Ep-766 ミレアゼッタ
ゼパルの後を追った私は、コルと共にピラミッドの地下に来ていた。
そこは、激しい戦闘の後が残された空間で、術式が停止した影響か、壁があちこち崩れ落ちていた。
おまけに光源もなく、ライトの魔法で照らすしかない。
「あちらに」
「うん」
私がそちらに向かうと、少しせり上がった床に女の人が寝かされていた。
.....なんか、すごく豊満というか.....その、嫉妬じゃないんだけど。
ライトの光に照らされて、橙色の髪が煌めく。
「この子、誰?」
「分かりませぬ、ただ.....恐らくはパイモン殿の子飼いかと」
「パイモン.....魔王軍の第二団長だっけ?」
「はっ」
思えば、ハルファスって魔王軍の第一団長なんだよね。
数字が階級に影響するわけじゃないけど、ハルファスの場合はそれが当てはまると思う。
色々な属性に特化している魔王たちと違って、ハルファスは自分の得意属性以外の魔術も得意だしね。
「なんでそう思ったの?」
「はっ、パイモンの配下には、全軍を纏める七彩騎士がおります。度重なる戦闘で損耗しており、最終決戦では蒼の騎士しか残ってはおりませんでしたが.....」
「なるほどね」
そう言った私は、女の人の眉が動くのを目にした。
ようやく話が聞けそう――――そう思ったその時。
「ガァアアアアッ!!」
「っ!」
「貴様ァ!」
女の人は起き上がるや否や、私に襲い掛かってきた。
反撃するより前にゼパルが立ちはだかって、女の人の首を掴み上げた。
「グウ.....ウ......」
「冷静になれ、貴様の前にいるのが誰か、思い出せ」
「......ア......も、申し訳ございません」
女の人の目から狂気が消え、理性の光が戻ってくる。
それと同時に、女の人は誰が自分を掴んでいるかを思い出したみたいで....
「ひゃっ!? すみません、ゼパル様!」
「思い出せばそれでいい」
ゼパルの腕を振りほどいて飛び退いた。
私は驚く。
緩めていたとはいえ、ゼパルの手から逃れるなんて.....
「と....ところで、そこの方は誰でしょうか? ゼパル様の恋人....ですか?」
「どこまで愚かなのだ、貴様は。魔力を見よ」
「え.....」
ゼパルに言われて私を見た女の人は、しばらく目を凝らして――――何かを察したように跪いた。
「.......魔皇様、非礼をお許しください」
「いや、それはいいんだけど.....」
「それは!? 他にどんな無礼があったでしょうか!?」
「そうじゃなくて......名前とか、聞きたいんだけどな。」
ずっと女の人って呼ぶのもどうかと思うし。
そう言った私の前で、女の人は跪いたまま言った。
「私は......第二魔王軍団長パイモン様直属の部下、七彩騎士が一人――――『紅』のミレアゼッタです」
「ミレアゼッタ.....そうなんだ、よろしくね」
「あ...はい」
ゼパルが、その瞬間に殺気を放った。
ミレアゼッタはそれを浴びたのか、ますます地面に頭をこすりつけていた。
「顔を上げて、ミレア」
「は....はい!」
「ルシファーはもう死んだの、今の私は、ルシファーの魂を受け継いだ別人。.....それでも、忠誠を誓う?」
私は理由のない忠誠が嫌だ。
だからダンジョンの魔物に対して、常に敬意を欠かさないようにしている。
私がそう思う事で、彼等も嘘偽りない心で私を好きになってくれると信じているから。
「.......唐突な話で、信じられません.....でも、私の話を聞いてください。」
「?」
文脈のない提案に、私は戸惑う。
けれど、邪気のない目を向けながら、彼女は私に言った。
「私の話を聞き、それでも私の忠誠を疑わないのであれば......あなたはきっと、ルシファー様そのものの筈です」
「成程。じゃあ私も私の話をするから、お先にどうぞ?」
「はい」
私は冷たい床に座り込み、彼女の話に耳を傾けた。
話が終わってみれば、あまり失望するような内容でもなかった。
パイモン達の軍は勇者と戦い、敗走。
一人目の死亡者である緑の騎士ディオールを悼む間もなく、人間の軍隊と接敵。
その中にいた聖女によって封印されて、自らの意思とは関係なしに先程ゼパル達を襲ったらしい。
「情けない限りです...私が弱いばっかりに、味方に刃を向けてしまう結果になるとは」
「うーん...だけど、操られていたなら仕方ないと思うな」
「魔皇様は、慈愛の方なのですね...」
これで慈愛?
魔王軍、どれだけブラックだったんだろう?
私がゼパルに目を向けると、彼は一拍置いて口にする。
「...少なくとも、我が軍では...裏切りは軽度であれば三日間の鞭打ち、重度であれば自刎を命じていました」
「そう」
結構優しめ?
私はそう考えていた。
だって、裏切りって最大の悪徳で、軽度だったとしてそんな程度で済ませていいものなんだろうか...?
「パイモン式で行けば、裏切りはその重さに関わらず十の拷問死刑のうちどれかを選ぶことになりますが?」
「うーん、じゃあ、ユカリ式で行こう」
この人は何も悪くなさそうだし、私なりの贖いを彼女へ課す。
「ミレア、あなたは過程を問わず裏切ったことを後悔している...それは事実だよね?」
「は、はいっ」
「じゃあ、あなたにとって最大の敵は誰?」
「人間と...裏で糸を引く神どもですっ!」
「じゃあ、丁度いいね」
私は意を決して彼女へ説明する。
自分が純人間であり、ルシファーの魂を受け継いでいること、そしてついこの間水神と海神の座を受け継いだこと。
「あなたの贖いは、魔皇と人間と神を兼任するこの私に使えること。最大の屈辱をあなたは味わう」
「え、その...でも...」
言い淀んだ彼女だったけれど、ゼパルがおもむろに彼女に視線を送っていた。
ミレアは目を閉じて、しばし考えるそぶりを見せる。
そして、目を開ける。
髪と同じくオレンジの瞳が、暗闇で妖しく煌めいた。
「分かりました、不肖ミレアゼッタ、ルシファー様の大魔王軍へと移籍します」
「あ、それはダメ」
「ええっ!?」
「大魔王軍への移籍は、最低でも魔王三人以上の賛同が必要なんだ」
どうも、かなり威圧的なヘッドハンティングがあったらしくて、そういうルールになってるとハルファスに言われた。
アルヒのような人間が、ダンタリアンの配下を名乗りながらも私の配下を名乗らないのは、そういう事情もある。
「もちろん、魔王軍とは関係ない、私の親衛隊に入りたいっていうなら別だけどね」
ダンジョンの魔物で構成されているが、ゼパルが一応入っているので彼女でも入れるはずだ。
「分かりました...では親衛隊に入ります!」
「決まりだね」
こうして。
魔王様御一行に、新たな仲間ミレアゼッタが加わった。
ただでさえ男の割合の多いチームだったから、同性の友達が出来た気分だ。
「あ、あの.....」
その時。
背後から声がかかる。
「どうしたの、アイ?」
「すみません、ユカリ様。プロメテウス様が一人にしてくれと言ったきり、戻ってこないんですが.....僕が呼びに行くわけにもいかないので.....」
「あー、了解」
よく呼ばれる日だなぁ。
そう思いつつ、私は腰を上げる。
「ミレア、ゼパルと話して現状把握に努めて」
「分かりました!」
再びコルを伴い、私はアイの後を追った。
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