Ep-75 狂い続ける歯車
ちょっと短めです。
俺はアレックス、クレルと共にテーブルを前にしていた。
俺自身はこういう経験は全くないが、謁見の時は落ち着いていたクレルとアレックスはガチガチに硬直していた。あれじゃ味もしなさそうだ。
「どうした?今日の料理は客人も食べるということで、更によりを掛けて作らせた逸品だ。料理人たちも当分はこんな料理は作れまい。味わって食べるがよい」
そう言ってジルベールは優雅な所作でパンを取って、バターを付けて食った。
そして咀嚼し味わう。
俺自身は腹が減ってしょうがないので、
多少の緊張はあれど前世でフレンチレストランに行くときに練習したマナーに則り、
目の前に置かれた肉を切ってフォークで食べる。
(なあ、ユカリ美味そうに食べてるんだが...)
(鋼の心臓かよ...)
横でクレルとアレックスがこそっと喋っているのが聞こえた。
この静かな部屋でこしょこしょ喋っても丸聞こえだよ。俺にも、王子様にもな。
「小声で雑談とは、仲のいいことだな。余にもユカリの話を訊かせてくれ」
「は、はっ!」
「何の話をすれば...?」
あ、この揚げ物美味いわ。
この世界に来て唯一の救いは、地球の料理が大体食えることだな。
次はチャーハンでも食うか。....匙が無いんだが、もしかしてフォークで食うのか?
フシギ文化だな...
「そうだな...ユカリは何を趣味にしておるのだ?」
「ユカリの......」
「......趣味?」
「何だ、お主らはユカリの恋仲だろう?趣味くらい知っておけよ」
恋仲?
何言ってんだこいつは...
そもそも、クレルにはシュナが、アレックスにはユイナがいるというのに。
「殿下、アレックスとクレルには既に恋仲の女性がいますよ」
「おお、そうか....それは悪い事を聞いたな」
王子はしまったなという顔で話を続ける。
あ、そうだ。何でここまで執着するのかを訊いておかねば。
「ところで殿下、何故私にここまで興味を持っておいでで?」
「ユカリがとても可愛いからだ....では駄目か?」
ジルベール殿下の台詞はとてもカッコいいが、そもそも俺はこいつと面識がない。
正妃もいるらしいし、何よりきちんと教育を受けている王族が、いくら可愛いからって貴族の娘にこんな待遇するわけないからな。
絶対に怪しい。ただ、それは王子から感じる怪しさではない。
王子自身はきっと純粋な思いで俺に好意を寄せているのだろう。...しかし、彼が操られているという可能性も捨てきれない。
俺は不安を胸に抱えつつ、パンにバターを塗り、齧った。
うん、美味い。
◇◆◇
同時刻、城下の貴族街の中でも、特に大きな貴族家にて....
明かりの一切ない部屋で密談をする者がいた。
「どうした?乗るのか、それとも乗らないのか...?どっちでも、私は良いですけども」
「いいや、信用に値しないだけだ。お前のその....美味しい餌を垂らし魂を食らう悪魔のような契約がな。」
「だが、手に入れたいのだろう?」
奥でカーテンのしまった窓枠に腰掛けていた小さな影が、ドアの近くに座る影へと近づく。
「あの少女が」
「ああ。あの少女を手に入れれば、俺は貴族どころか...王位簒奪すら可能だ。...それに、俺らしくもないが....あの少女はとても美しい。永遠に傍で眺めていたい.....」
「私に協力すれば、不可能ではないのだぞ?」
「...........わかった、協力しよう.....」
「ところで、この部屋はなんで暗くしているのだ?」
「.............ここは本来、俺とお前が居ていい場所ではないからな。だが、一瞬だけなら。」
男がそう言って、壁のレバーを下す、
すると天井のランプに火が付き、部屋が明るく照らされる。
それに応じて、二人の姿も浮かび上がる。
銀の髪に獣の耳を持ち、大きな尾を持つ少女と、痩せ型でやや不健康そうな男。
それは本来、絶対に巡り合わない組み合わせだったが、成り行きによりそうなった。
「じゃあ、ヨロシクな。ヴァーグ」
「こちらこそ。幻獣、マルコシアス様」
次の日。
俺はいつもの天井を見て目覚めた。
ジルベール王子から散々泊まって行かねえか勿論君の騎士も入れてな(キリッ
みたいなことを入れ続けたが全部断った。
ただ、断り切れず晩飯まで共にした。
クレルとアレックスはそれのせいで精神グロッキー状態になり、
帰りの馬車では俺が運転する羽目になった。
全く、女性に運転させる男がこの世界にいるとはなー。そういうのうるさいユイナが聞いたら卒倒しそうだ。
俺は朝のルーチンに則り、ベッドサイドの水差しから水を注いで飲んだ。
もう冬だが、室内は暖かい。
これはベルがどっかで買ってきた小型魔導暖房機のお陰だ。
魔石を一夜にして消費しまくるが、俺にはあまり関係がないな。
さて、ドアを開けてリビングに出て…
もうベルは起きているようだな。いつものように朝飯を作ってくれている。
今日は…多分スープと腸詰め肉、パンだろう。
昨日の夕飯が豪勢だったのを見越して、軽めにしてくれているようだ。
この配慮がありがたくて仕方ない…
俺は、洗面所にて顔を洗い(寮生は水汲みするのだが、寒い中水を汲まなくていいのは魔法使いの特権だとベルが言っていた。)、席について朝飯にありつく。
うーん、やっぱりこのパン美味しいよなぁ。王宮の物とさほど違いが無いのは小麦の質が違うからなのかな?何れにせよ、研究生っていうのは手間暇かけて物事に取り組めるってことだな。
コンコン
俺がウィンナーを口に運ぼうとした時、ドアがノックされた。
俺より先にベルが反応して、ドアを開ける。
「おぉ~いい匂いだな!腸詰め肉かぁ?いいなぁ~私にもくれないかなぁ~...」
ベルを無視して出て来たそいつは、鎧の重い音を響かせてリビングの机の前まで目を輝かせて寄ってきた。
だ、誰だこいつ...?
俺がジト目で見つめていると、そいつは突然直立した。
「おっと、失礼しました。私はエルミア....王宮騎士第十八番...ユカリ・フォール護衛秘匿部隊隊長です!」
どうやら、更に更に面倒臭いことになって行くようだ...
幻獣・マルコシアスは誤植でも化けて出たわけでもありません。ユカリが殺し損ねたというわけでもありません。
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