Ep-760 炎神の誇り
ユカリたちが転送されたことで、広間にはプロメテウスとそれを握るアイだけが残された。
プロメテウスは怒り心頭ながらも、主導権をアイに渡す。
「いいのか?」
『お前の好きなようにやれェ』
遺跡が鳴動し、パレシアの身体が水色へと変動する。
『海の奇跡よ....ここへ!』
「えっ!? 海!?」
直後、室内を海水が埋め尽くす。
「〈紅蓮之翼〉!」
アイの背に、炎の翼が現れる。
その翼に魔力を纏わせ、アイは飛び上がった。
『姐御がいりゃなァ......オレ一人ではできることは限られる』
「じゃあ、どうするんだ?」
『決まってる、お前は戦え! オレができる限りのことをするだけだ! 行くぞ!』
パレシアの周囲に水球が渦巻き、そして飛ぶアイに狙いを付けて水鉄砲が飛ぶ。
アイは体をよじって回転することで加速し、水鉄砲を回避する。
『どこで覚えたんだァ!?』
「ユカリさんがよくやってるやつだ!」
『成程なぁ!』
魔剣プロメテウスの中で、プロメテウスは詠唱する。
数百年の間、秘めていた力を呼び覚ますように。
『火よ、炎よ、恐れよ、叫べ。戦いの時代は再びここに在り、呼び覚ませ、営みと戦を! 炎神の座に戻りて我は命ず、炎神ここに在り!!』
魔剣プロメテウスから、魔力に混じり神気が噴き出す。
空間に満ちる、全ての営みが炎神に呼応しているのだ。
「まだか!?」
『少し待てェ!』
「わかった!」
アイは真剣に、攻撃を捌く。
そして、一気に上昇。
氷が融けてからというもの、二人で旅したユカリたちにとっての空白期間。
その中で身に着けた、戦闘技術であった。
『避けるばかりですか、炎神様!』
『その通り、避けるばかりだッ!』
アイにはまともなスキルが無い為、プロメテウスがいなければすぐに死んでいただろう。
だが、それも役割。
弱さは単なる罪悪でないことを、アイは知っている。
『だがお前は、現に当てられていないなッ! 情けない奴め! オレの信者を名乗るなら、もっと激しく攻めろ!』
『承諾しました――――風の奇跡よ!』
属性が変わる。
そして、不可視かつ速度の速い一撃がアイに向けて乱射される。
『間に合ったぞォ! 通称”喧嘩フォーム”! 〈神王武装:煉華〉!』
プロメテウスが言い放つと同時に、アイの全身に鎧が纏わりつく。
それと同時に、アイの手から魔剣プロメテウスが離れ、ダンタリアンと同じ魔法体のプロメテウスが現れる。
「実体化できたのか!?」
『ダンタリアンに教えてもらったという訳だ! 業腹だが姐御の命令だッ! 従えなければどうなるか! 怖い!』
「それでも炎神か?」
『うるせェ、行くぞ!』
アイの纏った鎧は、アイの身体能力を大きく引き上げた。
床を蹴り砕いたアイは一気にパレシアのもとに肉薄し、その顔面に殴打を放った。
『無駄です、我らの信仰は、神に寄生するあなたのような下郎の攻撃など通しません』
『寄生!? 違うぜ、これはなッ! 漢と漢の友情だ!』
「やめてくれっ! 単なる友達だよ!」
気味悪げにアイが叫ぶ。
その間にもアイは数百数千の風の刃に斬りかかられるが、その装甲が全て弾く。
『神話の時代、オレは確かにお前たちを裏切った。だがな、オレはお前たちを裏切るに足る理由を知っている、お前も知らないとは言わせねぇ!』
炎の翼を纏って飛び上がったプロメテウスは、魔剣プロメテウスをパレシアへ向けた。
『我々はあなた様の為に全てを行いました、あなた様の逆鱗に触れるような事は何もしておりません。ただの一度の釈明の機会も与えてくださらなかった、なんと慈悲のない事かっ!』
『ならば教えてやる、その身に刻め!』
『海の奇跡よっ!!』
プロメテウスが何か言おうとする前に、水球が無数に生み出され、プロメテウスに水の槍が降り注ぐ。
『我が剣は篝火なり、神敵を苦悶の果てに打ち晴らす炎なり――――龍炎神剣』
魔剣プロメテウスが神の姿を取り戻した。
それは、刀身のない柄だけの剣。
刀身は、炎でできていた。
『洒落臭ェ!』
水の槍を纏めて斬り払うプロメテウス。
パレシアが次を詠唱しようとしたとき、横からアイに殴りかかられ吹っ飛ぶ。
『いいか? この際だから言っておくぞ! オレは”ジェルバスの悲劇”にブッキレてお前らを切ったんだ! 余計な事しやがって、滅んで当然だろうが!』
プロメテウスは怒りを露にしながら叫ぶ。
その顔に、一切の迷いはなかった。
『何が神だ、救って欲しけりゃオレの言う事だけ聞いてればいい! それが出来ないんなら信仰なんか捨てちまえ!』
「違うだろ、プロメテウス!」
怒り狂うプロメテウスだったが、アイがそれをかき消すように叫ぶ。
「....僕は知ってる、お前が怒っただけで虐殺をするような奴じゃないって」
『ヘッ、一時の過ちだッ。人間若けりゃ誰もである事だぜ』
アイは飛んできた極太の水槍を、その殴打だけで受け止める。
「だからこそ...僕らは。俺たちは、勝たなきゃならないんだろう! ユカリ様に仔細を話して許して貰えば、お前は少しでも救われるんだろう!」
『生意気言うじゃねーかッ! だけどよ...嫌いじゃあああないぜッ!』
プロメテウスとアイは同時に飛び上がる。
そして、プロメテウスは魔術を使い炎の鳥を飛ばす。
『行け』
『そのような一辺倒な攻撃など...!』
「いや、プロメテウスは一辺倒だからこそ...賢いことが出来るんだーっ!!」
『炎神たる我が命じる! 理よ平伏せよ! 炎の鎧を纏いし者に、炎の力を与えよ』
炎の鳥が弾け、アイに炎が宿る。
魔法の使えないアイが、プロメテウスと共に考えた手段。
それこそが...
『「神魔術・魔炎貸与」』
『大地の奇跡よ!』
最初は名もなき技でしかなかったが、ユカリに再開し神魔術という概念を知った今だからこそ存在する技である。
神聖力と魔力を重ねる、上位神にのみ可能とされる事象。
「アランシア・スラスト!」
アイの周囲で炎が逆巻き、そしてパレシアに向けて放たれる。
パレシアはそれを生み出した土壁で防ぎ、カウンターのように土塊を発射する。
「くっ!」
『うお〜...早く戻ってきてくれ姐御、オレたちじゃ分が悪いぜ...』
プロメテウスはそう言いつつ、剣に炎を纏うのだった。
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