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100.心強き味方

 

 最後の拠点となる街は、ダンジョンの出口からすぐ近くにあった。

 大岩の上の広さを考えれば当然ではあるのだが、こうまで近いと若干拍子抜けしてしまう。

 街の中央には城らしき場所があり、街全体が城下町のようになっている。

 山じみた大岩の上に作られている以上、広さはアルパの街と同じ程度だが、施設の密集度が段違いだ。


「では僕は行くので、みんなは最後の拠点、アヴァロニアでしたか? の探索でも楽しんでいてください」


 女神像に祈り、トラベル地点として登録してすぐに、アラタはそう言った。


「ちょっと、一人で行くつもりなんか?」


 一人去ろうとするアラタに声をかけたのはユキナだった。


「そういう話みたいですからね。試練は一人で、だそうです」


 その点でアラタは少し安心していた。

 ソロは得意分野であるし、これなら他に迷惑をかけることもない。


「手伝えることはないんか?」

「たぶん応援くらいでしょう。このゲームに応援エールでかかるバフでもあればお願いするんですけどね。それにユキナだって商売関連で動きたいでしょう?」

「う…… それはそうなんやけど……」

「ならいいじゃないですか。次会う時はシャンバラ、なんてこともあるかもしれませんよ。では」


 言ってアラタはポータルからフィーンドフォーンへ移動した。

 相変わらずの緑茂る街だ。

 空気に植物の匂いが満ちている。


 アラタはすぐにそこから森へと抜けた。

 マップを頼りにかつて訪れた廃神殿へと向かう。

 

 廃神殿までの道中に、アラタはおかしな気配を感じていた。

 何かエデン人側の妨害か、とも思ったがどうも様子が違う。

 尾行に慣れておらず、気づいてくださいと言っているような気配だった。


 アラタは念の為にフレンドリストを確認する。

 ビンゴだ。

 ユキナとメイリィのロケーションはアプロニアと表示されているが、パララメイヤのロケーションはフィーンドフォーンになっていた。


ARATA-RES:どうしたんですか? こんなところにまで来て。


 念信の奥から、焦ったような気配を感じた。

 すぐには返信はなかった。

 アラタは森の中でしばらく待っていると、返信ではなくパララメイヤが直接姿を現した。


「見送りでもしてくれるつもりでしたか?」

「その、アラタさんが心配で……」

「心配で?」

「まだ何かできることはないかなって」

「どういうことですか?」

「アラタさん、休みもしてないじゃないですか」

「その点に関しては大丈夫ですよ。エデン人が気をきかせたのか、さっきの睡眠でMPもスキルの使用回数も回復したみたいですからね」


 それはさすがに確認していた。

 MPは睡眠で回復するが、通常ならスキルの使用回数は回復しない。

 日をまたがずにそれが回復しているということは、あの老人が何かをしたのだろう。


「けど、まだ準備できることがあるんじゃないですか?」

「ないですよ。消耗品は使ってませんし、これ以上のレベリングもできませんし」

「武器は?」

「それはユキナとも話しましたが伸びしろがね。他は現状での最終装備でしょうし、大丈夫だと思いますよ」


 それでもパララメイヤは不安そうにしていた。

 あるいは、パララメイヤの方が正しい態度をしているのかもしれない。

 数多のボスを倒してようやく挑める試練なのだ。

 そして、それにはこのアルカディアからの脱出がかかっている。

 アラタとしてはできることはしたので、これ以上感情を乱すだけ無駄だと考えて落ち着いているつもりだ。

 けれども、それは普通ではないのかもしれない。


「大丈夫ですよ。僕を信じてください。そうだ、シャンバラに戻れるようなら、ちょっと会ってみませんか?」

「え?」


 アラタとしても、どうしてそんなことを言う気になったのかわからなかった。

 成功したあとの予定を示すことでパララメイヤに安心感を与えたかったのか、それともアラタがシャンバラでのパララメイヤに興味が出ていたのか。


「メンテナンス中にメイリィとユキナに会う約束はしているんですよ。そらならパララメイヤも会ってみませんか?」

「えっと……それは……」


 パララメイヤの反応は微妙なところであった。

 パララメイヤがアラタのファン、というところにあぐらをかいてしまったかもしれない。


「別にいいですよ。本当に思いつきで言ってみただけですし」

「いえ、わたしも会ってみたいです。ただ、アラタさんはシャンバラで会うのは嫌がるって話を聞いていたので」

「ユキナにですか? メイリィにですか?」

「両方に、でしょうか」

「なるほど。まあ人は変わるものですし、二人と会う以上、三人目もそう変わらないでしょう」


 人は変わる。

 自分で言って、アラタはそうかもしれないと思った。

 アルカディアが始まってから、まだ一ヶ月と経っていない。

 それなのに、かなりの時間が経過したように感じていた。


 そして、その期間でアラタは変わったと思う。

 いくらか人を信じる気になった気がする。

 仲間と呼べる人間と過ごすのは悪くないと、思えるようになっている気がする。


「わかりました。会うのはメンテナンス中ですよね?」

「それ以降でも構いませんけどね」

「そのためには、まずは試練を越えないとですね」


 パララメイヤの表情に活気が戻った気がする。

 両手を前に構えてやる気満々のポーズだ。


「メイヤにやってもらうことはないですけどね」

「応援できますよ!」

「それはありがたい話で」

「もうっ! 本気ですよ!」

「ありがたい話というのも本気ですよ」


 アラタの言い方から皮肉に聞こえたかもしれないが、いくらかは本当にありがたいと感じていた。

 単なる応援でも、自分の味方がいると思えるのは心強く思えた。


「では、僕は行ってきますよ」

「わたしも――――」

「やめておいたほうがいいと思います。エデン人は一人で、と言ってましたからできることはないはずですし、下手をしたら二人で行ったことで何かあるかもしれません」

「……そうですね。わかりました」

「武運を祈っていてください」


 そうしてアラタは再び歩き出し、廃神殿へと向かった。

 不思議と足取りは、いくらか軽くなっている気はした。 

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