おまけ~プロット未満の何か~
タイトル『ヒロインに、成り代わってしまいました……』
●乙女ゲームのヒロインに成り代わってしまったと思っている主人公が、幸せになる話
~あらすじ~
●病気の母を助けるために、神に祈っていた主人公は、母を助けられる前世の知識を思い出す。
乙女ゲームの出会いのシーンで、王子からヒロインに渡される指輪。
それがあれば、お金に代えれる!
薬代を得るために、ヒロインに成りすます主人公。
母親も助けられ、ヒロインの出会いを奪ってしまった主人公は、二度と王子には近づかないと決意し、隣国の学園へ。
でもそこになぜか王子が現れて、しかも本物のヒロインまでこっちの学園へ!
ヒロインに王子を返すべく、王子と自分の乙女ゲームのフラグを折ろうとする主人公。
でも王子はヒロインに関心を持たず、主人公のほうへばかり。
そして告白イベント迎えてしまい……なんと、乙女ゲームの時間軸は王子の親世代。
つまり、主人公たちは乙女ゲームと何も関係がなかった。
主人公はヒロインの幸せを奪ってなどいなく、王子は最初から主人公だけを見てくれていた。
真実を知って、王子の告白を受け入れる主人公。
~プロット~
母親が病気で、必死に働いても薬代が稼げない。
父親は商人。
豪商などではなく、やっと自分の店を出したばかりのまだまだ駆け出しだった。
その為、薬さえあれば助かるのに、母親は衰弱していく。
主人公は、助けたくて、必死に祈っていた。
そして不意に、前世を思い出した。
前世の知識で商品を作り出すことを思いつくが、資金はすでに薬代で底をついていた。
また、商品を開発して売りに出すまでの長い期間を母が持つとは限らない。
そしてこの世界が乙女ゲームに酷似していることに気づく。
自分の髪の色がヒロインに似ていることから、ヒロインと王子の出会いを横から奪うことを思いついてしまう。
出会いのイベントで、王子から記念に指輪をもらえるからだ。
指輪があれば、それを売って、薬代にできる。
そう考えて、主人公は王子とヒロインが出会うはずの場所で王子を待ち伏せ。
ヒロインよりも先に王子とエンカウント。
出会いのイベントをこなし、指輪ではなく、なぜかネックレスをもらう。
ネックレスをお祖母さまの形見だと偽り、馴染みの質屋にもっていく。
王家の印章もなく、つたない作りのネックレス。
でも小さな虹色の輝きを放つ宝石は本物で、薬代を得る。
ヒロインと王子の出会いを奪ってしまった罪悪感と引き換えに、主人公は母親を助けることができた。
前世の知識のおかげで、豪商となる主人公の家。
神様が母を助けるために前世を思い出させてくれたのだからと、孤児院への援助や寄付も惜しまない。
男爵位も買い、さらに商売の手を伸ばす。
「でも、絶対に、王都の学園には入学しません」
ヒロインと王子の出会いのイベントは、学園で、王子がヒロインに語る過去の話で出てくる。
王立学園では、それはもう、ヒロインと王子のイベント満載。
絶対に、邪魔をしたくない。
それには、王立学園に行かないのが一番。
貴族子女は、王都の学園に通うのが普通だが、男爵になったばかりだし、田舎者と蔑まれるのも嫌だと両親を説得し、なんとか、隣国の学園へ。
「……なんで、王子様がこっちにいるのですか」
隣国の学園入学式で、主人公は頭を抱える。
新入生代表で挨拶をした人は、間違いなく、ネックレスをくれた王子様。
しかも、ばっちり目が合ってしまい、速攻でばれてしまう。
そんな主人公を、主人公とよく似た髪色の少女Aが睨んでいた。
必死に王子様の目に触れないよう、逃げようとする主人公。
でも入学試験でうっかり王子と同率トップになっていて、注目の的!
王子からは、久しぶり、と微笑まれて、知らないふりを通す。
王子は一瞬戸惑った表情を見せながらも、これからもよろしくねと去っていく。
「あぁ、これもイベントなの……?」
確かに乙女ゲームでは、勉強を頑張るとフラグが立つキャラなんかもいた。
でもそれは、学園生活が始まって、中間テストや期末試験で起こるイベントのはず。
なのに入学試験で起こってしまうなんて、と主人公は遠い目をしたくなる。
そんな主人公を、やっぱり物陰から睨みつける少女A。
「貴方、いったい何のつもりなのよ」
裏庭を一人歩いていると、少女Aから突っかかられる。
「わたしがヒロイン、あなたは、偽物よ!
