Ep-775 古い後悔
「........弟を殺したのは、俺だったかもしれない」
「...えっ?」
突然の告白に、私は硬直する。
だけどすぐに、ジングがあの村に残った理由を思い出した。
そして、このタイミングでそれを口にした理由も察する。
「.....ハルファスに聞いたの?」
「...ああ」
よく考えたら、当時の事件を知っているのは魔王組だけだ。
その中で、ジングが尋ねたら答えそうなのはハルファス。
「じゃあ、もうどういうことか分かったって事ね」
「ああ」
全貌はすぐに分かった。
この毒は、効果を表すようになると肉体を硬直させてしまう。
つまり、仮死状態に陥る。
勿論、そこから死に至るまではそう長くない。
肺が固まってしまうまでの一日か、一週間か。
動かない肉体と、死体に区別は出来ない。
特に知らなければ.....
「俺は、弟を.....アロクを、土葬したんだ」
「そう、なんだ」
「苦しかっただろうな....」
ジングは腫れた目で私を見る。
きっとそれに気付き、泣いたんだろう。
悔しさが混じった涙だ。
「悪い、みんなを助けてくれ…」
「うん」
ジングにかける言葉はない。
だって、彼の弟が倒れた時、そこに私たちは居なかったんだから。
過去に戻ることはできないし、戻って未来を変えても何も変わらない。
また毒の水を飲んで、死ぬ未来に辿り着くだけだから。
「…ジング、みんなは助けるけど、その前に一つ聞いていい?」
「あ、ああ…なんだ?」
「弟さんは、なんで一人だけ発症したの? 同じ水源から水をずっと飲んでたら、村の子供達も一緒に発症したと思うんだけど」
「…俺の弟は、病気だったんだ」
「ああ…それで」
病人は、健康な人よりも水を多く使う。
だから、他人より早く毒が蓄積した。
「治らない病気と、祖母は言った。だから、希望はなかった、どの道死ぬ運命だったかもしれない、それでも俺は.....あいつを苦しんで死なせたくはなかったんだ」
「ごめんね、もっと早くついていれば.....」
「いいさ。ユカリさんらがどんなに早く着いても、その時の俺は....」
彼は三年前にアロクを亡くして、その一年後に集落の人々が出発。
アロクを直すには最低でも三年前に到着しないといけない、でも.....
私が転生してきたのが三年前。
だけど、彼はその事を知らないから、他に理由がありそう。
「俺は、アロクを守るために過敏になってて、その....荒れてたんだ」
「ああ、そうなんだ....」
私も、助けを求めていない人を救うほど暇じゃない。
失ったおかげで.....いや、おかげでと言うのは酷だけど、ジングは落ち着きを取り戻した。
それより前に、私たちが会っていたら、過激な村人Aで処理されていたかもしれない。
「よし、行こう」
「行くって?」
「一番最初に治す人の所に、ジングが決めて」
「分かった、行こう」
私はジングを連れて、広場の中央に向かう事にした。
「あ、俺が持つ.....」
「いいよこんなの」
私は御神酒の入った箱を片手で持ち上げる。
そして、歩き始めた。
ジングに聞いたところ、一番の責任者である長老を探した方がいいという。
だけど、見つからない。
「もう死んじゃったのかな」
「.....かもな、次は長老の孫しかない、蒼い髪だ」
「おっけー」
青い髪の青年を探すと、すぐに見つかった。
なので、瓶を出して中身を飲ませる。
「水よ、気道を傷つけるな」
指示を出して中身を飲ませた。
すると、青白かった肌がみるみるうちに紅潮していく。
「がはっ!?」
「ラルド!」
「下向いて!」
「は、はい!」
体液を吐き出し、ラルドと呼ばれた青年は私の方を見た。
それから、ジングの方を。
「....ジング」
「ラルド、久しぶりだな」
「.....おまえが」
「ラルド?」
その時。
ラルドがジングに掴み掛った。
流石に御神酒の効果は凄いね....って、止めないと。
「お前がなんで! お前が!」
「どうだっていいだろう!」
取っ組み合っている二人を、私は強引に引き離す。
「ちょっと待って」
「誰だ、お前は!」
「命の恩人に何て酷い」
場を和ませるために、しなを作って見せる。
だけど、相手の敵意は消えない。
「.....私はユカリ」
「見ない顔だな、どこから来た!?」
「外から来た」
「嘘だ! 数千年、外から人間が来た事なんてなかった!」
何か攻撃的だな。
私はジングに目を向け、瓶を投げ渡した。
「信頼できる人物に呑ませて」
「分かった」
「待て! この悪魔がっ!」
ジングを追おうとするラルドを、私は強引に地面に引き倒した。
そして、威圧する。
「人の話を聞いてよね」
「ひ.....わ、悪かった.....」
「ジングとは、どういう関係?」
「ぶ....部外者に話す義理は.....」
「ふーん」
威圧を強める。
ここで会話にならなきゃしょうがない。
「あなたを治したのは私なんだけど」
「し.....信用できるか! みんな....みんなあの悪魔のせいなのに!」
悪魔?
「お、お前も魔女なんだろう! 人の弱みに付け込んで!」
「魔女?」
魔女はイヤだなぁ。
ロクな死に方しなさそう。
「話にならない」
「こ、殺せ......殺せばいい! その邪悪なたくらみに利用すればいいだろう!」
「??????」
私は困惑する。
だけど、何となく察することはできる。
あの時ジングは「諍い」と言っていた。
決して彼は、本意で村に残ったわけじゃない。
「ラルド! 貴様!」
その時。
背後から、老齢の男が迫ってきて、ラルドに平手打ちを喰らわせた。
がっちり掴んでたので、ラルドは吹っ飛ばずに項垂れる。
「.....済まない、異国の麗人。.....この方はまだ若いのです」
「お名前は?」
「ベシューム、死去された長老に代わって、村を治めております。ラルド様は未だ未熟な身の上、軽率な判断は村を滅びに導きます故」
「軽率な判断を取った方がよかったんじゃない?」
散々言われたので、つい言葉に皮肉が染みてしまう。
だけど、相手は意に介した様子を見せない。
「ええ。そうできれば何よりでしたが――――我々を救っていただいたことには、感謝を述べさせていただきます」
「まだ全員を救ったわけじゃない」
「そうですね」
私は立ち上がり、ラルドを見た。
泡を吹いて、倒れている。
「ジングに聞こうかとも思いましたが、当事者がいるなら話が早い」
「ええ、お話いたします。我々と彼の間に何があったのかを」
私の前で、ベシュームは粛々と語り出した。
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