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79/202

79.パーティ結成


 心の準備ができてなかっただけ、アラタの切り出しはいくらか雑だった。


ARATA-RES:また手伝いをお願いできませんか?:FGS

MEILI-RES:んー、また? もしかしてアタシのこと好きだったりする?:FGS

ARATA-RES:いないんですよ、友達が。:FGS

MEILI-RES:ごめんね……:FGS

ARATA-RES:いいですよ、別に。それでどうですか?:FGS

MEILI-RES:そうだなー、現実シャンバラでデートしてくれるなら考えるよ?:FGS


 またそれか、とアラタは思った。

 というかこれはあまり良くない流れな気はした。

 前回アラタは同じ要求に対し、絶対に飲まないと宣言している。

 そして、それはメイリィも承知しているはずだ。

 それなのにそういった要求をしてくるということはつまり、乗り気ではないのだろう。


 ユキナとパララメイヤがアラタの様子を伺っていた。


「通じてるん?」

「通じてますが、あんまりノリ気じゃないような気はしますね」

「いい感じに口説いてや」

「いい感じと言われてもね……」


 先刻ユキナにも言われた通り、こういった説得はアラタ向きではない。

 それにメイリィに下手な駆け引きは通用しそうにない。

 だからアラタは直感に従うことにした。


ARATA-RES:したいのは山々なんですけどね、僕は出られないんですよ、この領域から。:FGS


 返信にはかなりの間があった。


 もうアラタは素直に今起きていることを言ってしまうと思った。

 メイリィはエデン人が何かをしていると聞いても気にしないだろうし、ありのままを話した方が興味を引けると思った。


MEILI-RES:どういうこと?:FGS


 食いついた。

 冗談だと思われなかったことは少々意外な気がしたが、突拍子もなさすぎて逆に疑問が湧いたのかもしれない。


ARATA-RES:話を聞いてくれるつもりがあるなら、直接会えませんか? ユキナ・カグラザカともう一人のフレンドと一緒にいるんで。:FGS


 言ってアラタは座標情報を投げた。


MEILI-RES:ちょっと面白そう。近くにいるからすぐ行くわ。:FGS


 メイリィは本当に近くにいたようだった。

 メイリィはものの三分で現れた。

 前に見た時と装備が違う。

 黒いゴスロリ調の衣装だ。今までとずいぶん印象が違って見える。


「チャオ! あら?」


 メイリィはパララメイヤを見ていた。


「どこかで会ったフワフワちゃんじゃない? アラタのフレンドだったの?」

「えーと、はい。フレンドでした」

「ふーん? ユキナといいフワフワちゃんといい女の子ばっかりじゃない。ハーレムでも作るつもり? もしかして手伝いってハーレム作りの?」

「違いますしたまたまですよ。とりあえず来てくれてありがとうございます。さあ座って」


 アラタはテーブルの空いている椅子を促した。

 メイリィは素直に座り、そこで注文していたデザートが運ばれてきた。


「あ、アタシもこの人と同じのお願い」


 とメイリィがアラタのパフェを指さしてウエイターに注文した。


「その、メイリィさん、あの時はありがとうございます」


 パララメイヤがメイリィに頭を下げていた。


「いーっていーって。半分は気まぐれだし」

「なんの話ですか?」

「エルドラの巣から逃がした時の話でしょ?」

「それです」


 パララメイヤが頷く。


「逃がした?」

「アイツらって他ゲーでもやってるけど、初心者利用して色々あくどいことやってるからねー」

「そうなんですか?」

「わたしも後から調べて、怖い噂を見つけました。だからあの時関わらなくて済んだのはメイリィさんのおかげです」

「ウチもそういう話は聞くなぁ。結構な大きさのコミュニティやけど、黒い噂もちょくちょく聞くね」


 まさか正気っぽい理由があったなんて思いもしなかった。

 アラタは気分で荒らしをしていたとばかり思っていたのだ。


「もしかして、あの時エルドラを壊滅させたのはそういう理由だったんですか?」

「いくらかはね。だいたいは単に気に入らないからだけど」

「じゃあなんで僕と戦ったんですか?」

「それはアラタがりたがったからじゃん。アタシは逃げてもいいって言ったし」


 そういえば言ってた気もする。


「アタシが気分で無差別PKすると思ってた?」

「思ってました」

「正直ね、そういうとこ好きだけど。アタシもさすがに無差別でやったりはしないかな。アラタ・トカシキは違うみたいだけど」

「しませんよ、僕も」

「そうなんだ? フォーラムではそういう話になってるけどね。つい最近も被害者が二人出たみたいじゃない? ちょっとした盛り上がりだけどまさか見てないの?」

「だから見れないんですってば」


 メイリィはそう言ったアラタをじっと見つめていた。

 品定めをされるような、目を背けたくなる視線だった。


「嘘を言ってる感じがしないけど、どういうことなの? 話してくれるから呼んだのよね?」


 アラタは話した。

 アラタがこの領域から移動できないこと、エデン人のこと、開放されるための条件と思われるもの。

 メイリィはそれを、茶化さすに聞いていた。


「なるほどねー、結構面白そうな話じゃない」

「僕にとってはクソほど面白くない話なんですけどね。しかし、そんなに素直に信じてくれるとは思いませんでした」

「だって嘘をつく意味がないじゃない。アタシを利用して何かしたいなら、もっとマシな嘘をついて手伝わせると思うし」


 確かにそうかもしれない。

 アラタも同じことを言われたら、逆に疑わないというのは大いにあり得る気がした。


「本題に入りますが、我々はヴィーア坑道に挑もうと考えています」


 そこにメイリィが先回りした。


「それでアタシに手伝って欲しいってわけだ?」

「その通りです。僕は友達が少なくて、前衛が必要なんです。助けてもらえませんか?」


 メイリィはそこで、めいいっぱいのいたずらっぽい笑みを浮かべた。

 嫌な予感がした。


「さっきアラタはさー、デートしたいのは山々なんだけどって言ったよね?」

「え、アラタそんなこと言ってたん?」

「いや、それは……」


 問答無用だった。

 メイリィは即座に、アラタとユキナとパララメイヤの三人に、先程の会話のログを送りつけた。


「めちゃめちゃ言っとるやんけ」


 アラタはユキナから目を逸らした。


「ということはつまり、その試練とやらをクリアしてシャンバラに戻れるようになったらデートしてくれるわけだ?」


 アラタは何も言えなかった。


「アラタ、男なら腹をくくりや」


 ユキナはアラタを助けるつもりはないようだった。

 アラタはパララメイヤに救いを求めるような視線を寄越すが、


「アラタさん、一度言ったことを反故にするのはちょっと。それに、助けてもらったらお礼くらいするべきだと思いますし」


 誰も味方はいないようであった。


 アラタはメイリィに向かって力なく頷いた。


「わかりましたよ……」 

「じゃあ助けたげる。面白そうだしね。それでシャンバラに戻れるようになったら一日デートね」


 メイリィの注文したデザートがようやく届いた。

 その時にはもう、アラタのパフェはちょっと溶けていた。


「それじゃあパーティの結成を祝って美味しくいただこか!」


 その日はそれで解散し、翌日までに各自ヴィーア坑道の情報を集めて準備をしておく、というところで落ち着いた。


 次なるダンジョンに挑む準備ができ、また一歩開放に近づいたのかもしれないが、開放の後にさらなる束縛が待っているのを思うと、アラタは頭が痛かった。

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