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190/202

190.面白い冗談の条件


 楽しいと思うことをするのだ。それがメイリィなりの電脳世界シャンバラでの生き方だ。

 そんなメイリィにとって、シャンバラの危機などというのは面白くない冗談だった。

 滅茶苦茶というのは結果が笑えるからやるものだ。

 世界の崩壊はまったく笑えない結果だ。

 

 そんな結末が控えているとなると、メイリィとて真面目にやるしかなくなる。

 その真面目の結果がこれだ。


 メイリィはひとりアヴァロニアの出口付近で待ち構えていた。


 役割に不満がないわけではないが、自分が最適だというのもわかっている。

 

 アラタ・トカシキ。初めに戦った時は、その他大勢のうちのひとりだと思っていた。

 気に食わないユグドラに喧嘩を売ったら、なぜか喧嘩を買った勘違い野郎としか思わなかった。


 そこでメイリィは一度負けた。


 紙一重の戦いではあったし、メイリィ側に油断があったのも間違いない。

 それでも負けは負けだった。悔しかった。


 だからリベンジをした。

 今度はアバターの性能が変わらない領域で、ガチンコの対決を。


 結果はまたしても敗北。


 その時点で、メイリィはどこかアラタに憧れるような気持ちが芽生えていたのだと思う。

 いつか辿り着きたい目標とか、そういった感情が。


 それも事情が変わった。

 ヴァン・アッシュ。

 アラタが手も足もでなかった男。


 あんな人間がいるとは思わなかった。

 絶対に勝てないシステムを相手にしているような感覚。

 メイリィがそうなりたいと思ったアラタを子ども扱いしていた。

 上には上がいるという言葉はあるが、自分がそれを感じさせられるとは思いもしなかった。


 そうして3rdフェーズだ。

 3rdフェーズに入ってすぐにわかった。

 アラタの雰囲気の変化に。


 具体的にどう変わったかはわからないが、強くなったというのはわかる。

 たぶん、アラタはもうメイリィの手の届かないところにいった。

 ヴァン・アッシュもきっとそこにいる。


 それがメイリィには悔しく、どこか寂しくもあった。

 本来ならメイリィもそこに混ざりたかったが、それが無理というのもわかっていた。


 だからメイリィはあえて面白くない役割を買ってでた。

 面白おかしく遊ぶのはこのふざけたなにかが終わってからでいい。


MEILI-RES:いい加減出てきたら?:SHOUT


 わざわざ範囲を絞っての念信を飛ばした。

 すると、アヴァロニアを囲む防壁の影からひとりの男が顔を出した。

 顔中にタトゥーを入れたトカゲの亜人。

 プレイヤーネームにはギャレットとある。


GARRETT-RES:なんでお前がひとり残ってるんだ?

MEILI-RES:なにもわかってないイカレ野郎に状況をわからせてあげるためかなー。

GARRETT-RES:あ? イカレ野郎ってオレのことか?

MEILI-RES:他に誰がいるの?

GARRETT-RES:言っとくけどなァ! オレは何が起こってるかわかってんだよ!

MEILI-RES:へぇ、教えてくれる?

GARRETT-RES:これはよ、イカれたエデン人の実験なんだよ。領域を閉鎖したら中がどうなるかってな。


 当たらずとも遠からずと言ったところなのが少し面白かった。


MEILI-RES:それで? よくわからない敵まで湧いてすごいことになってるけど、そんな状況になっても人狩りなんてしてるアナタはなあに?

GARRETT-RES:目立ってんだよ! そうすりゃエデン人の目にもつくだろ? ギャレット様がこの舞台の主役になるのよ!! なのにオレより目立つ奴らがいる。ソイツらを消せばオレがナンバーワンってわけだ!!


