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165.予想だにしない決着


 ユグドラの拠点までの道中は、驚くほど妨害がなかった。


 アラタはユグドラの拠点までたどり着き、倉庫の上へと登った。

 天窓から中を確認する。


 倉庫の中には五人の人影があった。暗くてはっきりは見えないが、知っている姿が一人ある。

 ツイてる。そこにはリステンリッドの姿があった。

 逃げ回って隠れる選択肢もあったはずだが、拠点で迎え撃つ選択をしてくれたらしい。


 ただ、その分警戒はしなければならない。

 リステンリッドの他には四人いる。おそらくリステンリッドを守るための手練れだろう。

 全員の相手をするのは絶対に無理だ。リステンリッドをなんとかやって、離脱する形になる。


 大きく息を吸ってから、吐いた。


 アラタは忍者らしく奇襲を仕掛けることにした。

 流星刀を抜刀。天窓の番を外して、そこから侵入した。

 頭の中のアクセルを一気に踏む感覚。意識を臨戦態勢へと移す。

 天井を蹴り、勢いをつけて最速で地面へと落着する。

 そこから間髪入れずにリステンリッドへと突撃した。

 

 五人の意識がアラタに集中しているのを感じるが、リステンリッド以外は何も見ない。

 最速の突き一発で仕留める。


 リステンリッドの反応は、二手は遅れている。

 まさかいきなりアラタが降ってきてキルしにくるとは考えていなかったのだろう。


 多数の動きは感じるが関係ない。

 踏み込みは鋭く、対応を間に合わせない暴力的な速度でアラタは踏み込んだ。


 った。


 アラタの刺突は、リステンリッドの眉間を正確に捉えていた。


 しかし、その一撃が眉間を貫くことはなかった。


 アラタの流星刀は、ピタリと止められていた。


 横からの割り込みで、素手によって。


 真剣白刃取り、しかも片手で。


 あり得るのか、そんなことが。最速の刺突だったはずだ。仮にアラタが防御に回る側だったとしたら受けきれる自信はない。それがこんな形で防がれるなんて。

 冗談ではないが、目の前で起きたことに対処しなくてはならない。

 

 追撃か、離脱か。


 アラタの直感だと離脱だ。あの速度の攻撃を片手で止めるのは普通ではない。


「えらく生きの良いのが来たな。これが俺等を雇った理由……って、お?」


 アラタの刃を止めた相手が、アラタを見て驚いていた。


「は????」


 そしてアラタは、それ以上に驚いていた。


 ヴァン・アッシュがいた。

 アラタの流星刀を握り、間の抜けた顔でアラタを見ている。


 対応が遅れた。

 既に全員が臨戦態勢に入り、四方から殺気を感じる。

 リステンリッドも一歩退き錫杖を取り出している。


 マズすぎる。

 必殺の罠に飛び込む覚悟はあったが、その中心で立ち止まって迎え撃つ覚悟はなかった。

 五対一、しかも一人はヴァンだ。このままいけば絶対に負ける。


「あー、ちょっと待ってくれ。知り合いだ」


 ヴァンが場の雰囲気に似つかわしくない、適当な感じのする声で言った。


 果たして、全員の動きが止まった。

 ひとまず即座に集中攻撃を受ける危機は去ったのかもしれない。


 どうすればいいのか。いきなりのヴァンとの再会で頭が回らない。

 なぜここに、としか考えられない。


「その知り合いがぼくを狙っているんです。仕事はしてくださいよ」


 リステンリッドが言った。目には警戒の色、手には錫杖。ことと次第によってはヴァンごと巻き込んで攻撃しそうな気配まである。

 ヴァンが刃を握る手を放した。


「まいったな……」


 アラタは構えずに脱力する。ここで戦闘を決定的にするのは得策ではない。

 ヴァンに念信して助けを求めるべきか。

 それとも離脱を図るか。

 ヴァンが乗り気ではないのは明らかだ。それなら逃げる目はまだある。


「まさか裏切ったりはしないですよね?」


 リステンリッドがヴァンへと問う。

 ヴァンは首を傾げながら、


「あー、まあ裏切るかぁ」


 仕方がない、そういった口調だった。


「なにを……」


 ヴァンの右手に大剣が現れ、その大剣が動いた。

 あまりにも自然な動きだった。

 ヴァンの大剣が奔り、リステンリッドの首を狙った。

 そしてそのまま、リステンリッドの首が宙を舞った。


 誰も、反応できなかった。

 絶対に当たる。絶対に死ぬ。ヴァンの大剣はそんな動きをしていた。

 見ている側としては当たり前のことが起きている以上には考えられず、ことが終わってようやくその重大さに気付いた。


「貴様!!!!」


 護衛だったであろう一人が、ヴァンへと飛び込んだ。

 ヴァンはそれを無視し、正反対にいた男へと跳んだ。

 短い跳躍、トスリと着地。そしてその大剣は、正反対にいた男の胸に突き刺さっていた。

 男の両手には、光の球が生成されていた。何かしらの魔法なのだろうが、本人のデスと同時に、それは効力を発揮せず消失した。


 ヴァンを狙った男が追いついた。

 素手での攻撃を目論んでいるようだ。

 アラタから見たら、既に結果はわかっていた。


 ヴァンを殴ろうとする手が内側から巻き取るようにいなされ、ヴァンの右手が男の左耳を捕獲していた。

 そのまま耳を掴んで動きをコントロールし、気付けば背後から男の首を捻じ折る形になっていた。


 ヴァンの手が放され、首がおかしな方向に曲がった男がドサリと地面に崩れ落ちる。


VAN-RES:さて、残ったお嬢さんはどうする? 死体を守るために俺と遊ぶか?


 残った女は激しく首を振り、怯えた目でヴァンを見つめたまま、後ろへと跳んで離脱していった。


「大した奴らじゃなかったな」


 ヴァンが大剣を振ってその血を拭った。


「あの、師匠? なんでここに?」

「報酬に釣られた」

「はい?」

「3000万マニーくれるって言ったからな。遊戯領域にいるなら領域内通貨はどうしたって必要だ。こんなに手っ取り早く稼げる話もないだろ」

「それはそうですけど……」


 というか、リステンリッドは本当にキルされたのか?

 アラタが見ると、そこにはリステンリッドの首が転がっていた。

 一応は蘇生待ちという形だろうが、時間内に蘇生されることはないだろう。


 つまり、ユグドラ対ニルヴァーナのいざこざはこれで終わりなのか。

 ユグドラ側のマスターが討ち取られた。外部の人間が判断をするのに、これ以上わかりやすい決着はないだろう。


「というか師匠、あの後どうしたんですか?」

「あの後?」

「飲み込まれたじゃないですか! 変な穴に」

「ああ、あれか。まあまあ楽しめたってところだな」


 やはりヴァンはあれしきのことでやられるプレイヤーではなかった。

 アラタそのことに密かに喜びを感じる。


 それと同時に、かなり戸惑ってもいた。

 またしてもいきなりの再会、突然のユグドラとの決着、この状況をどう考えればいいのか。


「なんだかしまらない形の再会になっちまったな」

「そうですね」


 アラタは笑う。

 ヴァンは後頭部をぽりぽりとかき、


「じゃあまあ、二人になったし殺し合うとするか」

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