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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
のんびり小休止編
81/178

 5



「シューター、フルオープン型の二輪(にりん)馬車があるらしいぞ」


 翌朝、ゆっくりめの時間帯に起きて身支度を整え、修太が居間兼食堂に顔を出すと、グレイが開口一番にそう言った。

 昨日の夕食は最高においしかったので、朝食も楽しみだと考えていたから、修太はきょとんと問う。


「え? 何、急に」

「馬車だ。箱型だと、きついんだろ。さっき、他にいい乗り物がねえのか客室係に訊いた。俺は普段は乗り物なんか使わねえが、人間なら分かるかと思ってな。このホテルには、一日契約の馬車があるんだと」


 専属の客室係に教えてもらったという内容を、グレイは説明した。


「スコールが降るから、フルオープン型は人気がないらしい。いつでも予約はあいてるってよ」

「さすが、高級宿……。そんなサービスがあるのか。ええと、雨が降ったらびしょ濡れ?」

「一応、折りたたみ式の屋根がついているが、水はねで濡れる覚悟はいるらしい」

「ふーん。まあ、それくらいなら大丈夫かな」


 今は、逃げ場のない閉塞感が今は苦手なので、壁がないほうが気楽だ。徒歩での移動は昨日みたいに面倒くさいだろうから、この提案はうれしい。


「今日はそれで移動しようぜ。アイテムストリートと大衆劇場に、それから雑貨に食料品、サラマンダーの肉は外せないよな」


 サラマンダーとは首回りや背中から炎が出ているトカゲ型の動物だ。王都近郊の森に生息している。常に炎をまとっているのだが、サラマンダーの意思がなければ、その火は周りに危害を加えない。サラマンダーは凶暴な上に、下手をするとやけどをする危険動物だから、狩るのも手間がかかる。しかし、その肉はとても美味なので、王都名物となっていた。


「それから、金を出せば、御者が観光案内してくれるってよ。どうする?」

「何それ、面白そう! 父さんがいいなら、いいよ」

「今回はお前の気晴らしだから、お前に合わせる」

「ええっ」


 ――他人に合わせる、だと……!

 黒狼族ではめちゃくちゃレアだろう言葉に、修太は衝撃を受けた。


(もしかして、俺が誘拐されたこと、ものすごく気にしてるのか?)


 心配してくれているようなのは感じていたが、グレイは考えが表情に出ないから、修太には(お )しはかれない部分がある。


「いいの? 大丈夫? なんなら、俺とコウで出かけてくるよ」

「馬鹿を言うな。王都は危ねえから、お前一人で放り出す気はねえ」

「分かった。でも、無理しなくていいからな?」

「その時は言う」


 あっさりとした返事に、修太は頷く。グレイなら、思ったことはそのまま言うだろう。


「俺は手続きをしてくるから、お前は飯を食っちまえ」

「父さんは?」

「俺はもう食べた。気乗りしねえから、そこの肉だけだ。残りも食べていいぞ」


 修太がテーブルを見ると、グレイの皿は一つだけ空になっている。メインディッシュらしきケテケテ鳥のソテーだけ食べたみたいだ。

 修太ならば、こんな良い宿の料理はもったいなくてがんばって食べるが、グレイはどんな状況だろうと、食べる気がない時は食べない。時には、一日何も食べないこともある。それでその化け物じみた体力がもつのだから、コスパがいい。

 修太は痩せの大食いだ。燃費が悪いので、たくさん食べる。一食でも抜くと悲しい気持ちになって落ち込むので、食事は欠かせない。


「それじゃあ、遠慮なく」


 グレイは部屋を出て行き、修太はテーブルについて、さっそくスープから飲み始める。上品な味のコーンスープはとてもおいしくて、グレイの分ももらった。

 無言でがっついて、グレイの残りまで全部食べてしまったので、戻ってきたグレイに呆れられた。


「全部食べたのか? お前、本当にその体のどこに入ってるんだ」

「胃に決まってるだろ」


 修太の返事に、コウは「すごい!」と言わんばかりに「オンッ」と吠える。


「ギルドマスターのオススメだけあって、本当に料理がおいしいよ。幸せだ」

「そうか。まあ、それだけ食えれば大丈夫そうだな」


 グレイは独り言みたいに呟いた。やっぱり気にしているんだろうか。しかし、表情からは読み取れないのだった。




「本日、御者を担当いたします、アダムと申します。どうぞよろしくお願いします、お客様がた」


 そう言って、おしゃれな麦わら帽子を脱いでお辞儀をしたのは、二十代半ばくらいの銀髪の青年だ。雨よけの短い丈のマントを着ているが、服装は品が良い。高級宿のスタッフは、下まで装いがしっかりしているらしい。


