Ep-741 寒いのに暑苦しい
私は、比較的物分かりの良くなったプロメテウスに、今まで起きたことを全部語った。
私が大魔王(魔皇)ルシファーの転生体である事、それのおかげで魔術を一部扱える事、聖女なので神を従えられる事、水神から神としての座を受け継ぎ、半ば強引に殺した海神から座を押し付けられた事。
そして、エルドルムに起きた異変を解決するため、今は魔界にいるのだという事を。
「つまり、ユカリさんは...プロメテウスの主人だって事ですか?」
「まあ...そうなるかな? 本人が納得するかは別として」
『信じるわけねーだろ! ルシファー様なら紋章を出せよ!』
「はい」
私は魔皇の紋章を浮かばせる。
それを見たプロメテウスの顔色が変わる。
『...すいませんでした......』
そして、すっかり態度を改めた様子で謝罪する声が聞こえてきた。
こんな態度のプロメテウスがおかしくて、私はつい笑いを漏らしてしまった。
申し訳ないと思って謝罪しようとした時、
『グフッ』
『ダン! 何がおかしいッ!』
ダンタリアンが噴き出した。
ゼパルとハルファスは何も言わない。
「あ、それから...そこにいるベルは、アムドゥスキアの転生体なんだよね」
『なっ...!?』
「私と違って、魔術もまだ使えないみたいだけど...さっきは、悪魔に取り憑かれてたかなんかで、アムドゥスキアの魔術を使ってただけ」
『フン...ダンタリアンは嬉しいだろう』
『見透かすようにほざくな、プロメテウス』
ダンタリアンとプロメテウスがツンデレ同士の会話をしているのを無視して、私はベルの方へ向き直る。
「バーン、ゴッツ、ベルに取り憑いてたのは何?」
『悪魔だぜ...だけど、中位以上のヤツだ』
『下位の悪魔は人に取り憑くなんて出来ねえもんな』
そうなんだ...
ということは、この階層にも氷の中に何かがいるって事かな...
「ユカリ様...すみません、また助太刀を...」
「いいよ、今回はしょうがない」
陸路で走ってたら、すぐに木の根に捕まってしまう。
地面を破壊してくる相手だと相性が悪いのがコルだ。
「コル、空を飛ぶ魔法とか、足場を作るスキルとか無いの?」
「...すみません、俺には...」
「ごめん、ちょっと意地悪だったかも」
コルは近接系の魔物だ。
だから、遠距離系の何かを使えればいいんだけど...
武器を使おうにも、普段のコルには宝具がある。
外せるから生活に影響はないけど、外すと戦闘能力が大幅に低下する。
「ユカリ様。俺は戦えない事を悔いているわけではないです、ユカリ様のお力になれない事が悔しいんです」
「...コル」
『なぁ〜ルシファー様〜俺ァ腹減ったぜ〜』
その時。
アイが縋り付いてくる。
「ちょっと、ハルファス助けて!」
「はっ」
『腹減った! 腹減ったって言ってんだろォ!?』
「はぁ〜...」
まあいいや。
とりあえず帰ろう。
帰る場所かどうかは別として。
「みんな、とりあえず拠点に戻ろう。...大所帯で入れる場所じゃないけど、なんとかして貰うから」
私はみんなにそう呼びかけると、戦闘で疲れた身体を労いながら帰路に着いた。
『悪い、けれど....全員を収容は、できない』
「ですよね.....」
戻った私達だったけれど、ベルとダンタリアン....は杖に戻ればいいとして、ハルファス、ゼパル、アイ(プロメテウス)まで増えると、この家には入り切らない。
「ユカリ様、我々はあの都市の廃墟に戻り、そこを拠点とするのはどうですか?」
その時、ハルファスがそう言ってくれる。
成程、それもいいかな?
私がそう思った時、唐突にヘルが眼を見開く。
それと同時に、縮こまって耳を畳む。
「ど、どうしたんですか?」
『と、都市......それを、どこで見た?』
「ここの地下です」
『........すまない、けれど.....今日は一人になりたい、都市で泊まって、ほしい』
唐突に、拒絶された。
私は、それ以上踏み込めずに皆を外に押し出す。
『いきなり何をっ!』
「ごめん、やっぱり戻ろう。ハルファス、あの都市に塔を建ててそこを拠点にしよう」
私は皆を一旦都市に戻す。
そして、扉越しに声をかけた。
「ヘル、三日後にまた来ます、あの都市が何なのか、その時に教えてください」
『.......わかった』
私はヘルを置いて、皆を追った。
都市への道は、私が通ったルートではなく、ベルが通ったルートで整備されている。
滝を強引に滑り落ちるんじゃなくて、ちゃんと階段と通路があった。
ただ、回廊同士は繋がっていなかったので、ダンタリアンが強引にぶち抜いたらしいけど。
「何があったんだろう....」
考えても仕方ない。
でも、あの都市....そういえば、何の疑問も抱かなかった。
人工物がないはずのこの階層に、どうして都市が.....?
もしかして、他にもあったりして....
「いやいや、まさか....」
私は首を振り、皆の声が聞こえてくる方へ駆け抜けた。
「ユカリ!」
「ベル、起きたの!?」
「ええ........ここはどこかしら?」
「移動中。」
「なんだか、変な夢を見てたわ.....」
「悪い夢だって」
私はベルにそう言うと、その手を握って一緒に歩く。
今度は聞けるといいな、本当の言葉を。
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