Ep-781 魔結晶世界
「困ったな......」
私は呟いた。
どうやらこの世界、完全に魔術が発動できないらしい。
魔眼で魔力の流れを追う限り、発動した瞬間に魔力が霧散、周囲の結晶に吸い込まれるらしい。
『ユカリユカリ、ここやべーぞ』
「そうなの?」
『魔力が吸われてってるぜ、何かに宿らせてくれねーか?』
「早く言ってよ!」
私は空間収納を発動する。
インベントリがベースなので、こっちの方は上手く行った。
使った後の魔石に、バーンとゴッツを宿らせて、鞄にしまった。
「もしかして、ハルファス...」
「ええ、この場所は...魔結晶の平原のようですね」
「すごい! 宝の山じゃん」
魔結晶の塊なんてそうそう手に入るものじゃない。
何しろ、私でも魔力の再充填は出来ても、作ることはできない。
「あの...空の状態のモノであれば、私でも作ることはできますが」
「あ、そうなの?」
ハルファスって凄いね。
とはいえ。
「最近は財源に乏しいし、こいつら貰っていこうっと」
「...がめついわね、いつか破滅するわよ」
ベルがそう言ってくるけど、私は王宮からの仕送り? を使わないで預けたままにしているから、完全に自分のお金で生活している。
稼げる時に稼いでおかないと。
「ベルたちにも帰ったら渡すよ。戦地で使えるでしょ」
「...ええ、ありがとう」
魔結晶の価値とは、魔力が取り出せることにある。
魔石や魔導核とは違くて、魔石には魔力を再充填できないし、魔導核は一定の魔力を放出し、いつかは尽きるだけだ。
対して、魔結晶は大きく違う。
劣化しないバッテリーのようなもので、魔力を充填してから取り出すことができるから。
「さて、行こうか」
塊を五つほど回収した私は、皆に出発することを伝えた。
塊が一つあれば、前に戦った城巨人を半年くらい動かせる。
だから、これくらいで充分だ。
「あまり欲をかくと、いい事ないしね」
「充分強欲よ」
とにかく、魔術が使えないので徒歩の移動だ。
この中で徒歩慣れしていないのは、多分ベルだけなので、シロに載せて運んでもらう事にした。
「空の上にこんな場所があったなんてな.....」
「ジング....魔力は使えないから、剣で戦ってね」
「わかってる」
一応、露出しないなら問題はないみたいで、体内の魔力や魔剣に宿った魔力は抜け出さない。
私は一時的にクラレントをジングに渡し、黒龍刀で戦う事にした。
『魔法体が出せんな、すまんが我とベルは足手まといだ』
「....そうみたいだね」
ベルは完全に魔法メインだから、魔力を封じられると何も出来なくなる。
ダンタリアンは魔剣を使えるけど、魔法体の消耗が激しいので数分しか戦えない。
というわけで、戦力は....
ユカリ(私)、ゼパル、プロメテウス(憑依)、ハルファス、ミレアが主力。
サポートにジングとシロ、コル。
足手まとい.....もとい護衛対象はベル。
「ハルファス、多才だね」
「アルヒ殿に比べれば浅いですが......」
ハルファスはどうやって戦うの? と思っていたのだけれど、何やら魔槍を取り出し、それで戦うと言い始めた。
アルヒと比較するレベルならそこそこ戦えそうだ。
何が出来ないんだろう、この魔王。
数時間後。
私たちは未知の魔物と交戦状態に入った。
事の発端は、お昼にしようとインベントリからテーブルを出したとき。
周囲の魔結晶が、突然襲い掛かって来たのだ。
すぐに、魔結晶を纏った魔物だと分かったものの.....
「数が多い!」
「あちらこちらから、集まってきているようですね.....」
「面倒臭っ!」
思えば、この世界に魔物以外の生き物はいるんだろうか。
魔物は魔素からの自然発生もあるわけだし、もしかして私たちが初の侵入者なのでは?
「とにかく、片付けるか.....」
「お任せを」
ハルファスは魔槍を振り回し、鋭い突きで結晶亀(仮称)を貫いた。
何かは分からないけど、強化魔術も使っているみたいだ。
「悪いわね.....」
「いいよ別に」
ベルの言葉を聞き流しつつ、私はポケットから小瓶を出す。
それを地面に少し垂らして、目の前の結晶亀たちを睥睨する。
「水よ流れよ、貫け――――アルビオン・スラスト!」
水を使って魔物を倒していく。
一番労力がかからない方法だ、アルビオン・スラストの効果が終わるとただの水に戻るしね。再利用可能って事。
「うおぉおおおおおお!」
「はぁあああああああ!」
直後。
魔剣プロメテウスとミレアの斧が目の前を通過する。
それは遠方まで飛んでいき、進路上の魔物を一掃した。
勢いを失った魔剣プロメテウスを、ミレアの斧がUターンして回収し、二人の元に戻る。
流石に強いか、あっちは.....
「御免」
「ワォオオン!!」
シロとゼパルが結界を使ってうまく立ち回っている。
コルは......ジングと一緒か。
円陣を想定してて、一番内側にベルとダンタリアンがいる形で、そこから二番目にジングとコル、その外側に私たちが配置されるというわけだ。
「前に出てくるよ」
「頑張って」
「当然」
私は黒龍刀を抜く。
黒い刀身が、魔結晶の放つ煌めきに照らされて、暗闇でもよく見えた。
「スキルセットチェンジ、セットサムライ」
久々の近接戦と行こうじゃない。
私は地面を踏みしめて、一気に大型の結晶亀に迫った。
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