Ep-765 帰結
『バカなっ!?』
プロメテウスとアイ、二人との戦闘を行っていたパレシアが、驚愕の表情を浮かべ、退く。
転移させ、同時に自分の中での最大の裁きを下したが、ほぼ全員が同時にそれを打ち破ってしまったためである。
しかも、そのうち二組は術式を地下で荒らしまわっている。
このままでは、戦闘すら不可能になる。
仕方ないと歯を食い縛り、パレシアは転移術式を逆行させる。
「ユカリ様!」
「うん!」
最初に転移してきたのはユカリとコルだった。
次に、シロとベルが、ダンタリアンとハルファスが、最後にゼパルとジングが転移してくる。
全員が武器を構え、ジングは再び顔を青くして吐きそうになっていた。
『魔女パレシア、貴様の浅ましい考えなどお見通しというわけだ』
「我が主人に手を出した罪、購ってもらおう」
ダンタリアンとハルファスがそれぞれ魔法陣を描く。
それに合わせて、ベルが魔術を待機し、シロが結界を張った。
ゼパルが剣を構え、ジングは持ち直して拳を構える。
「待ってください」
ユカリが攻撃しようと号令をかける瞬間。
アイがそれを手で制した。
プロメテウスも同様に動く。
「どうしたの?」
『貴様、今になってどういうつもりだ!』
ユカリは怪訝そうに尋ね、ダンタリアンはまたもやプロメテウスに怒る。
だが、プロメテウスはそれを無視してパレシアに向き直った。
「オレは気づいた...いいや、思い出したというか、まあそんな感じだ」
『思い出してくださったのですね! 私たちの、信仰を...!』
「いいや、それは欺瞞に過ぎない、オレはわかってる」
プロメテウスは、魔剣プロメテウスをパレシアへ向けた。
その刀身に、赤い波紋が走る。
「思い出したぜ、ジェルバスの悲劇。それを引き起こした奴が誰だったかをな」
『それが誰であろうと、この信仰には...』
「胸糞悪りぃ、オレへの信仰を騙り、オレの全てを裏切ったやつをな」
魔剣プロメテウスが、赤い輝きを増していく。
そして、その周囲に魔法陣が浮かんだ。
「揺らめく火種は、隠されし言葉を呼び覚ます...炎神である我が命じよう、嘘に塗り固められ、埋められ隠された真相を白日の元に晒すがいい、〈揺炎神実〉」
魔剣プロメテウスから放たれた光が、パレシアに直撃した。
強烈な光が、空間を埋め尽くす。
その光が収まった時、そこにはパレシアではない別の誰かが浮かんでいた。
『な、何故ですの...!? 映像の身体を元に戻すなんて...』
「隠された真実を、正義と営み、真実を暴く炙り火であるこのオレは暴くことが出来る...分かったか、ラヴェリア王女?」
ラヴェリアと呼ばれた少女が、顔を顰めた。
「パレシアなんてオレは知らねえ、だがオレはお前をよく知っている。知っていたと言うべきか?」
プロメテウスは怒っていた。
身を焦がすような憎悪に身を浸し、それでも胸の内では炎が燻っていた。
「よくも信仰なんて語れたもんだな、オレを騙し、ジェルバスを火の海に沈めたお前が」
『あら?騙されるのが悪いのですわ、愚かな炎神』
ラヴェリアは、不敵に笑った。
それを聞いて、プロメテウスは振り返らずに言った。
「姐御ォ、オレに協力してくれ」
「うん」
その言葉に、一も二もなくユカリは頷いた。
彼女もまた、炎神が何をやろうとしているか理解しているのだ。
『何をやろうと、映像である私には...』
「この場所は、巨大な聖遺物...」
「聖遺物は神しか作れねぇ、もしくはそのやり方を知っているのは神だけだ」
「つまるところ...」
「壊す方法も知ってるんだぜ?」
顔を歪ませるラヴェリアの前で、ユカリとプロメテウスは同時にニヤリと笑みを浮かべたのだった。
聖遺物の破壊、それは穏便な破壊という意味での破壊だ。
もちろん壊すだけなら、魔法で壊せばいい。
神でも壊せる。
ただこの手法を用いた場合、妨害も再起動もできない、完全なる不活性化を実現できる。
それが、聖遺物を初めて作った神が定めた不文律...らしい。
海神の朧げな記憶から与えられた情報だから、全部合ってるかは後で炎神のプロメテウスに聞かないと。
「永劫不滅の焔たる炎神が命じる」
「陸・空・そして海。流れゆく潮の流れを支配するこの我が命じる」
詠唱が交差する。
プロメテウスは神として信頼があるのか、詠唱が短くて効果的だ。
私もアレくらいにならないと。
「「神に牙剥く聖なる遺物よ、己の役割を鑑みよ」」
言うなれば、聖遺物に対して「俺ってお前の制作者の友達なんだけど、どういう許可得て俺攻撃してるの?」という問いに他ならない。
術式そのものが、聖力によって大きく揺らぎ始めるのを私は感じた。
『そ...んな...神をも超える信仰が......』
ラヴェリアの姿が明滅する。
彼女を維持していたシステムが、停止しようとしているのだろう。
「謂れなき術式共よ、何を思いて楯突いた?」
「考えもせぬ聖力よ、何に従うか思い出せ」
私とプロメテウスがそれぞれ詠唱する。
もうすぐ完成する。
「「古代の盟約に従い、理のもとにこれを滅する」」
...〈聖器遮断〉。
発動した盟約神術により、遺跡は完全に停止した。
直後に、轟音が響く。
「? 何?」
『動力源に仕掛けた魔術が爆発したようです』
「恐ろしいことを...」
どうやら、転移させられる直前に時限起動の魔術を仕込んでいたらしい。
それも、ダンタリアンとハルファス二人とも。
抜け目がないというか、末恐ろしいというか...
「抜け目がないのはいいことだけど、貴重なものが失われたかもね」
『旧世代の聖石炉です、特に見るべき事はないかと』
「そうかな...?」
まあ、知識にあるのなら再現もできるか。
私は深く考えないことにして、みんなの元に振り返った。
「戦いは終わった、ここで休憩していこう」
「で...」
言い終わった時、ベルは俯いて何かを呟いた。
なんだろうと私が気がかりになった時。
「出来るわけないでしょ!」
ベルが顔を上げた。
その目は輝いていた。
「こんな昔の遺跡、絶対お宝......考古学的価値があるわ!」
「そ、そうなんだ...」
「シロを借りるわ、ついて来て!」
「ワン!」
ベルとシロはそのまま駆け出してしまう。
どんな危険があるかもわからないのに...そう思っていた私に、ゼパルが話しかけてくる。
「ユカリ様、少しお話が」
「どうしたの?」
「かつての魔王軍のメンバーを確保したのですが、下層に置き去りにしてしまい...」
「転移対象じゃないからね...行こう」
私はゼパルの後ろについて行くのだった。
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