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163.用心深い男


 ユグドラのマスターであるリステンリッドは拠点で待機していた。

 アヴァロニアにある倉庫のひとつを仮の拠点とした建物だ。


 今はこれ以上出来ることもなく、うった策の結果を待つしかできない状況だ。


 ニルヴァーナ側がこちらの襲撃を意識していたのは理解していた。

 ニルヴァーナのメンバーは常に二人以上で行動していたからだ。

 それは自然な範囲を越えていて、襲撃を警戒していたのはあからさまだった。


 だから、最初の襲撃は十分な人数をもって仕掛けることにした。

 それが、両方失敗した。

 ナメたつもりはないが、悪い目が出てしまった。


 それでも状況は依然こちらが有利だ。

 ユグドラのメンバーを動員してニルヴァーナのギルドハウスを包囲した。

 これでアラタ・トカシキ。メイリィ・メイリィ・ウォープルーフ。ヤン・イェンシーの三人を封じたことになる。


 あとは女王杯本戦開始まで待てばいい。

 かなりの確率でアラタ・トカシキは強引に包囲を破りに来るとは思う。

 座して敗北を待つよりは、破れかぶれだろうが可能性に賭けた方が良い。

 

 もちろんその対策もしている。

 もしもニルヴァーナが打って出てきた場合、ヤン・イェンシーを集中攻撃するように指示してあるのだ。

 こちらとしては、女王杯登録メンバーの誰かをキルできれば最低限の目的は達成となる。

 それならば狙うのはヤンだ。まずクラスが多対一に向いていない。それにアラタ・トカシキとメイリィが多対一を得意としているのは明白だ。消去方でそれが最善といえるだろう。

 こちら側のメンバーにどれだけ被害が出ても、一人をやればそれでユグドラの面子は立つ。


 ただ、入れ込みすぎている気はしている。

 ユグドラのメンバーからも不満は出始めていた。

 なにせ、交代制とはいえニルヴァーナのギルドハウスを二日以上も監視させるのだ。

 相応の対価を約束しているが、それでも不満はあるだろう。


 初めはミラーのひとつで起きた事件が原因だった。

 ミラー42で勧誘を行っていたメンバーが全滅させられたのだ。


 犯人はメイリィ・メイリィ・ウォープルーフ。

 信者もアンチも多い、面倒な有名プレイヤーだ。

 そしてその腕前は折り紙つき。

 そんな面倒な相手をするよりは、というわけで偶然現場で目撃されたアラタ・トカシキを犯人に仕立て上げた。


 それが間違いだった。

 下手をすればメイリィよりも面倒なプレイヤーだ。

 この拠点にまで誘い込んで逃げられるとは思わなかった。

 新しい遊戯領域で無名の怪物と出会うことはままあるが、こうして敵対することになるとは運がないとしか言えない。


 それにアラタ・トカシキは性格にも問題がある。

 絶対に和解したりはできないタイプだ。

 負けず嫌いで、変な正義感があり、しかもこだわりも強い。

 それはあの時の対峙でよくわかった。

 やるかやられるかになるだろうことは、拠点から逃がした時点である程度理解していた。


 だがまあ、勝ちは近い。

 ギルドハウスの囲みから無事抜けるのは不可能に近いだろう。

 だから、リステンリッドが最も警戒すべきは、弁髪大納言である。


 馬鹿げた名前だが、その馬鹿げた名前が最も警戒すべき相手になっている。


 ニルヴァーナを女王杯に参加できなくすれば、ユグドラ側の面目が立つ。

 逆に言えば、ニルヴァーナが参加できるのにユグドラが参加できないなんて事態になればそれは最悪の結果だ。

 二つのギルドが揉めていると流した噂がそのまま自分に跳ね返ってくる。


 だからこそ、正体不明の弁髪大納言は警戒しなければならない。

 考えられる負け筋は、弁髪大納言からの一点突破だろう。

 自由に動ける正体不明のそいつが、こちらの参加者をキルしたらどうしようもなくなる。


 そのためにユグドラ側の女王杯参加者である、エーデ、ガス、シータ、ワンの四人には開催までログアウトしてもらうことになった。

 四人の不満も酷かった。実力を疑っているわけではなく転ばぬ先の杖だが、ログアウトする側からはそう割り切れるものではない。

 実力を疑われているかもしれない上に、遊ぶことすら封じられるわけだ。いい印象がつくはずはない。

 まったく割に合わなすぎる対策だ。

 

 それでも喧嘩を始めた以上は勝たなければならない。

 ここまでやって女王杯に参加できずに恥を晒したらどうなるかわからない。

 圧倒的に有利な状況ではあるが、賭けているものが違いすぎるのだ。


 残った負け筋はマスターであるリステンリッドがキルされることだけ。

 そして、その対策ももちろんしている。


 今、ユグドラの拠点にはリステンリッドを含めて五人の人間がいる。


 ミラー7のルティア・ソルフール。ミラー21のシンサク・サカド。ミラー23のヴァン・アッシュ。ミラー49のキース・プリトーン。

 リステンリッドが護衛として雇ったプレイヤーだ。

 誰もがそれぞれのミラーでトッププレイヤーとして君臨していた武闘派だった。

 リステンリッドはアルカディアのみならず、外部領域の通貨まで報酬として交渉しこれだけの面子を揃えた。


 ユグドラのメンバーのほとんどをギルドハウス包囲に使っている以上、他から人を雇う以外になかった。

 返り討ちにあって被害が出ている上に、これ以上ユグドラのメンバーを酷使するわけにはいかない。

 さらに言えば、ユグドラのトップ5がリステンリッド以外ログアウトしている現状だと、質を担保する意味でもこれが最善だった。

 どいつも性格面では一癖二癖あるが、実力は折り紙つきだ。


「しかし、大枚叩いて一体何から守れってのかね」


 退屈そうにしていたヴァン・アッシュが話かけてきた。

 他に雇ったメンバーは他領域でも名が知れたプレイヤーだが、このプレイヤーだけは違った。

 ミラー23のフォーラムでは、英雄的扱いを受けていた男だ。

 なんでもイキリ散らかしていたトップパーティを単独で全滅させたとか。

 何にせよ実力があり、護衛を受けてくれるならば今は誰でも構わなかった。


「保険ですよ。大きなギルドとなると敵も多い。女王杯に出られなくなったら困りますからね」

「まるで襲われるのがわかっているように見えるな」

「だとしても、受けた以上は戦ってもらいますよ」

「そこは任せろ。なんなら俺一人でも全部片付けてやるさ」


 他の面子から視線を感じたが、ヴァンは気にもしていないようだった。

 自信過剰な男だが、護衛に自信があるのは悪い要素ではない。


 そんな時だった。

 いきなり念信の気配が来た。


KENNY-RES:ボス報告があります!!


 いい予感は何もしなかった。


KENNY-RES:ギルドハウスの包囲が破られました!!!!

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