Ep-730 海淵の決闘
「深き魔海に満ちる我が海の力よ」
私は水中へと飛び込み、詠唱を続ける。
膨れ上がる神魔力が、凶悪なほどの勢いを持って私の周囲に満ちる。
「今一度湧き上がれ、お前たちは見捨てられし水ではない、我が暴虐の前に屈し、無敵の万軍となりて我が傍へ、さあ」
詠唱は逐一私が考えている。
命令は傲慢でなければ神の力は使えない。
魔力の方も実は、尊大であればあるほど言う事を聞く。
神力は圧倒的な力で敵を捩じ伏せ、魔力は爪を研ぎ澄まし裏切る日を待っている力だ。
両方を従わせるなら、尊大かつ傲慢な口上が必要ってわけだね。
「...〈武甕槌〉」
私の手に、雷を纏った大槌が出現する。
これは武器じゃない、ちゃんとした神魔術であり...
「燦伐!」
詠唱した瞬間に私の手から離れ、無数の雷へと化してセベクへと迫る。
セベクはそれを回避しようと逃れるけれど、無駄だ。
どれだけ速く泳いだとしても、それこそ光の速度で泳いだとしても...魂の存在をロックする武甕槌は必ず当たる。
「雷神太鼓!」
私の周囲に、雷を纏った太鼓が複数出現する。
そして、すぐに私は神力だけを用い神聖術を行使する。
「海神の宝冠を戴く我が命じる、理よ屈服し、塩の導きを彼の者へ与えよ! 潮流動鎖!」
雷神太鼓に込められた力が解放され、八個ある太鼓から順番に雷弾が放たれる。
だが、それらは直進しない。
発生している潮流に乗って、確実にセベクに当たるように飛ぶ。
さっきから雷が海水の中で拡散しないのは、私がそれを抑制しているからだ。
まあ、感電したところでダメージにはならないけれど、収束が離散するので威力が落ちてしまう。
「――――――――――!!」
直後、セベクの肉体が肥大化する。
鰐人のような形態から、本物の鰐のように変化して、こっちに向かってくる。
「〈海竜之翼〉」
私は神聖術を使おうとして、気付く。
周囲の海水が高速で汚染されていることに。
海聖水が塗りつぶされ始めている。
「本気...って事かな」
「―――――」
セベクが襲いかかって来る。
私はそれを、海竜之翼による加速で回避し、距離を取る。
海毒水とでも言うべき液体が、私の居た場所を汚染する。
聖水の真逆だ、傷の進行を早め、魔力を高め、邪気を内包する、神力の抑制物質。
やっぱり、セベクは高位悪魔だ、神と戦う術を持っている。
「アドベント・ウェポン...イミテート!」
私は強引に、とある武器を複製する。
それがないと、海毒水に対抗出来ない。
「現れて欲しいな...海神槍!」
三叉槍が手に出現する。
流石に、人間界にいるカイの手から海神槍を奪うことはできない。
なので、ウェポンマスターの武器コピー能力と海神の権能の複製で無理やりコピーした。
ちゃんと性能は本物と同じだけどね。
「アルビオン・バースト!」
私の周囲の海水が一気に海聖水へと変わり、爆発的に拡散する。
すぐにそれらは消え、海聖水のみが残る。
「アルビオン・スラスト!」
私の周囲にある海聖水を全部使い、それら全てを海神の権能の弾へと加工する。
そして、向かって来るセベクに発射する。
「効いた!?」
今まで散々神魔力で攻撃したはずなのに、今更効く!?
何で効いたかを、私は分析する。
形態変化時に当てた攻撃は、殆ど効果がなかった。
じゃあ、もしかして...
私は海毒水との間に離散する海聖水を神眼で見やる。
もしかして、アルビオン・スラストって、海聖水を吸って強化される?
試してみるか。
私は海竜之翼で加速し、海神槍で海聖水をばら撒きながら距離を取った。
「アルビオン・スラスト!!」
再び放った海聖水の一撃は、セベクに当たったものの....効いていなかった。
どういう事だろう?
私は海神槍を構える。
そして、
「激流刺突!!」
海神槍のスキルで、突進してくるセベクに攻撃を加える。
同時に、押し寄せてくる海毒水を浄化して一気に海聖水へと変えた。
海聖水に満たされた周囲の海域を、セベクは急激に汚染させるものの、私はその隙を狙って攻撃する。
「アルビオン・スラスト!!」
今度は効いた。
やっぱりだ、汚染するために自分の存在を希薄にしているその瞬間なら、攻撃が通る。
「それなら...」
私は神聖術を準備する。
その間にも、セベクは私に肉薄し、その腕を振るって攻撃しようとする。
私はそれを躱し、がら空きの背中に蹴りを打ち込む。
セベクの巨体が海底に叩きつけられ、埃が舞う。
「水神の座を継承し、海神の宝冠を戴く我が命じる! 理よ屈服し、十二の刻の後に真なる神の力をこの場にて示せ! ――――〈神之名於・終ノ宣刻〉!」
海面に浮かんだ巨大な時計が、一回転するまでの間に、私はセベクへと肉薄する。
「アルビオン・バースト!! アルビオン・ニードルレイン!!」
聖なる波動でセベクの周囲の海毒水を吹っ飛ばし、その体に聖なる針を突き刺していく。
そして、頭上で時計が一回転した。
「これで、終わりだっ!」
時計が起動し、私を巻き込んで神聖力の爆発が巻き起こった。
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