「ご高名(こうめい)はかねがね。賊狩りグレイ様とお坊ちゃまの案内ができて、とてもうれしいですよ。オーナーの甥御(おいご)さんは本当に良い方なので、助けてくださってありがとうございます」

「御者が、オーナーの親戚と知り合いなのか?」


 馬車を簡単に調べながら、グレイが問う。二人乗りのフルオープンの馬車は、大きな車輪が二つついているタイプだ。黒く塗られていて、金色の紋様が優美である。グレイは車軸などを見ていたが、特に問題ないと判断したようで、修太より先に乗った。座席まで念入りにチェックするのを、アダムはにこにこと見ている。


「えっと、すみません……」


 修太が気にして謝ると、アダムは首を振る。


「大丈夫ですよ、お客様。慎重なのは良いことです。――甥御さんはときどきホテルに遊びに来ますので、私がよく送り迎えしております。予約が空いているほうを使ったほうが、オーナーにご迷惑をおかけしないから……と」

「優しい人みたいですね」


 修太は素直な感想を口にした。金持ちの親戚だから、どんな人物だろうかと考えていたが、細かいところに気配りできるタイプの人みたいだ。


「ええ、ほがらかで良い方なんですよ! それが高価な絨毯(じゅうたん)を取引先に運ぶ途中、盗賊団に襲われて……。行方不明となってから、ずっと心配しておりました。恩人のご案内とあり、はりきっていますので、とっておきのポイントにもお連れしましょう。さ、坊ちゃま、どうぞ座席へ。雨が降ってきましたら、そちらのレバーを引いて、屋根を出してくださいね」


 修太はアダムが差し出した手につかまって、少し高い位置にある踏み台から座席へ移動する。コウがジャンプして、足元に治まった。


「ふかふかだ」


 クッションがきいていて、座り心地がいい。ソファーに座って移動する感じだろうか。


「大衆劇場とアイテムストリート、他は買い物ですね。ご案内がてら、巡ってまいります。それでは出発しますので、座席から身を乗り出さないようにお気を付けください」


 アダムは御者台に治まると、二頭の馬を器用に操縦し、王都散策に繰り出した。




 案内慣れしているようで、アダムの説明は分かりやすくて面白かった。

 王宮前の広場、大聖堂、ギルドの集まる区画、商店通りに、有名な貴族の屋敷前、国中の踊り手がしのぎをけずる最高峰のダンス・バーなど、いろいろと教えてくれた。通りから、地盤沈下で立ち入り禁止になっているスラムなども教えてくれ、以前、盗賊に連れてこられたのはあの辺なのかと、ようやく頭の中で地図がつながった。

 途中、大衆劇場に入ってみたが、セーセレティーの劇は踊りと歌をまじえた独創的なもので、見ていても今一つ内容がよく分からない。

 それはグレイも同じだったようで、休憩時間になると、修太に小声で問う。


「お前、あれが面白いのか?」

「……いや、正直、さっぱり。出ようか」

「賛成だ」


 途中で大衆劇場を出たので、待っていたアダムには苦笑された。


「よくある古典劇なんですが、外国人には受けが悪いんですよね。それなら、観光者向けのとっておきのダンス・バーにご案内しますよ」


 ダンス・バーとは、踊り手の舞台を見ながら酒や食事をとれる、観劇型の食堂のことだ。どうも子どもは立ち入り禁止の店もあるようだが、アダムが紹介してくれたのは家族向けのバーだったので、サーカスやミュージカルみたいで、古典劇よりもずっと面白い。

 食事は名物ぞろいで、価格は割高なのだが、雰囲気が良いのでつい財布がゆるむ。

 サラマンダーの尻尾を煮込んだシチューやフライドポテト、ピザもどきを食べながら、音楽に合わせて軽快に舞う踊り手達を眺める。サーカスみたいな身体技能を発揮する踊り手もいて、驚きだ。

