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39/202

39.当たり屋


 食らった衝撃で即死攻撃ではないのはわかった。

 光が止み、視界が戻る。


 アラタはすぐにHPを確認する。


 アラタ・トカシキ

 HP48/110


 パララメイヤ・スースルー

 HP27/99


 半分以上のHPが一気にもってかれていたが、問題はそれだけではなかった。

 この爆発には状態異常付与効果があった。被弾したことでデバフがついている。

 幸運なのは、麻痺効果を防げたこと。ログにレジストの文字が確認できる。


 ただ、防げないデバフもあった。

 それは被ダメージアップだ。デバフの被ダメージアップ量は二倍らしい。全く笑えない数値だ。

 回復は時間経過のようだが、残り時間の表示が720sになっているあたり実質的な永続デバフと変わらない。

 

 そこからわかるのは、少なくとも同じ攻撃がもう一度来るということ。

 継続的な戦闘を不利にするだけではなく、二度のミスは許されないという設定なはずだ。

 二体同時に爆発させた場合即死になるような意味も兼ねているかもしれない。


 ネザーレイスが動き出す。

 再度手を掲げ四体の分身が出現し、その身が紫色のオーラに包まれる。

 ネザーレイスからの攻撃が再開される。


 アラタはネザーレイスからのマジックバレットを回避しながらパララメイヤに合流した。


 パララメイヤはアラタが合流する前からヒールをキャストしていたようで、合流すると即座に回復の光がその身を包んだ。

 戻りきらなかったHPを戻すために回復薬まで切ってHPをフルにまで回復する。


PARALLAMENYA-RES:アラタさん、もうヒールの使用回数はないです!

ARATA-RES:了解、どちらにせよ次はくらえません。

PARALLAMENYA-RES:次!?

ARATA-RES:たぶんもう一度来ますよ、とにかく分身を削りましょう。


 分身達のヘイトがアラタにあるうちに、二人は連携して分身を倒していく。

 ヘイトがパララメイヤに移ってからも、アラタは盾になるように分身とやり合う。

 デバフがある以上、分身の攻撃すらパララメイヤに当てさせるわけにはいかない。

 相変わらず本体のマジックバレットはパララメイヤ狙いで、被弾が笑えない今の状況ではできる限りパララメイヤの負担は減らしたかった。


 分身の処理を終え、ネザーレイス本体の紫色のオーラが解除される。

 

 ネザーレイス

 HP359/1244


 ネザーレイス本体にダメージが通る攻め時には違いないが、ここに全力を投入するかは難しかった。


PARALLAMENYA-RES:大魔法、行きますか!?


 アラタは接敵しながらも、パララメイヤからの念信に返事するまでたっぷり一秒は時間をかけた。


ARATA-RES:温存で!


 パララメイヤの返事に一瞬の間。


PARALLAMENYA-RES:わかりました。


 アラタも正しい判断かわからなかったが、直感を信じた。

 これだけであれば四人パーティの火力で苦労するはずがない。


 マジックバレットの乱射をを掻い潜ってアラタはネザーレイスの間合いへと切り込み、綺麗な一の太刀を見舞った。

 パララメイヤのマジックバレットも命中し、そこでネザーレイスの動きが変わった。


 アラタはネザーレイスを追撃しようとしていたが、その斬撃は紫色のオーラに弾かれることになった。

 何の前兆もなく、ネザーレイスが再度紫色のオーラを纏っていた。


 ネザーレイスが高速移動し、フィールドの端を陣取る。

 指揮者のように両手を掲げ、四体の分身が四角を描く陣形に配置される。


 アラタは既に走っていた。

 本体を無視して分身の元へ。


ARATA-RES:間に合わせます! さっきと同じく二体お願いします。


 この分身処理は、遠隔攻撃に優れたクラスの方が明確に有利だ。

 さきほどパララメイヤは二体処理していた。

 今度も二体任せて大丈夫なはずだ。


 あとはアラタが二体倒せればギミックは処理できる。

 

 最も近い分身を間合いに入れたところで、分身の周りにバリアが形成されようとしていた。

 アラタは構わず突っ込んだ。

 形成されているバリアに引っかかり痛みが走る。


 痛みがあるということは結構なダメージをもらったのかもしれないが、アラタはバリアの内側に入り込むことに成功した。

 中に入ってしまえば簡単で、分身体を即座に斬り伏せバリアが解除される。


 アラタは休むことなく次の目標へ向かう。

 パララメイヤはパララメイヤで、バリアにバレットの集中放火を浴びせていた。

 さきほどよりも無駄がなくなっている分だけ削りが早い。

 パララメイヤ側も二体目に取り掛かっている。


 アラタが二体目に接近する頃にはもう、印は結び終わっている。

 二体目のバリアに向かって、右手を銃のように構え、言う。


「雷神」


 放たれた電光にバリアが砕け散る。

 バリアが破れ無防備になった分身に斬りつけ、蹴りつけ、即処理する。


 パララメイヤ側も二体の処理に成功しており、全ての分身が姿を消していた。

 

 フィールド端にいるネザーレイスはまだ動き出さない。

 

 ネザーレイス

 HP124/1244


 分身とのHP共有でダメージを受けている様子だったが、10%ぴったりで止まっているというところが気になった。

 そして、未だに紫色のオーラを纏っているところも。


ARATA-RES:メイヤ! 詠唱を初めてください!!

