Ep-734 雪兎
私は、横穴を進む。
進んでいるうちに、だんだん不安に駆られてきた。
ほんとに、この穴に意味はあるのかな? と。
さっき戻った方がよかったかな....氷自体に強度はあんまりないし、登山用ピッケルみたいに黒龍刀を使えば......いや、辞めた方がいいか。
「バーンなら飛べるかな?」
『無理だぜ! 俺たちだけならどこへだって行けるけどよ、お前を乗っけると無理だ!』
「だよね....」
私も悪魔たちも、「本来翔ぶ機能を持っていないが、魔術やそれに類する方法で飛んでいる」から、この横穴を進む以外は道がない。
「はぁ.....」
思えば、落ちてから何時間たったかも覚えていない。
気付けば、お腹がすいてきた。
もしこの先で広場とかになっていたら、ご飯にしようかな?
「クゥン」
「あはは、大丈夫」
浮かない顔をしている事を見られてしまったみたいだ。
シロが心配そうな目を向けてくる。
いけないな、私がこんなんだと....
「それにしても、悪魔がいないね?」
『ん?』
『いるぜ?』
「え?」
私が驚いていると、唐突にバーンが壁を吹っ飛ばした。
壁から、湯気のようなものが立ち上がる。
「.....これは?」
『こうやって、氷の中でしか生きられねえ下位悪魔がたくさんいやがる』
『名前が無くて俺たちみたいに形を取れねえから、氷の外では長く生きられねえみたいだな』
「なるほどね」
悪魔たちは実体がないけれど、こうやって生きている悪魔もいるみたいだ。
バーンとゴッツに聞いたところでは、この世界の魂の循環システムに悪魔は含まれないそうだから、魔法生物と性質という面では同じらしい。
「はぁ.....ん?」
私は正面に向き直り、それに気づく。
「あるじゃん、行き止まり」
急いで通路を抜けると、そこは明確には行き止まりではなかった。
上、左右に通路が分岐している。
やっぱり、ここは自然にできた場所じゃない。
気泡のような出来方なら、こんな形状にはならないからだ。
「みんな、ご飯にしよう!」
「ワォン!!」
みんな、と言っても....
コルは未だ目を覚まさないけれど。
私はインベントリから沼地用の野営キットを取り出し、断熱布を敷いてからファイアラットの毛皮を敷いて、火を焚く。
この場所は全てが氷のため、あまり火勢を強めると氷が溶けて崩落する可能性がある。
火に携帯鍋をかけて、そこにインベントリに入っている海藻スープを入れて再加熱する。
インベントリ内は時間が止まっているとはいえ、適温からちょっと熱いくらいが丁度いい。
「ふー....」
「ハフハフ」
コルを断熱シートに寝かせて、私とシロはスープを飲む。
結構熱いはずだけど、シロはがっつくようにスープを飲んでいる。
あと、シロにはお肉もあげた。
私は固形物のパンにチーズを乗せて食べている。
何か胃に入れておかないと、厳しそうだからね....
「あっ」
その時、私は思い出した。
魔王組と離れ離れになって居たら、ベルは今頃お腹を空かせているはず....
魔王組ならどうにでも出来るけれど。
早く出発しないと...
私はスープを飲み干す。
暖かい液体が、喉を通って胸に広がっていくのを感じる。
私は器を片付けようと、振りむいて――――
「.....え?」
双眸と視線を交わした。
広場に繋がる通路、そこに、人が立っていた。
「ま、待って!」
そこに立っていた人影は、良く見えないうちに通路へと引っ込んでしまう。
「シロ、ちょっとここで待ってて!」
私はシロ達を置いて、急いでその後を追った。
氷の道は長く複雑だ。
私は迷わないように、聖力を使ってマーカーを残して行く。
野営地に残しているコルが不安だけど、シロなら断熱結界が消える前に結界を張り直してくれるはず。
「ここは...」
氷の回廊を進む事、半刻ほど。
私はついに、開けた場所に出た。
「すごい...」
そこには、氷の中にあって氷の中ではないような景色があった。
氷柱の上に家が立っている。
その下を、薄緑色に光る水が流れている。
私の直感では、あれは魔力水だ。
魔力を使う際に、余分な魔力が発光するように、あの水も魔力が放つ光を放っている。
家も氷でできているけれど、純粋な氷でないように見えた。
「使えるといいんだけど」
私は、ベルから貰った情報を元に翻訳魔術を完成させていた。
こちらが喋る際に語彙が不十分なだけで、向こうの言ってる事はわかる。
「ごめんください」
私は分厚い氷でできた扉を叩く。
内部の気泡のおかげで、中まで丸見えというわけではないようだ。
『...どうぞ』
扉を開けると、中から暖かい空気が流れてくる。
どうやら、この氷もただの氷じゃないようだ。
「こんにちは」
『...こんにちは、新しき人』
扉の先には、広い玄関があった。
一段上がったところで、その「人間」は待っていた。
「人間」とは言ったものの、あまり人間に近いわけではなかった。
獣人族より、少しだけ獣に近い...兎の幼女、と言った様子だ。
「ここで暮らしているの?」
『そう、だよ...新しき人』
「ごめんなさい、新しき人、ってのは?」
兎の幼女は、一瞬考え込むように俯く。
そのすぐ後に、私の方を見てきた。
『ごめんなさい、新しき人ではなかった。古き王の友、あなたを私は、待っていた』
「古き王の友...何のことか、私にはわからないけれど...」
『あなたは明確には、古き王の友ではない。でも...その魂の輝きは、わたしの知っているもの、だから、わたしはあなたを歓迎する』
何だかよくわからないうちに話が進む。
魂の輝き...つまり、古き王はルシファーの友人だったって事だろうか?
でも、そんな存在がいるなら、そういう話を一度でも聞いたはずだ。
魔王たちは何も言わなかった。
神たちが隠したがっている、八百年前のタブーとか、それに触れる話なんだろうか?
『ここでは、ものは限られる。だから、こういったものしか出せないけれど...』
「いいえ、ありがとうございます」
私はとりあえず戻るのを後回しにして、この雪兎のような存在ともう少し関わり合いになることにした。
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