Ep-771 船出
次の日。
私は、ハルファスと一緒に移動用の装備を作っていた。
ピラミッドの外壁は素材として使えたので、これを船にしてしまうのはどうかと考えたのだ。
「以前に魔族からパク.....頂戴してきた魔導機関と推進器を取り付ければ.....っと」
「砂上戦艦の出来上がりという訳ですね......急ごしらえですが」
砂の上を僅かに浮いて航行する砂上戦艦を作ったので、早速皆を呼びに行く。
「なにこれ?」
「何って、船だよ」
「こんなもの作って、どうしようっていうのか聞いてるのよ」
最初に発言したのはベルだった。
当然と言えば当然だけど、この面子の中でイエスマンじゃないのってミレアとベルとジングしかいないし......
ミレアは何だか目をキラキラさせているし、ジングは呆然としている。
コルの方に目をやると、シロと一緒に口を開けて砂上戦艦を見上げていた。
「歩くのもきついし、座って移動しない?」
「....いいけれど、ほんとに大丈夫なの? 耐久性とか.....」
「大丈夫! このピラミッドの外壁、耐魔力素材として凄く優秀だから」
ハルファスが唸るほどの技術らしいから、削っても問題なさそうなところを結構もらってきた。
帰って研究しよう。
「ただ、この高濃度魔力によって変質した可能性もあるため、再現は出来るかは分かりませんが.....」
ハルファスは一応、私にそう言い含めてきた。
だけど、不可能ではない。
それなら問題はないはず。
高濃度の魔力も、うちのダンジョンなら再現できるかもしれない。
「ほら、乗って乗って」
「え、ええ....」
私は皆を船に乗せる。
船底は5メートルあるので、タラップも用意してある。
「といっても、構造は単純だけどね」
砲台のない砲座が前に二つ、後ろに二つ。
これは、ハルファスの〈迅築戦塔〉の用途を想定してる。
船は、一応船の形をしているというだけで、基本的にはピラミッドの外壁を削って作った船本体と、その上に掘っ立て小屋を乗っけただけの構造だ。
お尻の部分に、船本体に埋め込んだ推進器と魔導核が積んである。
「誇るものでもないんだけどね、居住性はあるでしょ?」
「野宿よりはマシって感じかしら?」
「うん」
中は広くも狭くもない。
この大所帯だとちょっと手狭なくらいかな?
「まあ、ご飯も食べられるし、ベッドの上で寝られるし。悪くないでしょ?」
「私はいいけど......他の皆には聞かなくていいの?」
「基準がおかしいから、皆....」
戦場暮らしが身に染みている魔王組とミレア。
私が用意したなら何でも受け入れるコル。
硬い岩に薄布を敷いて寝ていたジング。
この中だとまともな感想を期待できるのはベルだけな気がする。
「ミレア、いいよね?」
「はい! 流石は魔皇様ですね!」
よし、大丈夫だ。
私は全員が乗り込んでいることを確認して、タラップを手動でしまう。
「よーし、出航するよ」
「ちゃんと飛ぶんでしょうね?」
「そこは大丈夫」
浮く機能に問題はない。
すぐにシロが結界を船の周囲に張り巡らせる。
『魔導核への魔力伝達完了。粗末な術式だ....』
ダンタリアンが文句を言いつつ、推進器を作動させた。
後ろに向けて魔力の粒子を噴き出させて、船がゆっくりと動き出す。
「.....ところで、皆がどこにいるか分かるのか?」
「あ、そこだよね......ハルファス?」
「昨日の内に調べておきました」
ピラミッドによる魔力の嵐がなくなって、探知が上手く行くようになった。
そのおかげで、ピラミッドの南西に集落があるらしいという事が分かった。
「ただ、魔力反応が奇妙です。全く動いていないようにも思えます、場合によっては全滅.....」
「滅多なことは言わない、本人の前だよ」
ハルファスが口にしようとした言葉を、私は制する。
ジングがどう思うかも分からずに、口にしていい言葉じゃない。
「....そうですね、その通りです」
「分かったなら、いいんだよ」
さあ、この先の旅程はどうなるかな?
私は氷結魔術の応用で室内の温度を下げながら、考えるのだった。
結果。
私たちの旅は、出発して間もなくして妨げられた。
「なんで、魔物がまだ生きてるの!?」
「私が知るわけないでしょう!?」
なんでかというと、動き出した船に対して周囲から物凄い数の魔力反応が集まってきたのだ。
全部魔物!
冗談じゃないって感じだけど、撃退しないと面倒だ。
魔物を連れたまま集落に入るわけにもいかないし。
船を上昇させて、船の上から遠距離組が魔法を放ち、近接組が下で戦う。
ベルが下にいるのは.....なんでだろう?
「バインドルーツ!」
砂から飛び出してきた中型の虫の魔物を、ベルがツタで捕まえる。
そのまま絞め殺そうとするけど、その前にミレアが斧でツタごと切り裂いた。
斧で斬られたツタは、燃え上がって消えてしまう。
「ミレア、こっちはいいからあっちを手伝って」
「了解です!」
ミレアは焔を纏って、プロメテウスの戦っている場所に突入していく。
私はオハンを構え、砂から飛び出して向かってくる大量の砂蜘蛛を水流で押し流す。
「アルビオン・スパイク!」
水流を出したうえでそれを基点に神聖力の棘を生やす。
無法過ぎるけど、こっちは水神と海神を兼ねてるので許される。
「やっぱり、ここが隔離された世界だからかな....!?」
『恐らくは、それにこの魔物は、活性化するまでは冬眠のような状態になる筈です』
「今まで眠ってたって事?」
『はっ』
ダンタリアンと話して、そういう風に考察する。
ここは魔力も濃いし、魔物にとっては最良の環境だよね。
「鬼火!」
直後、爆音が響く。
進化したコルが、大型を吹っ飛ばしたらしい。
流石に撃破には至らなかったものの、ミレアの攻撃までの隙を稼いでいる。
「......魄殻はまだ使えないんだよね.....」
ピラミッドの地下でコルを特殊な進化に導いた宝玉は、今は光を失っている。
魔力が豊富にあるこの場所で回復しないという事は、多分魔力による変化ではないのだと思う。
「〈曝縄常刃〉!」
ゼパルが放った斬撃が、複数体をまとめて殺す。
そろそろ終わりかな。
私は魔眼で周囲を見渡して、魔物の反応を探る。
弱いのが数匹、そのほかは...
「...ん?」
視界の端で、巨大な魔力が揺れ動いた。
気づいた時には、それは消えていたが...
「みんな、気付いた?」
『いきなり魔力が現れました。隠れていたのかと』
「気配は感じておりましたが、様子を見ていたように思われます」
「追撃いたしますか?」
魔王組は気付いていたらしい。
彼らが私に何も言わなかったのは、取るに足らない相手と見ているからかもしれない。
実際にはそうだろう。
乗せてる民間人は一人だし、それくらいなら守り切れるわけだから。
「よし、このまま殲滅して、集落を先に目指そう」
私は黒龍刀で砂から飛び出した一匹を素早く始末して、皆にそう言った。
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