Ep-731 決闘の終わり
光が収まった時、そこにセベクはまだ生き残っていた。
だけれど、鰐の体を維持できなくなったようで、元の姿へと戻っている。
「とどめだ...」
私が神魔術を詠唱しようとしたその瞬間。
「キサマ、ハ...」
どこからか声が響いた。
何が起きたのかと、私は周囲を見渡す。
だが、声を発しそうなものは何もない。
「キサマハ、王ノ認メル者ダ」
「...まさか」
セベクが喋った。
その口から、私の知らない古代語ではなく、魔族語...酷く鈍った魔族語が漏れ出たのだ。
セベクは震えながら起き上がり、その眼で私を見た。
「王ノ判断ニハ異議ガアッタ...ナゼコノヨウナ小娘ヲ試スノカト...シカシ、今デアレバ理解デキル」
「...待って、何の話を...」
魔族語で問いかける私だったけれど、通じていないのか向こうは意に介した様子がない。
あくまで今の魔族語に似ているというだけで、私の知る魔族語とは全く異なる言語なのかもしれない。
「小娘、我ト決闘セヨ」
「決闘って...」
今までがタイマン勝負で決闘みたいなものじゃないの?
私がそう考えていると、セベクは続きを口にする。
「命ヲ、賭ケ――――我ト戦ウノダ」
「なんで、そこまでする理由があるの!?」
「行クゾ」
やっぱり、言葉が通じていない。
私の言葉を無視し、セベクは槍を構えて猛然と向かって来た。
〈天魔之聖典〉を持ったまま、私は海神槍を右手に握り、
「クリムゾン・スラスト!!」
投擲する。
避けられない一撃じゃない。
ただ、セベクはこれを弾いてくるはず。
私にはそんな確信があった。
「アドベントウェポン! セブン・ヘブンス!」
七天破魔剣を手に握った私は、海底を蹴ってセベクへと肉薄する。
セベクは赤熱した海神槍を弾こうとして、槍でそれを受け止める。
だが、それは愚策だ。
海神槍が砕け散ると同時に、セベクの持つ槍にヒビが入り、真っ二つに折れる。
「アルビオン・ブレード!」
私は神聖力を纏った破魔剣でセベクを斬る。
その身体に傷が入り、再生することはない。
「―――――――――!」
武器を捨てたセベクは、そのまま無手で向かってくる。
私は拳を右腕の手甲で受け止めて、足の止まったセベクを蹴り飛ばす。
水中なので、私の全力の蹴りは水に受け止められ、セベクは思ったよりも短い距離を吹き飛んでいく。
「クリエイトウェポン、魔銀聖拳鍔・ミスリルフィスト!」
私はセブン・ヘブンスを消し、両腕に拳鍔を装備する。
向こうが素手になったなら、こちらも素手で行くべきだと判断して。
「くっ...!」
海竜之翼を装備しているとは言え、私の動きは緩慢だ。
元から水中で動くことのできるセベクには及ばない。
今までは聖力でゴリ押ししてきたけれど、近接戦に持ち込んだ以上はそれは意味がない。
「〈六皇護兵〉」
私の周囲に出現した六体の魔法人形が、一斉にセベクを抑えにかかる。
私はセベクが彼らを破壊するその隙に、彼の死角に回り込む。
「刮目せよ、これこそが水神の怒りなり、悪魔を討つ正義の拳...〈討悪拳光〉!」
詠唱の後、最後に破壊された護兵の影から現れた私は、セベクにその拳を打ち付けた。
セベクの全身が吹っ飛び、すぐまた元に戻る。
受肉していないからこそできる技だが、完全に元には戻らない。
何故なら私が今使った技は、悪魔特効。
海神の記憶の中にあった、「対魔王神術」の一つだ。
魔王たちの力の源が、魔神から生み出されたルシファーであると知った神族が生み出した、悪魔に対する特効兵器と呼べる最強の力。
「これを決闘で持ち出すのは卑怯かもしれないけど」
向こうは聖力で攻撃しなければ無限に再生する。
それなら、これくらいのハンデは許されてもいいはずだ。
「良イ、拳ダ...」
「ッ!?」
直後。
セベクの拳が目の前にあった。
数秒意識が飛び、顔を殴られたということに気付く。
「そっか、そうだよね...」
余波で、拳鍔が砕け散る。
これで後四日は使えない。
「命を賭けてるんだから...」
向こうは本気だ、なら私が、向き合わなくてどうするんだろうか?
「オーバー...ドライブ!」
スピリットバーニングの次。
私が新たに使えるようになった、限界を超えるスキル。
それで魔力を底上げし、私ははるか後方へ飛ぶ。
「水神の名を継ぎ、海神の宝冠を頂くこの我が命じる、理よ我に従属せよ、この場は我の神域である、ネモフィラの名に置いて理の力に命じる!」
長い長い詠唱を続け、私の魂が、神聖陣に高速で文字を書き込んでいく。
神聖陣を描く神聖陣が完成し、超高速で神聖陣を構築していく。
「我と契約する下位神たちよ! 我を崇め奉る者どもよ! 今、その力を、信仰を、少しばかり頂戴する! 」
今、人間界は昼だろうか、夜だろうか?
きっと全能神や雷神あたりは怒るだろうな...でも、ちゃんと理由を挙げて説明したら、怒らないでくれるよね?
「矮小なる悪魔よ、我が至高なる力の前に、膝を折れ、命を乞え、懺悔せよ...」
思ってもいないことだけど、詠唱だから許して、本当に許して。
私はそう考えつつ、神聖陣に聖力を流し込む。
私の存在は、魔王と上位神が同居している、所謂バグ状態だ。
だからこそ、私は自分自身を憎悪し、自分の弱点をよく知っている。
今詠唱しているのは、要するに特効薬だ。
相手によって調合を変える、特効薬。
「ここに「完」するは、罪禍の終局也。我が名に於いて、神敵を滅ぼす。〈神罰収束光槍射砲〉」
まるでめちゃくちゃ大きい砲台のような形状の神装兵器が、私の目の前に出現する。
実際は槍を飛ばすだけの発射台に過ぎないけれど、それで十分だ。
私は向かってくるセベクに照準を向け、引き金を引いた。
放たれた光の槍は、私の付けた名前の通り。
光輝く槍を放ち、槍の軌跡が光の道のように見えた。
「見事...也...!」
槍はセベクの体を貫き、直後爆ぜてその体を泡のように包み込む。
その結界の内側に、神聖力の爆発が巻き起こり、セベクの悪魔の肉体を粉々に破壊した。
光はそのまま消え去って、海は再び暗闇と静寂を取り戻したのであった。
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