Ep-754 魔族の集落(一人)
数時間後。
私たちはハルファスの見た集落に辿り着いた。
ボロボロの切り出した石で作られた建物が見えている。
「この集落....もしかして、滅んでるんじゃない?」
魔眼と神眼で気配を探っていた私だったけれど、集落の中に気配がない。
みんな何となく言わないので、もしかしてまた曰くつきの場所なのかな.....と思っていると。
「あ....あんたらっ!」
背後から声がかかった。
振り向くと、茶髪の青年が立っていた。
背には大荷物を背負っている。
「ど、どこから来た!?」
「どこって、下の世界から.....」
「下の!?」
この驚きようは何だろう?
私は驚く彼の姿を観察する。
身体は引き締まっている、この環境の中で生き抜いて来たっぽい。
でも一番の特徴は眼、魔族特有の縦長の瞳孔を持っていること。
『貴様! ここにいる方をなんと心得る! 魔族ならまず名を名乗れ!』
「待って待って、ダンタリアン。私はユカリ・フォール。あなたは?」
「お....俺は、ジング。....ジング・ラスペリアだ」
青年....ジングはそう名乗った。
私達も、ベルから順番に名乗っていく。
「魔族の王.....聞いたことがない」
「まあそりゃ、そうだよね」
どうも、この青年は落ち着きがない。
長く生きてる存在はそうそう驚かないし、慌てないから。
つまり、昔から魔界にいるわけではなくて、この環境で生まれ育った感じだ。
「この村に人はいないの?」
「あー......人を求めてきたなら、ちょっと遅かったかもな」
ジングは頭を掻いてそう言った。
横目にベルを見ると、ジングに興味がないようでそっぽを向いている。
これは......リンドもダンタリアンも苦労するなあ。
「この村の住人は、バリックの産卵期の始め辺りに引っ越しちまったんだ」
「バリック?」
「あー....外から来たんだったな、この砂漠にいる動物の一匹で.....その、空が暗くなるのと、明るくなるのを......駄目だ、俺には説明できない」
どれくらいの時期かは分からない。
....そういえば、この人の言語はヘルと同じ古王国語か。
「その言葉は誰から教わったの?」
「...誰とかは分からないな」
つまり、伝え聞いた言語。
私はみんなの方に振り返る。
「とりあえず、信用は出来るみたい。彼は一般人だと思う」
『ユカリ様がそう仰るのであれば...』
「勿論、判断材料も十分にある。少なくとも、ここで生まれてここで育った魔族だと思う」
古王国語を使う時点で、人魔戦争が発生する以前の世代の子孫だし、魔力に優れる特性を全然生かしてないから魔法の存在すら知らない可能性もある。
どう考えても、私たちをどうこうできるとは思えない。
「なんだったら、物資を提供するのでお話を聞かせてもらえない?」
「は....はい! 喜んで!」
私の提案に、彼はそこで初めて我に返ったようだ。
すぐに私たちを通り過ぎて、村の入り口を指し示した。
「とりあえず、集会場に案内するから! 俺は家に戻って支度をする!」
「わかった、ありがとう」
交渉成立。
私も中々、異文化コミュニケーションに慣れて来たんじゃないだろうか?
集会場に着いた私たちは、そこで暫く待つ。
流石に集会場といっても粗い作りで、石が椅子がわりに置いてあるくらいだった。
テーブルも石でできている。
「静かだね...」
結界を拡大した私は、集会場を覆うように再配置する。
氷の魔術で内部が十分に冷えた時、水差しを持ったジングが入ってきた。
「待たせ...うわっ、涼しい!?」
「私の魔法で...魔法って知ってる?」
「ああ。おまじないだろ? 俺もお祖母さんからいくつか教わってるが...こんなこともできるんだな」
理解が早い。
魔法の概念がないわけではないけれど、生き残るために特化したのだろうか?
でもそれなら、氷系も発展していておかしくないはずだけど...
なんか変だな。
「悪いな、こんなものしかないんだ」
「いえいえ」
ジングは水をボロボロのカップに注いで全員に配る。
思ったよりも綺麗な水だ、砂が浮いてるけど...
失礼にならないようにこっそり浄化しておく。
「それで...あんたらは何をしにここに?」
「上の階層に向かうためだけど?」
私がこの場を代表して、ジングと話すことにした。
既に言いたい事、聞きたいことはみんなと相談してまとめてある。
「そうか...じゃあ俺は力になれそうにないな」
「知らないの?」
「ああ。俺は生まれてこの方、村からある程度以上離れた事はないからな...」
確かに、昇降機の上が安全とは限らない。
探そうとも思わないだろう。
「ところで、あなたはどうして一人で暮らしているの? 引っ越したって言う人たちには付いて行かなかったの?」
私は一番気になる質問を投げかけた。
ジングが残っていなければここは廃墟になっていたはずだ。
だけど何故?
その問いに、ジングは一瞬苦い顔をした。
「...原因は俺にある、ただ...あんたたちが心配するような事じゃない。ちょっとした諍いのせいだ」
「そう」
余計な詮索はしない。
それが、トラブルを避けるための手段だ。
「そういえば...あの時はどうして、村の外から来たの?」
「ああ...それは、水を汲んできてたんだ」
「水? 井戸があったけど...」
村の中には井戸があって、中には水があった。
あれがあるなら、水を汲んでくる必要はないような...
「ああ...そう、だよな...」
その時。
ジングの頬を涙が伝う。
「ど...どうしたの!?」
「悪い...こうして話せるって...のは...嬉しいもんだな...」
彼は腕で目を拭うと、私の方に向き直った。
「村の水が使えないのは毒のせいだ。俺の弟はそれで死んだ。...今は外から水を汲んでるが、村人全員分を確保するのは無理だった。だから、ここに住んでた人は新天地を求めて旅に出た...これでいいか?」
詳細を省かれた内容のような気もするけれど、私がそれを詮索する必要もない。
ちゃんと話してくれた彼には、対価を支払う必要がある。
「お話ありがとう。...何か必要なものはある?」
「なんだよ、いきなり」
「人から何かをもらったら、いつかは返さないといけないでしょ?」
「...そうだな」
ジングは顔を伏せて考える。
出会った時はまだ子供のような反応だったのに、途端に大人っぽくなったことに私は驚く。
「弟を...いや、何でもない。食料と...できたら水を分けて欲しい」
「わかった、でも...食料は普段はどうしてるの?」
「一応、畑があるんだ。あとはバリックを狩ったりする」
「わかった」
食料については、食べ慣れないものを渡しても仕方ないと私は感じた。
やる事は決まったね。
「遠くでバリックを狩ってくる。加工の仕方を教えて、保存食にすれば少しは持つでしょ?」
「あ、ああ...助かる」
ジングは若干困惑しつつも、頷くのだった。
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