 メイリィはギャレットが何を言っているのか理解できなかった。

 今まで人狩りをしている奴らを狩ってきたが、こうまでストレートなバカは初めて見た。

 今までに相手をしてきた連中には本当の狂気があった。

 しかし、ここにいるのは単に途方もないアホだ。

 とてつもない肩透かしに力が抜けそうになる。


 だが、途方もないアホもバカにできたわけではない。

 ギャレットは他の遊技領域でもイカれたプレイヤーとして有名だ。

 メイリィですら知っているレベルではある。


 それに腕だってなかなかのものらしい。

 単独で行動している以上フクロにして終わり、という手もあったが、何を考えているかわかっていなかった以上危険を冒したくなかった。

 さらに言えば、万が一誰かがやられてしまうような可能性を消したかったのもある。

 多体一でも誰か一人を狙って一矢報いるのは不可能ではない。

 そうなればアラタにどんな影響があるかわからない。


 この状況で誰かがやられたら、アラタが動揺する気がした。

 平静を装って、自身でも気付かず死ぬほど動揺するのだ。

 いかにもありそうな話だ。その可能性を一ミリも残したくなかった。

 

 だからメイリィは残った。


GARRETT-RES:しかしアンタが誰かを守るんて意外な話だな。

MEILI-RES:何が意外なの?

GARRETT-RES:アンタもオレと同じ穴の狢だと思ったからさ。この祭りに乗っからないなんてな。


 メイリィは、アラタとの差を思い出した。

 悔しくはあるが、今は頼もしくもある。

 アルカディアが始まってすぐにメイリィの目に指を突っ込んだあの男は、今や救世主様だ。

 そして、ヤンが言っていた通り適任はあの男しかいないと思う。


MEILI-RES:舞台に上がるにはね、実力がないとダメなの。

GARRETT-RES:アンタにその実力がないと?

MEILI-RES:ないわ。だからね、実力がないのに舞台に上がろうとするバカを追い返すことにしたの。

GARRETT-RES:それはもしかしてオレのことか?

MEILI-RES:あらわかるの? 実は天才なのかしら。

GARRETT-RES:バカにしやがって。


 亜人の表情はわかりにくいが、ギャレットが怒っているのは明白だった。

 両手にクロウを出し、メイリィに向かってゆっくりと歩いて来る。


GARRETT-RES:ぶっ殺してやる。

MEILI-RES:どうぞ。できるならね。


 ギャレットが突っ込んできた。

 一直線で速い。メイリィが大鎌を抜刀する前に隣接された。


 左右の爪が襲いかかり、メイリィは体捌きだけでそれをなんとか躱す。

 大鎌を防御に使う間はなく、下がろうにもギャレットの前進の方が速い。

 ギャレットの猛攻が続き、メイリィは反撃すらできない。


GARRETT-RES:どうしたぁ! 口だけかぁ!!


 ギャレットが右手の爪でメイリィの脇腹をえぐろうとした。


 うん。

 メイリィは内心で頷いて、大鎌を動かした。

 

 最速の動きで大鎌の柄尻がギャレットの足元をすくった。

 ギャレットは尻もちをつき、何がおきたかわからないといった表情でメイリィを見上げている。


 アラタ・トカシキやヴァン・アッシュに比べたらまるで赤ちゃんだ。

 メイリィは悲しいほどの差を感じてなんとも言えない気分になる。


MEILI-RES:どうしたの? 口だけだった?

GARRETT-RES:待て!


 待たなかった。

 ギャレットの首が宙を舞った。


 つまらない戦い方だ。

 アラタの好きそうな戦い方だ。

 わざと手加減して相手を調子に乗らせ、隙をついて一瞬で勝負を決める。


「悪いわね。今のアタシは真面目なの」


 メイリィは大鎌を納刀して動く。

 死体を見もしない。

 進むのは引き返すのではなく、アラタが向かった方向だ。


 どうせまた何か面倒事が起きているはずだ。

 それならば、力になろうと思う。


 そして、このふざけた騒動が終わったらまた気ままにやればいいのだ。

 冗談は平和の中でこそ面白い。

 

 冗談を面白くするために、メイリィはこの騒動が終わるまでは真面目に動こうと思う。


 ニルヴァーナのメンバーに合流するために、メイリィは走り出した。

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