CEP 宗次郎編・壱 流浪人と逃避者
当時宗次郎は19歳、ラーンハルトは53歳でした。
また、ラーンハルトの剣と宗次郎の刀には秘密があります
次の宗次郎編・弐ではラーンハルトの過去を、参では宗次郎の過去を描こうと思います。
(2023/6/22)ラーンハルトが死んだことになっていたので修正「勝手に殺さないでよ~」
ん?どうしたユカリ。
久々に帰ってきたかと思えば、昔の話が聞きたいなんて。
一体どういう風の吹き回しだい?
ああ、前王様との話が聞きたいんだね。
風の噂でお前が王宮に呼ばれたのは知っている。
聞けばエストニアの長男と共にいるというじゃないか。
...え?あれはただの友達?
ふふふ、若いね。
じゃあ、私の....いや、拙者の昔の話をして進ぜよう。
◇◆◇
あれは、数十年前の事...
若き拙者は当ても無い放浪の旅を続けていた。
だが、その矢先に出会ったのだ。
老いた異国の男と。
「汝、ここで何をしている?」
「...何もしてないよ?」
その男と拙者が逢ったのは、丁度男が胸に剣を突き刺そうとしている場面であった。
若く、愚かな拙者はそれを止めてしまった。
だが、それが拙者の運命を大きく変えることとなった。
剣を鞘にしまった男は、拙者に名を尋ねた。
「拙者の名は秋月宗次郎。して、汝の名は?」
「僕の名前はラーンハルトさ。ラーンハルト・カーラマイア。」
その男は、そう名乗った。
拙者は当時無知であった故、王国のことを知らなかった。
それ故、どこぞの敗残した老兵であろうと無視した。
「...何か食事を持っていないかい?元より死ぬつもりで、食糧なんて持ってきてないんだ」
「止めた拙者にも責任はあろう。食え」
拙者はあっけらかんとした表情で死ぬつもりだった、と言うラーンハルトに持っていた握り飯を差し出した。故郷を出た時兄からせめてもの情けで頂いた魔法の袋に入っていた、最後の握り飯だったが、なぜかこの男にならくれてやってもいいだろうという気になったのだ。
ラーンハルトは今考えると王とは思えぬ所作でがふがふと握り飯を平らげた。
「...前に農家で分けてもらったヤツより美味しいね」
「当然よ。それは我が家自慢の神泉米。年貢として納める米とは別に作らせた、賓客用の米で作った握り飯だからな」
「...家か。」
拙者の言葉に反応したラーンハルトが顔を上げ、呟いた。
もしかすると、彼にも何かあったのだろうと拙者は思い、尋ねてみた。
「ラーンハルトよ、我が放浪の旅に付き合うつもりはないか?旅路の果てに、死よりもマシな何かがあるかもしれぬ。」
「元より寂しい1人旅だったし、別に問題はないさ」
案外返事は軽いものだった。
そうと決まれば話は早い。拙者とラーンハルトは直ぐにその場を離れようとしたが、
直ぐに足を止めることとなった。
「待て」
「分かってるよ。何かいるね」
拙者とラーンハルトが話をしていたのは、芒ヶ原の樹海と呼ばれる有名な魔物の領域だ。
ん?何故拙者がそこにいたか?
...当時の拙者は荒れていて、今では考えられないほど強さに貪欲だった。
そこで魔物の一つでも倒せれば...と思っていたのだ。
……...話が逸れたな。魔物の領域で長話をしていた拙者らは、既に魔物の標的とされていた。
拙者とラーンハルトが気配を探ると、それは真後ろにいた。
「屍啜狼か!」
「デスハウンド...!」
死者の屍肉を食み、腐血を啜るという魔物だ。
屍啜狼は拙者らが自身に気づいたことを認識すると、そのまま踏み込み恐るべき速度で迫ってきた。
ギィン!
最初の一撃はラーンハルトを狙ったものだった。
しかし、ラーンハルトは凄まじい反応速度を以てして奴の牙を剣で受け止めた。
ギャリギャリと牙と剣が擦れあう。
「ラーンハルト...お主、やるな」
「なに...これくらいしないと、」
ラーンハルトはそこで言葉を切り、剣を大きく跳ね上げた。
屍啜狼は跳ね上げられた反動で腹を守ることができない。
「....王にはなれないからねッ!」
ラーンハルトはそのまま屍啜狼の腹を斬り裂いた。
血が周囲に飛び散り、ラーンハルトにも掛かる。
しかしラーンハルトは返り血を気にも留めず、静かに剣を鞘に納めた。
「ラーンハルト...過去を探るのは失礼にあたると分かってはいるが、そんな強さを持っていながらどうして...?」
「喋ってもいいんだけどね...まだ生きているよ」
屍啜狼は、血の流れる腹を無視して立ち上がった。
そして震える身体で飛び掛かってきた。
せめて一矢報いようというのだろう。
しかし...