 歌手の美しい歌声も聞けて、大満足のひとときだった。




 午後は、商店めぐりをした。

 せっかく王都まで来たので、思い切り買い物をしたい。

 魔具やアイテムは高価なので、財布に入れているお小遣いだけだと心もとない。


 そこで、冒険者ギルドでモンスターからもらった媒介石(ばいかいせき)や素材を売って資金を作ろうと思ったら、媒介石ならアイテムクリエーターギルドで売ったほうがすぐに買い取ってくれると、アダムが教えてくれた。


 王都にはアイテムストリートがあり、アイテムクリエーターギルドが力を持っている。魔具には、燃料となる媒介石が欠かせない。そのため、アイテムクリエーター向けの媒介石は、アイテムクリエーターギルドで販売しているんだそうだ。ギルドでは冒険者ギルドから媒介石を買い取っているが、それだけでは足りないので、買い取り窓口もあるんだとか。


 先にそちらで換金してから、また馬車に乗り込んでアイテムストリートに戻る。

 職人が集まるだけあって、最新の魔具やアイテムが並んでいるそうだ。ただ、露店では古いものをいかにもお手頃価格と言って、ぼったくりをしている店があるので、店で買うほうがオススメだと、アダムは注意するべきポイントも教えてくれた。


「年に二回開かれるのみの(いち)なら、露店でも掘り出し物が買えるんですけどねえ。今年の夏の市はもう終わったんで、次は年末ですね」

「そんなのあるんですか。へ~」

「もしいらっしゃるんでしたら、早めにホテルを予約しておいたほうがいいですよ。今の時期もそうですが、良い宿はすでに満室なんですよ」


 アダムは雑談しながら、アイテムストリートでオススメの店をいくつか教えてくれた。


「あそこの店は老舗で、手堅いですね。あっちの青い店は、新進気鋭の天才作家のものですよ。でも、デザインが奇抜なんで、好みが分かれますね」


 アイテムストリートでは馬車どめの場所が限られているとかで、駐車スペースに入ると、アダムはここで待っていると告げ、馬車を降りるように言った。

 店がいくつも軒を連ねているので、ウィンドウショッピングをしつつ、いくつかおすすめの店に入ってみた。


(こうして見ると、ピアスや啓介の作る物は実用的なんだな)


 シンプルで使いやすいのが、ピアスの家の技みたいだ。アイテムストリートの店では家具みたいになじむデザインもあって、こちらも好みだ。新進気鋭の作家だというアイテムクリエーターの店は、たしかに奇抜だが、ランプは使いやすそうなので買ってみた。


 老舗の店では、小型の電熱器もどきを見つけた。媒介石を燃料にして、スイッチを押すと魔法陣に石がくっついて発動。鉄板が熱くなるので、その上にフライパンや鍋を置けば調理できるそうだ。野宿の時やちょっとした湯沸しなんかで便利だと思い、試しに買ってみた。


 魔具屋をある程度見て回った後、アイテム屋も巡る。

 エレイスガイアで「アイテム」と呼ばれるものは、媒介石を使わない道具のことだ。薬品からモンスター退治の罠までさまざまだ。

 ダンジョンやモンスターから手に入るものになると、少し割高になるらしい。

 面白そうな物や便利な物があれば、迷わず買った。旅人の指輪に入れておけば荷物にならないので、遠慮しない。

 アイテムストリートを満喫すると、最後に商店通りに移動した。

 グレイは武器や防具に関心を見せ、修太は衣類や日用品、食べ物などをチェックして買い込む。


「そこの店に入るぞ」


 グレイは駆け出しの若手が開いた鍛冶屋を示し、修太を手招く。コウは外で待たせ、中に入る。


「外から見えたが、なかなか良い腕をしている」


 グレイはスローイングナイフを数本買い込んだ。

 店の外に出ると、修太はグレイを見上げる。


「父さんって一流の店でしか武器を買わないんだと思ってたよ。駆け出しでも買うんだ?」

「こっちの得物(えもの)は腕の良い職人の所でしか買わねえよ。スローイングナイフは消耗品だからな、物が良ければ、こういう店でも買う。どんな一流だって、駆け出しの頃があるんだ。腕を磨いてもらわねえと困るからな」


