Ep-749 追 撃 戦
「来るよ!」
ニーズヘッグの背が見えると同時に、氷柱針が一斉に飛んでくる。
だけど、ただの氷柱では無い。
飛んでる最中に肥大化して、地面に轟音と共に突き刺さって行く。
シロは激しい回避でそれをかわして行く。
「ユカリ、ごめん!」
「うん、いいよ!」
ベルが私のお腹に手を回してくる。
シロの動きが激し過ぎて振り落とされそうになったのだろう。
ベルはさっきの戦いで超位魔術を数回使っている。
ほとんど魔力が残っていないはず。
魔王クラスが通常魔術のようにぶっ放すから忘れられがちだけど、超位魔術は魔力消費も半端ない。
外付けの魔力タンクを持つ私や、本来魔力を多く持つ魔族ならともかく、純人間のベルに連発できるものでは無い。
「休んでて」
「...ごめんなさい」
私は〈天魔之聖典〉を発動し、神魔術の準備をする。
ハルファスが再び爆発する鳩の魔術を解き放ち、氷柱群を迎撃した。
「発動する! 〈神怒之天雷〉!」
空を起点に雷が降り注ぐ。
それはニーズヘッグに直撃...しなかった。
ただし、私の意思に沿い、地面に落ちる前に一度だけ曲がり、発射直後の氷柱を纏めて消し飛ばす。
「うまく収束しない...やっぱり、領域外の神力は反発するんだね...」
雷神の加護を貰ってこれということは、やっぱり光を扱うには光神の加護が要るようだ。
私は私の得意分野で勝負をしないと。
「なァ姐御」
「うわっ、ビックリした!」
気付くと、隣にプロメテウスが並行飛行していた。
「その力はなんだァ? 神力でも魔力でもねェな」
「神魔力。神の力と魔力の融合形だよ」
「...姐御、ちょっと提案なんだけどよォ」
「何?」
プロメテウスが極めてまともなことを言い出したので、私はもしかして幻聴かと疑う。
だけど、聞く価値はある。
「実はオレは、神力を使えるんだぜ」
「え?」
「そこでだ、姐御にオレの力を使って欲しいんだけどよ......駄目か?」
「.....充分!」
理由とか事情は後で聞く!
まずは目の前の事態に対処する。
『スキル〈炎神の加護〉、〈炎神の寵愛〉を獲得しました』
「発動――――〈速流融炎砲陣〉!」
水神と海神の権能は、ニーズヘッグには効きが薄い。
だけど、私は思ったのだ。
溶岩は、液体の性質を持つ。
それなら、海神の権能で流れを速めることができる、つまりは高速で射出できる、と。
それで思いついたのがこの神魔術。
あんまり聖力も魔力も関わらないところがミソかな?
『小賢シイ!』
溶岩は一直線に飛び、ニーズヘッグに直撃すると同時にバラけて張り付く。
氷の鱗と言っても、溶岩の熱を消し切れるほどじゃないはず。
『ガアアアアアッ!!!』
「うそっ!?」
ニーズヘッグの体が再び青白く輝くと同時に、溶岩が一瞬で黒い石になってその体から剥がれ落ちた。
同時に、ニーズヘッグが速度を落としてこっちを向いた。
『失セヨ』
「「〈陽炎防界〉!」」
冷気のブレスを、私とプロメテウスが同時に張った結界で防ぐ。
続けてダンタリアンとゼパルが反撃を放った。
「〈閃界斬滅〉!」
「〈十字豪雷撃〉」
一閃によってニーズヘッグの四肢に傷が入り、そこに十字の雷撃が突き刺さった。
「撃ち落とす! ハルファス!」
「はっ! グラビリオン・プレッシャー」
ハルファスが重力魔術でニーズヘッグの翼を無意味なものとする。
それに合せて、私も神魔術の詠唱を始める。
「〈神魔崩爆〉!」
体を発光させて魔術を消そうとしていたニーズヘッグを、即時起爆する魔術でぶん殴る形で止めさせる。
ニーズヘッグの巨体が氷の大地に突き落とされ、轟音と暴風が吹き荒れた。
「もう一度囲む、ハルファス!」
「〈万物創築〉」
「〈閉鎖領域〉」
ふたつの魔術が組み合わさり、地上に落ちたニーズヘッグを押さえ込む。
だけど、周囲の氷が急速に溶けていくのを私は見た。
「水神の座を継ぎ、海神の宝冠を戴く我が命じる、悪しき竜の道を阻む固まりし水よ流れを止めよ、しばしの間!」
なら、氷が溶けるという現象そのものに介入する!
ちょっと危ないけど...
基本的に権能の命令は絶対、あんまり雑に扱うとこっちも危ない。
「ダンタリアン、プロメテウス!」
『御意...〈原雷解放〉!』
「行くぜェ! ...〈真炎解放〉!」
飛び出して行った二人は、かつて大会でも見せた大技を使う。
紫と橙色の魔法陣が二人の周囲に浮かび、魔法文字が並び形を成していく。
『...〈紫雷封滅〉』
「ウォオオオオオオッ! 〈陽炎爆縮〉!」
プロメテウスの全身が炎と化して結界に突っ込み、ダンタリアンが続けて雷の爆発を結界内に生じさせた。
光の嵐が視界を蹂躙し、私は慌てて目を瞑った。
「ゼパルッ、守れ!」
「御意! 〈騎士之盾〉!」
この光の中で視界を失わないのはゼパルくらいなので、ゼパルに守らせる。
そして、光が収まった時...
「うそ、硬すぎる...」
そこには平穏無事に翼を広げるニーズヘッグがいた。
鱗は全て消えたものの、肉体を破壊できないでいた。
「...全力戦闘、か」
ただの戦闘ではない、そこそこ全力と言った感じなのにこれだ。
魔王クラスでも勝てないのなら、かつての魔王と勇者の最終決戦のように、全力で戦わなくてはいけないんだろうな、と。
そう思ったのだった。
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