「双蛇・交斬」
拙者はいつもの技にてけりを付けた。2匹の蛇の頭を同時に落とすように、
鋭い軌跡を描き十字に屍啜狼を斬りつけた。
ただでさえ腹を斬られたところに拙者の一撃を入れられ、屍啜狼はそれで絶命した。
何にも使えない狼の死体を振り返ることも無く、拙者は刀を鞘にしまい、言った。
「さあ、何故こんな強さを持っていたのに、自死する必要があったのだ?答えよ」
「.........嫌になったのさ」
ラーンハルトは口を開き、長い話を始めた。
自分は遥か遠くにあるカーラマイアという王国の王子だとラーンハルトは名乗った。
当然拙者は、一国の王子がなぜこんな場所に?という疑問をぶつけた。
するとラーンハルトは、自嘲気味に言った。
「言っただろ?嫌になったのさ。僕は嫌だったんだ。王族なんてやめて、いつだったか図書館で読んだ英雄になりたかったんだ。各地を放浪して、いろんな人を助ける。そして事実、それは現実に叶えられそうだった。....アレが起こるまでは。」
ラーンハルトは第八王子で継承権は全くと言っていいほど無かった。
それ故自由が許されていたのだが...
第一王子より第三王子の方が継承位が高くなり、第一王子が起こしてしまったのだ。
大事件を。
「その日のことを僕はよく覚えているよ。第一王子が、第三王子の目の前で竜を召喚したんだ。」
後々の調査でその竜は実は下等翼竜であり、召喚には遺跡から発見された魔道具が使われていたという事が分かったが、問題はそんなところにはなかった。
「あの日、式典で王族は皆そこにいた。僕の親しい兄も、病で臥せっていたけれどその日は式典に出たいと願ったよ。...そして、大虐殺に巻き込まれた。」
第一王子は竜を縛る魔法で竜を押さえつけようとしたが、制御に失敗して最初に爪を食らって即死した。その後は、竜に一番近かった王族が纏めてブレスで死んだ。
ラーンハルトの親しい兄...第六王子はラーンハルトを庇って死んだ。それで彼は何とか生き残ったらしい。
「その後、兵士や冒険者が集まったけど...竜に敵う人間は殆どいなかったんだ」
ん?どうしたユカリ
私が倒したけどそこまで強くなかったって?
昔は冒険者の質も兵士の強さもそんなでは無かったからね...
それで、兵士も国の優秀な冒険者たちも全てやられて、王国の滅亡かと思われたとき...
「僕が立ち上がったんだ。第七王子のものだった剣を持って竜に立ち向かった。何が起こったのかわからなかったよ。数秒間の死闘の末、僕が負けそうになった時、視界が急激にゆっくりになったんだ。そのおかげで僕は竜の全ての攻撃を避け、全力で逆鱗に剣を叩き込めたんだ。」
そして、第八王子は継承権を手にした。
王も他の王子も王女すらも死に絶えたが、彼だけが唯一遺された。
「辛かった。僕は王になるための教育など受けていなかったし、民衆も僕のことを信じてなんかいなかった。けれど、僕が王を辞めればこの国は誰が治める?王を失った国は崩壊し、帝国にその隙を突かれる。民は皆奴隷にされ、僕だけは遠くに逃げて助かる。」
そこでラーンハルトは少し辛そうな表情をして、言った。
「僕はそんな選択はしなかった。国を正しく導くのと、民の心を掴むこと、両方やらなきゃいけないのが王様の辛いところだね。でも、僕はやり遂げた。...可愛い妻を迎え、子供も生まれ、立派に育つまで、苦労して苦労して、やっと次代の王が誕生した。そのときね、僕は気づいちゃったのさ。僕の可愛い息子...ロイアハイトに民が向ける希望に満ちた視線に。結局どんなに頑張っても、頑張っても、民にとっての王は僕じゃ無かったんだ。だから僕は、ある日誰にも何も言わずにあの国を去った。もう二度と戻るつもりはない。」
「そうか....」
長い話が終わり、拙者は息を吐いた。
拙者はその話を聞いて、やっと自身の間違えていた部分を認識した。
自分も、あの過去から逃げたのだと。
俺が過去に残してきた思いを確かめていると、ラーンハルトが言った。
「...まだ続きがあるんだけど、いいかい?」
「ここには狼の死体がある。魔物に来られると面倒だ。移動しよう」
「...分かったよ。また次の機会に」
そうして拙者とラーンハルトは森の中を歩き出した。
◇◆◇
「どうだった?ユカリ」
「うーーーん...父さんの”拙者”は違和感凄い!」
「そうだなぁ...でも昔はずっとこんな口調だったよ。俺が拙者を辞めた時のことは、また今度な」
「分かった、父さん。ありがとう!」
ラーンハルトか...
あの男の子供は元気だろうか...?ロイアハイト、そしてジルベール。
隠居した彼の事を思いつつ、俺は窓枠に手をかけた。
かつて彼と共に訪れた、王国の風景を思い出しながら。
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