63.欠陥クラス
「すごいです!! ロボット、かっこいいですね!!」
と手放しに称賛したのはパララメイヤだ。
「ロボットやない。カラクリや、カ・ラ・ク・リ」
言いつつもユキナは得意げだ。
「ずいぶん気前良くスキルを使っていたようですが、大丈夫なんですか?」
アラタは今の戦いを見て気になっていた。
パイルバンカーもどきといい、ビームもどきといい、それなりのコストがかかりそうな攻撃に見えたからだ。
「ところがどっこい、タダなんよ」
「タダ?」
「ちょっと歩きながら話そうか、時は金なりや」
ユキナが先頭に立って歩き出す。
三人もそのあとに続いた。
「からくり士は色々特殊でな。カラクリのスキルは使用回数制限やMP消費はなし。けどタダって言っても使い放題ってわけやない。それぞれのスキルに固有の条件付きリキャストが設定されてるって具合や。ここがからくり士のおもろいところでな、敵との距離によってはリキャストタイマーが回らないんよ。つまり、近距離にいると近接スキルのリキャがは回らない。遠距離スキルも条件は同じ。スキルに頼らなくてもそこそこは戦えるけど、最大火力を求めるなら近接をブッパしたら遠距離戦、遠距離でブッパしたら近距離戦って交互に繰り返す感じやな。だから遠近両方できるって言っても、フルにスペックを発揮する場合は独自に動かなきゃアカンわけや」
確かにクセのありそうなクラスだ。
しかし、それを差し引いてもかなりの強クラスに思える。
使用制限なしに火力の高いスキルが実質使い放題なのはアラタでも魅力を感じる。
となれば、当然それ相応のリスクもありそうだ。
「弱点は?」
「ない、と言いたいところやけどめっちゃある」
「めっちゃあるんですか!?」
パララメイヤが立ち止まって大げさに驚く。
「メイヤちゃんリアクション美味しすぎや」
ユキナがケタケタ笑う。
「そいで弱点ね。あるんよ、それが世のかなしいところやな。まず金がかかる。プレイヤーの装備に加えてカラクリもカスタムしないと十分な性能は発揮できん。だから金が必要なんよ」
「お金大好きボッタクリ商人をしてるのもそのためですか?」
アラタが聞くと、ユキナは胸を張って答える。
「それは趣味や!!」
一切曇りのない笑顔に、兎耳がピンと立っている。
「お嬢、なんでそこで自慢げなんですか……」
「ええやん、胸を張って言える趣味って素敵やろ?」
「ボッタクリに胸を張らないでくださいよ……」
ユキナがハリセンを取り出してロンに襲いかかろうとする。
「あの、弱点、教えといてくれますか? そろそろボスも近そうですよ」
周囲の雰囲気がいつの間にか変わっていた。
鬱蒼としていた木々が徐々に減り、だんだんと開けた場所が多くなっていた。
ユキナは少し残念そうにしながらハリセンをしまい、
「せやんね。金がかかるってのはまあ戦闘中に関わることやないから弱点とは言えんかもしれん。本当の弱点は、本体が弱いことや」
「本体?」
「ウチやウチ。そらもう悲しいくらい弱い。キャスター以下や。全クラスが素手で喧嘩したら最弱はからくり士だと思うわ」
「それを補うようなスキルは?」
「移動系のスキルはさすがにあるし敏捷自体はまあまあってとこや。けど防御系のスキルは皆無。本体が使うスキルはカラクリに対するバフがほとんどやね」
ピーキーというよりも、特殊過ぎる、というのがアラタの感想だ。
これだけリスクがあったらカラクリの火力がかなり高めに設定されてるのも納得できる。
「キャスターより弱いって、そんなクラスあるんですか?」
「あるよー、メイヤちゃんって今HPいくつ?」
「えっと、108です」
「勝った! ウチは92や!」
「めちゃめちゃ負けてるじゃないですか」
「そうなんよ、か弱い乙女や。だから戦闘中はいつもウチのことを気にかけて、お姫様のように扱ってくれな」
そこでロンが深いため息をついた。
ロンはユキナを出たがりで周りが見えなくなると言っていた。
ユキナからクラスの説明を聞いてる限り、それはからくり士にとって致命的だ。
「まだあるで」
「そろそろ笑えないんですが」
「笑いとろうとなんてしてないわ。あともう一つヤバいのが、カラクリがやられた時やな。カラクリは丈夫やけど固有のHPが設定されとる。これがなくなったらカラクリはもう呼べん」
「呼べんってどういうことですか?」
「文字通りその日は呼べないんよ。カラクリの召喚は2日に1回のスキル扱いでな、システム的にはカラクリが自由に出し入れできるってバフが48時間つくんよ。それでカラクリが破壊されるとバフは解除される。スキルを更新したタイミングにもよるけど、最大48時間アルティメット役立たずの完成ってわけや」
「欠陥クラスじゃないですか……」
「なにおう! さっきの火力見たやろ? ウチの活躍に乞うご期待や!」
ロンがユキナの腕を褒めてはいたが、それにしても大した自信だ。
たぶんこの自信に確たる根拠はないのだろう。先が思いやられる。
「まあだいたいわかりました。要するに、ユキナはキャスターのように扱えばいいんですね。敵を近づけさせず、ヘイトも取らせないようにすると」
「ヘイトは基本カラクリが引き受けてくれるから大丈夫やけどね。近づいてくる敵に関しては頼りにしてるよ」
そうこう話しているうちに、目的の座標に近づいていた。
意外なことに、最初に出た敵以外に敵と出会うことはなかった。
サブクエストなので固定のエンカウントがないからなのかもしれないが、それにしても幸運だった。
少し先には、もう完全に開けた空間が見えていた。
中央には比較的大きな木があり、その周囲には不自然なほど何もなかった。
「あれは完全にボスだな」
「思ったより早かったなぁ、雑魚が出んかったのは経験値的には不味いけど、消耗なしで来られたのは有り難いわ」
ユキナが既にカラクリを出していた。
パララメイヤも杖を出している。
「しかしあれで大丈夫なんですかね? 古い霊樹って言ってましたけど、大きさ的に大した樹齢に見えませんけど」
「大丈夫やろ、指定された場所に生えてるんやし」
アラタも遅れて抜刀する。
単なるサブクエストで終わればいいのだが、頭には老人の姿がチラついていた。
「作戦会議とかする?」
ユキナが冗談めかして言う。
「やめときましょう。付け焼き刃の連携が上手く行くとは思いませんし」
「それもそうやな」
四人は、お決まりの広く開けたエリアに踏み込んだ。
葉音。
風がないのに、葉音がしていた。
ざわざわとした葉音は次第に大きくなり、不快な領域にまで達した。
中央にあった木の表面が盛り上がり、不気味な人面が形成された。
あやかしの霊木
HP2890/2890
「速攻で片付けるで!!」
ユキナがカラクリを走らせた。




