Ep-779 義理と同情
翌日。
私はみんなに、調査結果を打ち明けた。
「ジャイアントサンドワーム....あの虫がどこから来たのか分からなかったから、自分で調べたんだけど......地下に広大な遺跡があって、そこにコロニーが出来てたんだ」
「ユカリは....それをどうするつもりなのよ」
ベルが、若干不満げに聞いてくる。
そりゃ、勿論.....
「コロニーを破壊する、ジャイアントサンドワームを全滅させる」
「そんなことする義理、ないじゃない! あんなに恩知らずばっかりなのに。そりゃユカリは優しいのは分かってるわ、でも......」
救うべきではない人間だってこの世界にはいる。
ベルはそう言いたい筈だ。
だから.....
「ミレアの使った伝説級魔術で、ジャイアントサンドワームは燃え尽きた。だから、私は今回手を汚さない、たった一撃で終わらせる」
「そう、それならいいけど......」
「事前調査はするけどね」
「待ってくれ」
その時。
ジングが手を挙げて、私の方に顔を向ける。
「どうしてそこまで、優しくなれるんだ?」
「? どういう事?」
「俺は呪いの子って言われてるし、ユカリさんは魔女って言われたんだぞ。だっていうのに、ユカリさんは.....正直俺は、あんな奴ら.......虫に食われてもいい、って言うと思った」
「まさか」
救いようのない奴を救う方が、私はきっと得意だと思う。
救われたと思っていないような人たちなんて、ごまんといる。
だから私は、
「私は私の中にある正義だけを信じる。救おうと思ったら救う、そうすれば後悔はない.....それに、ベル」
「な、何よ」
「いちいち聞かないで。私は話を聞かない犬みたいなものだと思えばいいから」
「そっ、シロみたいなものだと思うわ」
「ワ、ワン!」
納得しかねるといった様子でシロが咆えた。
私はシロに近寄って、全身を撫でまわして諌める。
「そういう訳だからハルファス、索敵に付き合って」
「ご命令であれば、如何様にも」
私は、ハルファスを伴って、集落の方へ向かう。
集落は巨大な縦穴がその大多数を飲み込み、かつ周囲から集落を守っていた壁や天井はなくなっている。
崩落の危険性もあるし、もう住めないだろう。
「お願い」
「はっ」
〈爆鳩群翔〉を使ったハルファスは、鳩を縦穴の下に降下させていく。
普通に戦闘に使うと、ただの爆発するミサイルみたいな感じなんだけど。
意外といろんな機能があって、今回はハルファスが鳩の視界を使って探索する感じだ。
「.........成程、かなり広い空間ですが...出口はほとんど無いようですね...」
「じゃ、行けそう?」
「お待ちください、結界の起点を作ります」
「わかった」
私が魔術を使うのに合わせて結界を張り、逃さない気だろう。
やっぱりハルファスは凄い...血も涙もないと言えばそれまでだけど。
「終わりました、すぐに為されますか?」
「いや、一旦戻ろう」
「はい」
準備は出来た。
お昼ご飯でも食べに戻ろう。
それに、プロメテウスに協力してもらえばもっと完璧にできる。
「ユカリ様、私はここに残ります。何かあった際は、結界を張りますので」
「...分かった」
私はハルファスの創造した『乗式飛翔場』に乗り、集落を離れるのだった。
お昼ご飯を食べた私は、プロメテウスと共に再び縦穴を訪れた。
使う魔術はもう決まっている。
というか、プロメテウスが教えてくれた。
彼曰く、究極にして最強の一撃...周囲の影響を考えないなら、らしい。
「私の結界でも耐えられない可能性がありますので、〈六芒昇華〉をお借りします」
「分かった」
ハルファスの結界で耐えられないって、どれだけの威力なのか...
とはいえ、割とハルファスの結界は壊れやすいのは確かだ。
修復速度が速く、展開までも速いのが強みで、強度に重きを置いていないのだろう。
〈六芒昇華〉で修復速度と展開速度をそのままに、強度だけを底上げするつもりだ。
「じゃ、やる?」
『応とも、姐御!』
この魔術は、超位魔術でかつ新しく使う魔術なので詠唱が要る。
短縮詠唱や詠唱破棄ができない条件として、存在から力を借りるというのもある。
今回はプロメテウスの炎神としての力を借りる形になる。
『オレ様の絶対かつ究極の破壊の力よ、荒れ狂え! 全てを灰燼へと変える種へと流れ込め!』
「受け取った! 我が願いを聞け、炎の種よ、殻を打ち破り、爆ぜ狂う未来を夢想せよ...〈広滅火焔爆種〉」
私の手に、プロメテウスの炎の権能でブーストされた炎の魔力が流れ込み、魔力によって封じられる。
...これは、長く維持できないな...
「落とすよ?」
『ああ!』
途中で暴発しそうだ。
私は穴に向けて種を落とし、制御のため右腕を左手で抑えた。
「行きます! 〈六芒昇華〉! 〈魔王結界〉!」
直後、轟音が響く。
ハルファスが一瞬で冷や汗をかき、手が震える。
すぐに魔力が動き始めるのを感じた。
轟音と振動が収まった直後、私は魔眼で地下を見る。
飛散した魔力のせいで上手く看破できないけど...魔力反応はない。
「よし、殺した」
「お見事です」
私は魔術の効果が終了したのを確認すると、オハンを呼び出して縦穴に水を流し込んでいく。
流石に遺跡全部を満たす事はできないので、
「水神の継承者であり、海神の宝冠を戴く我が命じる、理よ屈服し、水を起点として穴の底を清めよ」
聖水をばら撒いて適当に浄化していく。
そうしたら、もうここでの仕事は終わりである。
「おやつ食べに帰ろう」
『ああ!』
私はハルファスとプロメテウスを伴い、再び乗式飛翔場に乗って帰るのだった。
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