PARALLAMENYA-RES:ここでですか!?

ARATA-RES:いいから!!


 アラタは走り出していた。

 端にいる本体へと。


「連なる力よ、我が手が束ねん」


 パララメイヤが詠唱を始めている。アラタの耳に歌うような声が聞こえていた。

 

 アラタの読みは当たった。

 ネザーレイスが、バリアを張ったのだ。

 ネザーレイスを中心に半球状のバリアが現れる。


 これが問題のDPSチェックに違いない。

 分身四体でのDPSチェックをさせた直後に、最後の関門となる削りを用意する。

 分身四体の攻撃を一度見せている分、初見だと二度目は全力で処理するはずだ。


 その直後に本命のDPSチェックを入れる。直前の処理でリソースを割いたパーティは、最後の関門で火力を出しきれず処理に失敗するという寸法だろう。

 時間内にバリアを破壊出来なければ、即死級の全体攻撃が来ることは賭けてもいい。


 アラタは突撃した。

 ヤケクソな斬撃に、蹴り、肘打ち。

 壁殴りのようで不格好だが、もうそれしかできることがない。


 バリアの中にいるネザーレイスは不気味に鳴動していた。

 紫色のオーラが徐々に広がっているように見える。


 アラタの攻撃にバリアは微かに縮むだけで、このままいくら殴ったところで壊せそうにはない気がした。

 仮に壊せるとしても、それが時間切れより早い可能性は皆無だ。

 

 パララメイヤの攻撃はまだ来ない。詠唱が長い。中にいるネザーレイスのオーラはさらに広がっている。

 パララメイヤに念信を送ろうとしたところで、向こうから念信が来た。


PARALLAMENYA-RES:おまたせしました!!!!


 アラタはバリアから距離を取る。


「嵐を生み出せし力よ! 我が意に添いて万難を排せ!!」


 バリアを、竜巻がごとき風の力が覆っていた。

 風の力がバリアをねじ切ろうとしているのがわかった。

 金属が引っ掻かれているような、不快な金切り音が響いている。

 鉾と盾が互いの役目を果たさんとせめぎ合っていた。


 そうして風が止む。


 バリアは小さくなりこそすれ、まだ健在だった。

 まずい。完璧なタイミングで大魔法を使ってすら、DPSチェックをクリアできていない。

 アラタの雷神もリキャストタイムが開けるまでもう少しかかる。

 アラタの脳裏に、敗北の文字が過ぎった。


PARALLAMENYA-RES:まだ近づかないでください!!!!


 アラタは、戦闘ログの文字を目で追っていた。


 PARALLAMENYA:CAST>>連続魔カスケード


 ネザーレイスの周囲の地面が隆起し、刃となって襲いかかっていた。

 

 バリアが、割れる。

 バリアが割れるSEは、ガラスが割れる音にどこか似ていた。

 ステンドグラスが砕け散るが如きエフェクトに、アラタは突っ込む。


 その時にはもう、ネザーレイスのオーラが解けていた。


 アラタは刀をネザーレイスに突き刺した。

 そのまま抜かずに徒手空拳で攻めにかかる。


 ネザーレイス

 HP103/1244

 

 練気に注ぎ混むだけのMPは残している。

 高速回転の攻撃だけならば、忍者刀での斬撃よりもむしろ打撃の方が早い。


 ネザーレイス

 HP81/1244


 思った以上に削れない。さきほどまでとは硬さが違うように思える。

 パララメイヤの援護は期待できないだろう。

 先程の二連大魔法で間違いなくMPを使い切っている。

 アラタは一心不乱に攻め続ける。


 ネザーレイス

 HP68/1244


 そこで、ネザーレイスが吠えた。

 

 縮地を切ったのは、反射に過ぎなかった。

 突然のノックバック。アラタはそれを縮地で打ち消していた。


 目の端に、悪夢のような光景が見えていた。


 バリアが再び形成されようとしている。

 また今と同じDPSチェックが繰り返されようとしている。

 今度バリアを貼られたら、残ったリソースでは絶対に割ることができない。

 となれば全滅は確定的だ。


 幸か不幸かわからないのは、アラタが形成されようとしているバリアの内側にいることだった。

 分身が爆発した時は、バリアから衝撃波が発生しているように見えた。

 このまま内側にいれば、抜け道のように即死技を回避できる可能性はありそうだ。


 その場合、バリアの外にいるパララメイヤは絶対に助からないが。


――――わたしを見捨ててほしいんです。


「わかりました」


 迷っている時間はなかった。

 バリアが形成されるまで、あと五秒もないだろう。

 普通にやっていたら五秒でネザーレイスを削り切るのは不可能だ。


 アラタは後ろへと飛んだ。

 その両手は、最速で印を結んでいる。


「それならこれでいきます」


 アラタは、バリアが形成されるその場へと割り込んだ。

 さきほど、バリアに当たり判定があるのは確認している。

 バリアを形成しているのはネザーレイスであり、それならばカウンター扱いになるはずだ。

 それが例え当たり屋の仕事じみた無茶苦茶であろうとも。


 右手は銃の形。


 言う。


「同撃雷神」


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