使っていいよ」
「...助けると言ったのに、こちらが助けられてしまった」
ほぼほぼ廃嫡とはいえ、エストニア侯爵家の長男として情けない限りである。
しかし少女は、気にしていないようだ。
ここはそれに甘えさせてもらおう。
「行くぞ!」
俺は剣を受け取り、遠目に近寄ってきていた魔物へと駆け出す。
ドォン!と、軽く地面を蹴ったつもりが地面にへこみを作りながら俺は急加速する。
...おかしい。いくら鍛錬しても思うように動かなかった身体が軽い。
おまけに...
アレックス・エストニア Lv32
剣術
剣聖術
光魔法
魔法剣
俺は自身のスキルを正しく認識していた。
今までこんなことは一度も無かった。
しかし驚いている間にも俺の身体は敵の前に躍り出る。
俺は慣れない手つきでスキルを〈使う〉!
「フレイムッ!ソードォ!」
剣から不可視の何かが噴き出し、その周りを覆うように炎が纏う。
俺は燃える剣で魔物...これはゴブリンか?を横薙ぎする。
すると、まるでバターを切るようにゴブリンは切断され、絶命する。
...これがスキルの力なのか........
俺はスキルというものが何かを実感した。
そして、同時に身体の内から溢れてくる力にも驚いていた。
これは...何だ?スキルとは全く別の何かであると本能は訴えてくるが、俺には分からない。
俺はゴブリンの死に恐れず、むしろ近づいてくる魔物を牽制するように剣を構える。
「ハァアアア!ライトニングソード!」
剣から稲妻が走り、向かってきた魔物を打つ。
それだけで魔物たちはあっけなく絶命した。
凄い...力が溢れてくるようだ。
いくら剣の修業をして筋肉を付けたりしても、スキル無しでは恐るべき魔物たちをこうも容易く葬ることは出来なかっただろう。
「アイスソード!」
俺は氷雪で覆われた剣を振るい、俺に向かってきていた狼型の魔物の群れをまとめて凍てつかせる。素早く肉薄し、氷を剣で叩き割る。
途端、体が熱くなり力が漲る。
...これは、レベルアップか?
以前は極限まで弱らせた魔物を倒すだけで精一杯だったというのに、これがスキルの力なのか?
そんなことを思いながら俺は溢れ出る力を存分に生かして魔物を掃討した。
最終的に俺のレベルは43まで上がり、魔物の消えた森の広場にて俺は少女に礼を言った。
しかし少女は、当然俺の事情を知らないようで、にこりと笑って言った。
「お礼を言うのはこっちのほうだよ。ありがとう、アレックス」
「ああ...」
俺はその笑顔に見とれてしまっていて、そのまま固まってしまった。
そして気づけば、少女と、俺の手にあった剣は忽然と消え去っていた。
名前を聞きそびれてしまった...
