Ep-739 渦巻く憎悪
ベルは、魔王達と全力戦闘を繰り広げていた。
ベルのものではない魔力で補強された木の根は、魔王たちを取り囲み、押し潰そうとしていた。
『く...』
「我々の魔術では相性が悪い...プロメテウスさえ居れば...」
「豪炎剣! くっ、効かんか...」
木の根は炎で燃やすことができる、それは確かだ。
だが、潤沢な水分を含んでいる上、魔力で補強されている木の根に、魔王たちは手こずっていた。
普段のベルの実力なら、魔王たちは全く問題がない。
しかし、アムドゥスキアの能力を本当にベルが今扱っているのであれば、その実力は拮抗している。
事実、ハルファスが使用した炎魔術や、ゼパルの斬撃がほとんど通っていない。
生物学的な植物ではない。
概念的に織り込まれた魔力構造物、それが木の根の正体である。
『待っていろ、今対抗策を...』
「先に我々が潰されるぞ、ダン!」
魔法陣を弄りながら、ダンタリアンが急いで魔術を完成させる中、ハルファスは結界で木の根を押し上げていた。
ゼパルは時折斬撃を飛ばすが、木の根にささくれを作るだけで意味が無い。
「早く...しろ、ダン!」
ハルファスが絞り出すように叫ぶ。
その時、外で轟音が響き、木の根が一斉に力を失った。
『何!?』
「この魔力...!」
ゼパルが勢いを無くした木の根を斬り払う。
その先には、宙に浮くユカリの姿があった。
どうやら間に合ったらしい。
音がほぼ聞こえなくなった辺りで、〈魔皇之翼〉を使って飛んできたんだけど....
かなり危ない状況だったらしい。
『ユカリ様、ベル様が急に襲ってきました、アムドゥスキアの力を使えるようです』
「こら、ダンタリアン! 勝手に魔力回線を.....まあいいや、〈堕天之魔皇剣〉!」
もしアムドゥスキアの魔術が使えるなら、普通の炎じゃ意味が無いよね。
私は魔皇剣を呼び出し、属性を炎へと変えた。
「〈紅蓮色の乙女〉!」
直後、ユカリの体が炎に包まれる。
そして、炎の中からユカリが飛び出した。
魔皇之翼と魔皇剣が炎に包まれている。
『あれは......真炎解放の一つ下の魔術だ....』
ダンタリアンが呟く。
少なくとも今、ユカリはベルを本気で排除しようとしている。
「ユカリ.........あんたも結局、私を見下して.....」
「変だなぁ」
ベルの憎悪の視線を受けたユカリは、眼を金色に輝かせていた。
神眼を開いている。
邪悪を見通すその眼が、ベルの魂に憑りつく黒い影を映し出していた。
「私の身内には悪魔は手を出さないんじゃ、なかったっけ?」
『離れたのがまずかったみてーだな』
「そう.....」
ユカリは、二つの力を纏わせて解き放つ。
魔力と聖力が、反発し合いながらユカリによって制御されているのだ。
オレンジ色の炎が都市を焼き払い、木の根を一掃した。
「ユカリッ!!」
「ベル......もし悪魔に操られてても、その心にある僅かな感情は本物だよね....だから、私が、それから解き放ってあげる! 〈聖炎武装〉!」
ユカリの背に、太陽のような形の装備が出現する。
その左右には、竜の顎のような砲塔が出現する。
「撃て!!」
砲塔から炎弾が放たれ、ベルの周囲に着弾する。
それに反撃する形で、ベルの生やした樹が熱線をユカリ向けて放った。
「魔素激震!」
ユカリの魔力が空間を急速に振動させ、熱線を吹っ飛ばして樹にまで及んだ。
魔力振動をもろに受け、樹にノイズが走る。
「せ.....制御が.....いつも、あなたは.....私の遠くにっ!!」
「それは、ベルの本当の言葉じゃないよね」
ユカリは一挙に加速し、ベルへと迫る。
魔皇剣を結界に叩きつけ、言葉も同じように叩きつけた。
「ベルは、もっと遠慮がちに言うよ!!」
「どうせ私を見下してっ!!」
「違うよ。ベル、私は誰も見下さない。だってみんな大好きだから!」
ユカリは胸に手を当てて、ベルの前で叫ぶ。
「見下していいものなんてないよ! そりゃ、敵なら別かもしれないけど.....」
「だったら私は敵よね!?」
直後、ユカリは結界から剣を離し、後ろに跳ぶ。
「ベルは友達だよ」
「また、そうやって本音を隠して!」
「だったら、恋人って言えばいいの!? 浮気はダメだよ、婚約者いるんだから!」
「そういう話じゃ無いわ!!」
ベルが超位魔術の魔法陣を組み始める。
それを見たユカリは、同じく超位魔術の魔法陣を高速で構築し始める。
アムドゥスキアが使う超位魔術は全部で十を超えるけれど、その中から魔皇之魔導書に載っていたものから調べる限り、ベルがこの状況で使うものは...
「〈熟果魔爆弾〉!」
やっぱり。
投資した魔力を何倍にも急速に「成長」させて、複数の魔力爆弾に詰めた後に発射する超位魔術。
「詰める」過程が時空魔術とかの複合のため、そこが超位要素だ。
「...〈陽崩空焉〉!」
私の手に生まれた炎の真球が、急速に膨れ上がっていくベルの魔術と呼応するように大きくなっていく。
プロメテウスの魔術を使っている今、この炎は私の思い通りに動かせる。
「私ね、思い出したのよ。ずっと昔、私がまだ小さい頃に、貴族たちがどんな目で私たちを見たか」
「...?」
ベルが急に語り出したので、私は炎を構えたまま静止する。
「でも、そうよね、あなたも貴族なんだから...向ける目線は同じよね、そうやって...卑しい卑しいと私を見るの、上から、遠くから!」
「そう思われていたなら、私も傲慢だったかもしれない」
「態度を装っても無駄なのよ、あなたの心の声が聞こえる!」
それはきっと、魂にへばりついた何かのせいだ。
それはわかっているけれど、言葉にしない。
ベルの魔術が爆ぜて、無数の魔法爆弾を放つ。
私は...本当の言葉が聞きたいから!!
「私の心の声は誰にも聞こえないよ、聞こえたとしても...それは、虚空に響く虚構でしかない! 吹き散らせ、魔の炎!」
炎が幾重もの壁に形を変えて、種のような魔爆弾を纏めて焼き払った。
「〈旋炎纏回陣〉!!」
魔法陣が残った炎を取り込んで燃えながら回転、ベルの結界を焼き払う。
私は即座に詠唱を続ける。
...と同時に、詠唱に困った。
ここまでやっておいて、ベルを殺さない選択肢を取ると、神聖力が暴走する。
聖罰を下さなければならないからだ。
「厄介...だね...」
詠唱を中断した私は、一度下がる。
殺してはならない、だけどベルを止めるには最低でも魔王以上の力が必要。
理不尽すぎるような...
解決策を探し、私は天井付近にまで上昇するのだった。
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