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【300万PV突破】不人気職の俺が貴族令嬢に転生して異世界で無双する話 ~武器使いの異世界冒険譚~  作者: 黴男
第一章 王都決戦編

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Ep-732 凍てつく世界

セベクを倒した私たちは、孤島にあった昇降機を使い、上層に上がった。

...のだが。


「寒っ!?」


昇降機の隙間から、強烈な冷気が染み込んできた。

私は急いで結界を張り、内部をダンタリアンが保温魔法で暖めた。


「なに、なんなの!?」

「落ち着いて、ベル」


昇降機の扉が開かない。

多分、隙間に氷が張り付いて開かなくなっている。

私はハルファスの方を見る。

ハルファスが私の結界に炎耐性を付与し、私は魔法を使う。


「プレゲトン!!」


予想通りというべきか、炎魔法を受けても昇降機は壊れなかった。

氷が吹き飛んだことで、昇降機の扉が開いた。

その先には...


「うわぁ...」

「ほ、本当にこの中を進むの?」


地面は氷。

見渡す限り氷であり、あちこちで柱のように鋭く先が尖った氷が隆起している。

外に出てみると、天井付近にも氷が張り付いていて、無数に氷柱が生えていた。

振り向くと、昇降機側の遥か向こうに、どういうことか雪雲が見えていた。


「...想像以上にヤバそうな場所だね、コルとシロは私から離れないで」

「はい」

「クゥン...」


私を含む魔術使用者は、この寒さでも最悪自分で身を守れる。

だが、コルやシロは孤立すれば寒さの中一瞬で体温を奪われて死に至る。

結界のような形で自分を覆えるものがなければ、コルの狐火でも意味がない。

それほど寒いのだ。


「とりあえず、移動しよう」

「ええ、そうね」


このままじっとしていても何も出来ない。

私たちは移動を開始する。

これまでのパターンから、昇降機は上がってきた昇降機と対角線上に配置されている。

だから、昇降機を中心に探索し、壁に突き当たったらその反対側に進めばいい。


「この地面、まるで元々海だったみたいね?」

「そうだね...」


もしかすると、下層と同じ海のある層だったのかもしれない。

上に生えた無数の氷柱も、下層にあった天井の水を支えていた何かが消えた際に、水が大瀑布となって落ちると同時に凍りついたような様相を呈している。

だからか、アイスバーンとはまた違った、純粋な氷の地面だ。


「ここを超えた人はいるのかしら?」

「多分、無理じゃないかな...」


厚着すればいいとか、そういう問題ではない。

ちょっと結界の外に出ただけで、目に氷が張り付き、口内が一瞬で薄い氷に包まれる。

恐るべき寒さが牙を剥くからだ。


「こんな環境じゃ、受肉してる悪魔は居ないかもね...」

『寒過ぎるぜ!』

『ああ...寒い...』


少しだけ外に出ていたバーンとゴッツが戻ってくる。

受肉していない彼等でも、この寒さはキツイらしい。

それに、受肉していても厳しいだろう。

この階層には、魔力がほとんど無い。

空気中に魔力がないので、いつもより魔力の消耗が激しい。


「そういえば、バーンってもう少し小さくなれるの?」


結界がユニコーンの体躯で狭くなっているので、私はふと聞いてみる。


『俺は好きでこの姿になってるからな...どんな姿がいいか教えてくれよ、採用するぜ!』

「だって、ベル、どうする?」

「私は...そうね、翼と角の生えた猫ちゃんとか?」

『おっ、それいいな!』


ベルの特殊な趣味が採用され、結界の中は一気に広くなる。

ユニコーンの身体が消え、バーンが額に角の生えた、翼を持つ緑の猫に変わった。


「ちなみに、これ...元ネタとかあるの?」

「あるわ。昔読んだ絵本でね、「小さなドラゴン」って言って、すごい強いドラゴンが、猫になって、恋したお姫様を守るのよ」

「バーンは多分、誰も守らないと思うけどな...」


それが悪魔の性質だ。

本人たちの意思には関係がなく、ある日突然方針を変えてしまう。

だから、信じ過ぎるのも危険だ。


「それにしてもベル、大丈夫? 疲れてない?」

「こっちの台詞よ、ユカリは大丈夫なの?」

「勿論」


セベク戦ではそこまで疲れていない。

ちょっと身体がきついけど、それだけで皆を待たせるわけにもいかないしね。


「魔界に行くって言ったから、不思議な光景とかあると思ったんだけど...ごめんねベル、本当に何も無いね...」

「だ、大丈夫よ、ユカリと一緒に旅行できるだけで、十分楽しいもの」


私は、恥ずかしくて目を逸らす。

逸らした先に、氷の壁があった。

その壁に、私が映っている。


「...!?」


その時。

壁の向こうの私が笑った気がした。

慌てて目を逸らして、もう一度見ると。

そこに私は映っていなかった。

改めて、確かにそうだと認識する。

私は、角度から見てもこの氷に映らないはずだから。


「どしたの、ユカリ?」

「...ううん、なんでもない」


私は慌ててベルの方を向いて、この事について忘れることにした。

そして、再び歩き出すのだった。




しかし、変わり映えのない景色に、私たちはすぐに飽きることになる。

いや、海よりマシなのだが、何より生物がいないことが大きい。


「暇ねぇ」

「うん、そうだね....」


今までの道中で色々話し過ぎたせいで、もう話題にするものもない。

無言が続き、その途中で少し会話が挟まるだけになっていた。


「....本当に悪魔も出ないわね」

「そうだね」


海の階層からもそうだったけれど、悪魔がほとんどいない。

この階層は何もいないのだろうか?

私はそれに疑問を呈するが、考えてもしょうがない。

この寒々しい場所には、記録も、媒体も、それを語る者もいないのだから。


「....ねぇ、向こうに何か見えない?」

「ん?」


その時。

ベルが先を指さして何か言ってきた。

ベルが指差した方を見ると、そこには氷山があった。

だけど、ただの氷山じゃないように思えた。

時折見かける氷柱ではなく、氷塊が生えているような感じだった。


「あっちに行ってみよう」

「ええ、そうね」


思えば、これが罠だったのかもしれない。

私達は誘き寄せられるようにそちらへ向かい、そして。


「......これは!?」

「ユカリ!!」


地面が砕け散る。

魔皇之翼(エール)〉は発動せず、私達は全員、穴の底へと落とされた。


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