と思い、落胆する俺だったが、一つ大事なことに気づいた。
「あの少女...何で俺の名前を知ってるんだ?」
その数日後、新入生として少女...ユカリと逢うことになるのだが、それはまた別の話だ。
◇◆◇
そして、時は流れ数か月後。
俺はスキルを駆使してあらゆる困難を乗り越えた。
その殆どはユカリが原因でもたらされたものだったが...俺は辛くはなかった。
弱く、守られる存在であった自分が、初めてこの剣...白鱗飛竜の剣で他人を守ることができる。その嬉しさで辛さなんて感じないのだ。
ユカリが出したセイントソード...あの剣を握ってから俺はスキルを使えるようになった。
きっと、あの剣と俺には深い関りがあるのだと思う。
ただ、ユカリ曰くユカリが生み出した武器は本物に限りなく近い贋物であるらしく、特殊すぎる効果や宿った意思までは再現できないそうだ。
…..つまり俺はいつか、あの剣の本物に触れるということだ。.....楽しみだ。
さて、話は変わるが、俺はスキルを身に着け、そこらの冒険者よりも強い力を身に着けた。
家に帰る時だ。
俺が家の前に立つと、門番が反応した。
「アレックス...恥さらしめ、のこのこと帰ってきたのか?」
「何のことかな?恥さらしって?」
俺は抜身の剣に炎を纏った。
それだけで、門番の表情が驚愕に彩られる。
「アレックス...様...もしや、スキルを.......?」
「今さら態度を変えても無駄だ。お前は解雇だな」
「お、お許しを!」
門番が土下座して謝るが、お前のことは昔から許せなかった。
外聞もクソもあるか、いますぐ解雇してやる。
ドアを開け、屋敷を進む。
すると、階段の上から妹のシェリーが降りて来た。
「あら?お兄様帰ってらっしゃったのね。スキルすらも使えない可哀想なお兄様」
「やれやれ...この剣が見えないからそういうことを言うんだな」
「?...魔道具でスキルが使えないことを誤魔化しているのね、さすがは汚らしいお兄様ですこと」
「ホーリーライト」
俺は〈光魔法〉のホーリーライトを手に浮かべる。
この光から放たれる聖気を纏った魔力に、シェリーの顔が驚きに満ちる。
「あ、ああ.....そんな、有り得ない........どんな手を使ったのです、お兄様!何て卑怯な、こずるい手を使ったのです!」
「こずるいも何も.....こういうことさ!」
俺はホーリーライトをシェリーの足元にぶつける。
聖なる光は爆発し、シェリーの一段下の階段を粉々に砕く。
「きゃあぁぁぁっ!」
「な、正攻法だろ?」
「何事だ、シェリー!」
内心ざまあみろ、と笑っている俺のもとに、奥の扉が開いて弟が入ってくる。
次男のブラウトだ。俺から、長男の地位を奪った一番許せない奴。
「よう、兄弟。長男の部屋は返してもらうぜ?」
「アレックス....!性懲りも無く戻って来たな!成敗してくれる!」
ブラウトはそのままこちらに向かって突進してくる。
護身用の剣を抜いたようだが...それで俺が倒せるとでも?
「死にさらせぇ!」
「おおっと」
ガキィン!と派手な音が響き、剣と剣がぶつかる。
ギャリギャリと音を立てながら剣と剣が擦れあう。
「アレ...ックス...いつの間にッ、こんな腕力を....?」
「腕力?」
俺は〈剣王術〉のスキルではない技の一つ、「逆刀返し」にてブラウトを剣ごとひっくり返した。
「技術の違いだ。基礎からやり直してこい」
「アレックスうううう!貴様あああああああ」
ブラウトは素早く立ち上がり、俺に剣を振ってくる。
〈剣術〉の動きだが、一般人ではこれが限度か。
俺はそれらを素早く躱し、受け止め、受け流す。
「なんで、なんで、なんでッ!何故当たらない!」
「技術が足りないから、かな?」
〈剣術〉が〈剣王術〉に勝てる道理はない。
よほどステータスで上回っていない限り、逆転はあり得ない。
そして、この愚弟にはそのわずかな勝機すら掴めなかったようだ。
俺は弟の剣を全力にて斬りつける。
バキィン!
「なあっ...!?」
「基礎から出直せ、弟よ」
ブラウトの剣は綺麗に横に断たれた。
剣先がごとりと音を立てて床に落ちると同時に、ブラウトはへなへなと崩れ落ちた。
そして、上を見上げると.....
「見事だ、アレックス。お前は自らに課せられた不条理を突破し、この家に相応しい人間となった。だが...」
そこにいたのは俺の父。ヴォルフ・エストニアだ。
父は俺が自分を視認したと理解した瞬間に、彼は話し出した。
そして、言葉を切り...巨大な剣を取り出した。
「お前は今、何を白々しい、と思っていることだろう。そして、お前の人生に私は要らない...よって、お前の家督は————我が命にて譲り渡そう」
「望むところだ!」
そして、俺の人生の意味を決める戦いが始まった。
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