二度と、わたしのまねをしないで。いいわねっ」
彼女こそ、本物のヒロイン?
少女Aは主人公と同じく転生者で、前世の記憶を持っているのだろう。
ヒロインになりたかったわけではなく、お金が欲しかっただけの主人公は、出来るだけヒロインを立てていこうと心に決める。
出会いのイベントを奪ってしまったのだから。
ヒロインとよく似た髪の色は変えれなくとも、髪型は変えれる。
次の日から、長い髪を編み込んでくるくると後頭部でお団子にしてまとめるようにする。
その際、シュシュを使った為、隣国ではまだまだ流行っていなかったシュシュが流行ってしまい、またまた注目されてしまって頭を抱える。
ヒロインを名乗る少女Aは、それからもやらかしまくり。
隣国の公爵令嬢が、乙女ゲームの悪役令嬢によく似た雰囲気だったからと言って、
「あんたっ、なんでわたしを虐めないのよ!」
と言い放つ。
慌てて止めに入る主人公。
騒ぎを聞きつけた王子も駆けつけてくる。
幸い、公爵令嬢は気品あふれる淑女で、問題にしないでくれた。
「わたしを助けに来てくれたのですね、王子さまっ」
下手すれば外交問題になりかねなかったのに、少女Aは王子にうっとり。
「……なんで、わたしが実行委員になってしまうのでしょう」
ヒロインがなりたがっていた王子と一緒の文化祭実行委員に選ばれてしまう主人公。
出会いのイベントを自分がやってしまったせいなのかと落ち込む主人公に、ブチ切れるヒロイン。
主人公は「彼女にはやる気がとてもありますから」と実行委員にごり押しする。
主人公も一緒ならと、王子達は渋々ヒロインの委員会入りを了承する。
どや顔のヒロイン。
前途多難の予感に頭痛がしてくる主人公。
ヒロインに雑用をすべて押し付けられ、ぐったりな主人公。
ヒロインは王子達攻略対象を落とすのに夢中で、ちっとも仕事をしてくれないからだ。
「手伝うよ」
ヒロインを巻いた王子が、手伝いに来てくれる。
「隣国の学園に通うのって、珍しいよね」
そんなたわいのない会話が楽しい。
王子は、いつだって優しく、分け隔てがない。
そんな王子に心惹かれている事実にうつむきたくなる主人公。
一緒に話しているうちに、ずっと避けていた、出会いのイベントの時の話になる。
「……ごめんなさい」
小さく呟いて、罪悪感からその場を逃げ出す主人公。
王子が自分に興味を持ってしまっているのは、出会いのイベントをヒロインじゃないのにしてしまったせい。
「あのネックレスを、ヒロインに返さなくちゃ」
丁度良く、学園は夏休み。
もう何年も前のネックレスを、駄目元で質屋のおじさんに訪ねてみる。
質屋のおじさんは、おばあさまの形見という言葉を信じて、質流れにせず取っておいてくれていた。
「これをヒロインに返せば、きっと、うまくいくはず」
ヒロインに無事、ネックレスを返せた主人公。
「指輪でしょう? なんでネックレスなの」
疑われるけれど、もらったのは本当にネックレス。
「ふぅん? そういえば、あのゲームの中では指輪が入らなくなって、ネックレスにしてたわね。そのせいかしら」
小さなころにもらった指輪は、成長するにつれて、指にはめることが出来なくなり、ヒロインは指輪に鎖を通してネックレスにしている。
これできっと、王子が人違いだと気づいてくれる。
本当はわたしだけれど、本当の本当は、ヒロインが出会うはずだったのだから。
王子と離れる寂しさを感じつつも、最初から、自分は偽物。
寂しさに蓋をして、王子とヒロインを応援する。
想い出のネックレスを手に入れたヒロインは、今までにもまして王子に熱烈にアタックを繰り返す。
けれどことごとく玉砕。
王子は主人公の所に来る。
文化祭当日。
準備をきっちりこなした主人公は、なぜか寮まで迎えに来てしまった王子と、学園へ。
「わたしもご一緒します!」
と強引に割って入ってくるヒロイン。
王子に見えない角度で睨まれ、主人公は適当な理由を付けてその場を立ち去る。
文化祭はつつがなく終わり、後夜祭。
「わたしと踊っていただけますか?」
ヒロインを誘う予定の王子が、迷うことなく主人公を誘ってくる。
