59.仕組まれた道筋
「特等ってなに!? なにしたらそんなん出るん!?」
ユキナが大げさな身ぶりで騒ぐ。
「日頃の行いですかね」
アラタはとぼけて答えた。
が、ユキナはその言葉を相手にせず、
「星を追うものってやつか? プロフから見たけど、イベントの発生率を上げるんよな」
そこでユキナはハッとして、頷き、顔を上げた時にはドヤ顔になっていた。
「こうなると思ってたんよ、ウチは。このガチャの大当たりだってイベントっちゃイベントやろ? だから引けると思ってたんよ、アラタの理念なら」
「いや絶対嘘でしょ」
アラタが言うとユキナは目を逸した。
「冷静に考えてみ。フレンドになったばっかの相手にデイリーガチャを手伝わせるとかどう考えてもおかしいやろ? 狙い通りや」
「いいですけどね、なんでも」
アラタは壊れた杖らしきものを手で弄んでいる。
「ところでこれですけど、なにかわかりますか?」
「壊れたアイテムですか? 武器には見えませんけど」
パララメイヤがアラタの持つ杖を覗き込む。
「直せば使い物になる、ね。あるんやろうな、何か直す方法が」
「ユキナさんは直せないんですか? 鍛冶師として」
「無理や。パララメイヤちゃんも言ってたけど……」
そこでパララメイヤが割り込み、
「メイヤでいいですよ、長いですし」
「そうか? とにかく、メイヤちゃんも言ってたけどこれは武器やない。修復して使えるようになるアイテムや。直せるとしたら錬金術師の領分やろうけど、どうやろうなー」
「どう、とは?」
「マジな話、サブクエのトリガーな気がするんよな。鑑定できないからわからんけど、職人がちょっといじって効果を取り戻すようなもんには見えん。魔道具を直してくれるようなNPCっておるんかな? ウチはレベリングに商売に忙しくて、そこらへんは詳しくないんよな」
「わたしも心当たりはありませんね。街はそれなりに探索してますけど、普通のアイテム屋しか。でもそういったところでも持っていけば何かわかるかもしれませんね」
「せやんなぁ、アラタはなんか心当たりない?」
ユキナの目には、アラタに心当たりはなさそうだが一応聞いているといった雰囲気があった。
しかし、アラタには心当たりがあった。
「なんとありますね」
「えっ、あるん!?」
ユキナは心底意外そうにしている。
「どこのNPCですか?」
「ここ、ガイゼルのNPCですよ。距離もそう離れてないですし、すぐに行けます。ただ……」
「ただ、なんなん? もしかしてやばいNPCだったりするん?」
「そういうわけじゃないんですけどね」
やばい何者かが絡んでいる気配はするが、心当たりの人物がやばいわけではなかった。
アラタの心当たりとは、アラタの右目を見て、何の異常もないと診断したドワーフだ。
名前は確か、ラーズグリフと言ったか。
あの男は去り際に、アーティファクトについて聞きたいことがあればワシのところに来いと言っていた。
たぶん、あの男のところに行けばこの杖の修理法がわかるはずだ。
それに関してアラタには確信がある。
しかし、そうするのはなんだか癪な気もした。
ラーズグリフと繋がったのは、この右目が起こした特殊イベントだと思われる。
そしてこのガチャにしても、理念がいたずらをした可能性が大いにある。
なにせ特等などどこにも書いてはいないのだ。
それどころか、あの老人が何らかの方法で店主に干渉していたとしか思えない出来事まで起きている。
どこまで計算通りで、どこまでが偶然なのかはわからないが、敷かれたレールの上を歩いている気配はしている。
――――それを追えば、お前の望むものに辿り着けるかもしれんぞ?
店主の口からは、そう発せられていた。
あの老人は、嘘をつくタイプではないと思う。
その道に何が仕掛けられているにせよ、ゴールには報酬を用意しているはずだ。
売られた喧嘩という気はする。
「どうしたんですか?」
「なんか気になることでもあるん?」
「いえ、なんだか面倒なことに繋がりそうな気もしてまして。二人はどうしたいですか?」
ユキナは即答した。
「ウチはやりたいな。商人の勘が美味いイベントだって言っとる。もしサブクエスト扱いになったら、貴重なアーティファクトに、経験値だって手に入るやろ? どっちにせよレベリングはせなアカンのやし、それなら適当なクエを受けるより、この杖を直すクエを受けた方がよっぽどおもろそうや」
パララメイヤは少し迷ってから、
「わたしも受けたいですね。ユキナさんの言う通り他のクエを探すより良さそうです。偶然引いた当たりから何かクエストに繋がったら、縁がある気もしますし」
本当に偶然ならいいのだが、とアラタは思った。
「僕はあんまり良い予感がしないんですけどね。二人は危険でも構わないんですか?」
「なに言うてるん? クエストなんてだいたいそれなりに危険やろ?」
ユキナは不思議そうにしている。
そこでパララメイヤは何かを察したようだった。
「わたしは構いません。アラタさんについて行きますよ」
目には揺るぎない決意の光があるように見えた。
「ウチもやる気マンマンやで! 最近引き籠もって製作ばっかやったから体も動かしたいしな」
どうしてこんなに気が進まないのだろうとアラタは自分でも不思議だったが、ようやくなぜかわかった。
巻き込みたくないのだ。
これは老人からの挑戦なのかもしれない。
アラタは喧嘩は買う主義だ。
自分一人だったら、迷わず特攻しただろう。
しかし、自分の喧嘩に友人を巻き込みたいとは思わないのだ。
しかも相手はエデン人だ。何があるかわかったものではない。
それで躊躇したのかもしれない。
「もしかして、報酬の分け前について計算でもしとるん?」
「してませんよ、ユキナじゃないんですから」
「せやったら早く行こ? 時は金なりやで」
「そうですね」
心配し過ぎだろう。
結局、アラタはそう結論を下した。
「では行ってみましょうか。ラーズグリフの研究室へ」




