Ep-729 鰐の王セベク
ベヒモスと共にまた一日航海した私たちは、ついに遠目に昇降機を視認した。
ただし、ベヒモスは付いてこない。
『この先には、王が配置した高位悪魔が居る。儂はお主らを導くが、その旅路の果てを知るのはお主らのみじゃ、せいぜいあの堅物を説得するのじゃな』
そう言いつつ、後方にはあの岩のような島がまだ見えている。
私たちの戦いを観戦しようという心算なんだろうな...
「行くよ」
私たちは足場を昇降機へと進ませる。
すると、海の底から一柱の悪魔が姿を現した。
二足歩行の...ワニ?
「――――――――――!」
「あー、ベル?」
「我の名はセベク、この海域を支配する者なり...だって」
古代語は分からないので、ベルに翻訳を頼む。
セベク...よくは分からないけれど、悪魔なのは確からしい。
「ルシファナエル―――――、――――――――――」
「ルシファー殿、我と一対一で戦わぬか、多対一は戦士の礼儀に反する...だって」
「―――――?」
「それとも臆したか? って聞いてるわ」
「...で、できらぁ!」
要するに、仲間なんて置いて掛かってこい、どうした...怖いのか?
って事らしい。
私は皆を見る。
「一人で戦ってもいいかな?」
「それがあの悪魔の望みであるならば、如何様にでも」
「危なくなれば、抱えてでも逃げれば良い事です」
「私は反対ですが...しかし、底の見えない相手です、ユカリ様がまずお相手されるというのであれば、様子見にはちょうどいいのかもしれません」
「ユカリ様、頑張ってください」
「頑張って、ユカリ」
概ね反対意見はないらしい。
私は向き直り、セベクの方を見た。
言葉は通じないけれど、セベク相手には行動で十分だろう。
「〈堕天之魔皇剣〉」
魔皇剣を抜き、海面に進み出る。
海は私の味方だから、私は海の上を歩くことができる。
「行くよ」
直後、目の前に槍を振り上げたセベクの姿が映った。
すごい速度だ。
「――――!!」
「〈海神之翼〉!」
私は水柱を立て、その中を泳ぐ。
セベクは同じように泳ごうとするけれど、私を追っても無駄だ。
私の進行方向と逆に生まれた水流が、セベクの動きを阻害する。
「――――」
「そこ!」
セベクが水流に絡め捕られたそのタイミングを狙って、私は水柱を消した。
上から斬りかかる形で、私はセベクに魔皇剣で襲い掛かる。
勿論、セベクはそれを槍の穂先で弾き飛ばす。
凄い力だ。
私の今の膂力でも敵う気がしない。
「――――!!」
「水よ.....覆え!」
セベクはそのまま水中に落ちるけれど、姿勢を変え水中から襲ってくるのが分かった。
私は海水を操り、自分の周囲に展開したうえで跳躍する。
「爆ぜよ!」
セベクも私を追って跳んでくる。
単純で助かった!
「アルビオン・ポーク!」
周囲の海水は既に海聖水と化している。
だからこそ、私はそれを神聖技で操る事が出来る。
剣のような形になった海聖水は、一斉にセベクへと襲い掛かる。
「〈魔皇之翼〉!」
しかし、セベクは海聖剣を弾き飛ばしながら、こっちへと向かってくる。
私は〈魔皇之翼〉を展開し、セベクとの距離を離す。
流石に空を飛べるわけではないようで、セベクは空中で速度を失う。
「〈九十九魔皇煌星群〉!」
距離を詰めたところで、魔弾による一斉攻撃でセベクを追い詰める。
どんなに強くたって、数百発の同時攻撃を防げるはずもない。
目論見通り、セベクは魔弾を捌ききれずに直撃を貰い、そのまま海面に叩きつけられる。
「やった!」
ベルの声が聞こえるけれど、まだだ。
この程度の魔術で、高位悪魔が深手を負う事はあり得ないんだから。
「海神の宝冠を戴き、水神の座を継ぐ我が命じる、理よ屈服し――――我が領域たる水中で....活動できるようにせよ! ――――〈魔装換装〉!」
素早く水着に着替えた私は、セベクを追って海中へと飛び込んだ。
「ストリームジャベリン!」
水流の槍を発生させ、セベクに向けて放つ。
もちろん通用するはずがない。
だけど、それが目的ではない。
水流を発生させたその手で、私は魔皇剣に触れる。
魔皇剣に嵌められた石の色が変わり、水色へと変化する。
「〈激流刺突〉」
私は魔皇剣を媒介に、魔王の魔術を使う。
剣先から放たれた水の刃は、セベクをノータイムで襲い、その体に傷をつける。
「――――――――」
直後、セベクが加速を始める。
私は水を蹴って加速し、セベクの遥か下へと回り込む。
「〈嵐帝之渦中刃陣〉」
セベクを囲むように渦が巻き起こり、その中にいるセベクを水の斬撃が切り刻む。
私はそれを確認すると、急いでその場を離れる。
「――――!」
直後、水中で破裂音が響く。
私が振り返ると、渦を突き破ったセベクが、猛然とこっちに向かってきているところだった。
「空転・追憶」
私はセベクに追いつかれる直前でその背後に転移、そのまま水面目掛けて加速する。
水面に飛び出す直前に反転、追ってきたセベクは水面の「飛び出そうとする力」に押されて上に吹っ飛ばされる。
そこを狙って、私は魔術を使う。
「〈紫之十字陣直撃砲〉!」
四つの菱形の照準器が、その下の魔法陣によってセベクの存在を空間に固定、絶対に避けられない...筈の魔法砲撃を放つ。
これが避けられる場合、セベクには空間操作能力がある。
四つの菱形が合わさり、十字へと変わる。
「発射!」
その瞬間、魔術は私基点ではなく独立した固定砲台へと変わり、紫色のレーザーをぶっ放す。
ちなみに、〈紫之〉というのは私の名前にあやかったものだ。
魔王たちが使う魔術環境で、私が最初に製作した、魔族式の魔術である。
海から出た私は、セベクが極光に貫かれるのを見た。
「勝った...?」
いや、こんなあっさり?
私が迷っていると、唐突にセベクが動き出す。
その体が霧状に変わり、魔術から抜け出したのだ。
「未受肉...? それで高位悪魔なの!?」
今までの高位悪魔はなんだかんだ受肉していたため、私は驚く。
だが、それなら話は楽だ。
未受肉の悪魔なら、受肉した悪魔より聖力に対して弱い。
「全力で行く!」
私は魔皇剣を戻し、神聖陣を描いた。
「〈天魔之聖典〉」
神魔力で、追い詰める!
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