ヒロインを探すがなぜかいない。
王子に促されて、なし崩し的にダンスを踊る。
ダンスを踊りながら、王子との時間を嬉しく思ってしまう主人公。
踊り終わり、誘われるまま、二人きりで裏庭へ。
そこは、乙女ゲームの中では、満天の星空の元、攻略対象から告白される場所に似ていると気づき、慌てて会場に戻ろうとするも、王子に抱き留められる。
お花摘みから会場に戻ってきたヒロインが王子と主人公がいる場所に裏庭に気づき割り込んでくる。
王子に抱き留められている主人公に、ブチ切れ。
いよいよ我慢できなくなったヒロインは、ネックレスを見せて、自分こそがあの日出会った少女だと言い切る。
主人公とヒロインを見比べ、何かを考える王子。
自分が選ばれて当然と思っているヒロインは、わくわくが止まらない。
それに対して主人公は、王子と離れる辛さに心の中で唇をかみしめ、嘘をつく。
「わたしは、何度も申し上げておりますように、昔、王子と出会ったことはありません」
母親はネックレスのおかげで助けられた。
なら、それ以上は決して望んではいけない。
ヒロインの幸せを奪うようなことはしてはならない。
「そのネックレスを持っているということは、あの日であったのは、キミなんだろうね」
王子が、ヒロインを見つめる。
やっと自分を見てくれた王子に、笑顔を見せるヒロイン。
「けれど、それはそれ、思い出のうちの一つだよね」
「「えっ」」
ヒロインと主人公、驚いて王子を見つめる。
「だってそうでしょう? わたしは父と母のように運命の出会いにあこがれて、そのネックレスを作った。
父は、王子だというのに彫金が趣味でね。
子供の頃から何度も聞かされてた。
自分が初めて作った指輪を、わたしの母上に贈ったのだと。
母上は父とまた再開するその日まで、小さくなった指輪をそのままネックレスに加工して肌身離さず持っていてくれてたと。
そんな父と母が出会った思い出の場所で、わたしも運命の相手と出会えないものかと、あの日、広場を歩いてた」
指輪をネックレスに。
それって……。
主人公とヒロイン、同じことに気づく。
まさか。
「正妃様のお名前は、確か、マリアーゼ様……」
愛称はマリアだろうか。
「そんな、そんな事って!」
膝から崩れ落ちるヒロイン。
この世界は、確かに乙女ゲームの世界に酷似していた。
けれど、乙女ゲームのNPCたちは一世代前。
今この時間は、乙女ゲームとは関係ない世代だったのだ。
「じゃあ、わたしは、誰の幸せも横取りしていなかった……?」
ヒロインがヒロインじゃなかった。
乙女ゲームの時間軸ですらなかった。
乙女ゲームの強制力なんてはなから存在せず、王子は、最初から、主人公だけを見ていた。
ヒロインだと思い込んでいた少女Aは、ふらふらと退場。
追いかけようとする主人公を、王子が抱きとめる。
「ずっと気づいてたよ? 君が何かを隠している事を」
青ざめる主人公。
「王子に嘘をついたの? 重罪だね」
耳元でささやかれ、ドキドキが止まらない。
「か、家族だけはっ」
慌てる主人公に笑う王子。
「わたしはね、君に会う為にこの学園に来たんだ」
本当は最初から全部知っていたのだと語る王子。
あの日出会った主人公の事を調べ、主人公がなぜか隣国の学園へ行くと知り、自分も慌てて隣国の学園へ手続したことも。
「どうして、そんなことを」
主人公と話をするなら、王宮に呼び出せばいい事。
もちろん、されたら驚くし動揺するけれど。
同じ学園を選ぶなんて回りくどい事をしなくても済んだはず。
「言ったでしょう? わたしはね、運命的な出会いに憧れていたんだよ」
学園で、『偶然』再会したかった。
そう笑う王子に、「偶然、ではないですよね?」とつられて笑う主人公。
「そうだね、お互い嘘をついていたのだから、おあいこだよね」
ヒロインなんて、存在しなかった。
運命も、きっとなかった。
作られた『偶然』だけれど、王子の人となりにはひかれていた主人公。
「わたしの、恋人になってください」
王子が、少しばかり照れながら、主人公に告白する。
頷く主人公。
ハッピーエンド。