「んん? つまり、若手の店でも買って、職人を育ててるってこと?」

「商売は売る奴だけじゃ、成り立たねえんだ。金に余裕があるなら、ある程度は買わねえと、こっちも良い職人が減るから困るんだよ」


 戦士と鍛冶屋は持ちつ持たれつの関係なのだと、グレイは答えた。


「へえ、すごいなあ」


 そんなことを考えて買い物をしないので、修太には勉強になる話だ。


「お前も、これぞって店があるなら、常連になってできるだけ買えよ。つぶれてから後悔しても遅い」

「分かった、そうするよ」


 ふんふんと頷いて、修太はサランジュリエにある好きな店をいくつか思い浮かべた。屋台や菓子屋、惣菜屋なんかには常連の店がある。修太は大食いなので、毎回、山ほど買っていくからうれしそうにお礼を言われる。帰ったらまた買いに行こう。


「あ、(かわ)細工の店がある。あの細工は好みだな。(かばん)とベルトを見たいから、ちょっと入っていい?」

「ああ。ほう、染めが見事だな。へえ、上のほうを彫り込んで、中に入れた色の綺麗な布を見せているのか」


 窓辺に飾られている見本品を眺め、グレイがうなっている。

 中にはベルトやベルトポーチ、鞄がたくさん吊り下がっていた。

 修太はじっくり見て、背中に斜めに背負うタイプのショルダーバッグと、ベルトに通すタイプのポーチ、飾りの綺麗なベルトを買った。旅人の指輪があるので鞄を持ち運ぶ必要はないのだが、カモフラージュ用で鞄は持ち歩いている。

 良い品だけあって単価が高かったが、王都なんてめったと来ないので即決だ。

 グレイも赤い柄布(がらぬの)(のぞ)く、黒いベルトを買った。


「シューター、そろそろホテルに戻るか?」


 会計をしながら、グレイが修太に問う。一日遊び倒して、すでにもう夕方だ。西日がまぶしい。


「あと、スオウからの輸入品の店がないか探したいな。味噌(ミガン)醤油(ゼユル)が欲しいんだよ」


 たまにササラが差し入れてくれるが、せっかくなのでたくさん買いだめしておきたい。


「スオウの食料品ですか? それなら、あちらを二ブロック行った所に、珍品取扱い専門店がありますよ」


 店員の女性がにこにこと教えてくれたので、修太達はそちらに足を向ける。看板を見た瞬間、修太達は立ち止まった。


「……って、ジャックの店じゃねえか」

「あいつ、手広く(あきな)ってるよな」


 グレイの声も呆れている。

 なんだかんだと悪縁のある、行商人ジャックの店だった。行商人を名乗るだけあって、レステファルテとセーセレティーだけでなく、スオウまで足を伸ばしているらしい。さらにパスリルとつながりがあっても、修太はもう驚かない。

 ちょっと嫌だったが、スオウの輸入品を扱う店は少ないので、しぶしぶ店に入る。


「いらっしゃいませ~。うげっ、賊狩り!」


 カウンターから愛想よくあいさつをした筋骨隆々のレステファルテ人が、すぐにグレイに気付いて、顔をしかめた。だが、傍らの修太に気付くと、慎重に問いかける。


「あれ、お前はもしかして、人を喰う本で世話になった坊主か?」

「ケイじゃないよ」

「いやいや、お前で合ってるよ。危なかった時に、魔法で抑えてくれただろ。おかげで本から脱出できたんだ。でも、あの後、倒れたって聞いてな。俺も忙しくていつまでも待ってられなかったが、気になってたんだよなあ。ありがとな!」


 店員はうれしそうに近づいてきて、大きな両手で修太の右手をつかみ、ぶんぶんと振り回す。


「俺はネムレスだ。ジャックの兄貴から、セーセレティーの王都支店を任されてるんだ。で、どうした? 兄貴に用か?」

「普通に買い物に来ただけだよ」


 王都は暑いし、ネムレスは筋肉質だ。興奮して手汗をかいているのが気持ち悪いので、修太は手を取り返して、ひくりと苦笑いを返す。


「スオウの品を探してるのか。それなら、こっちだよ。食料品から着物や服飾、アクセサリー、絵の具までいろいろと取り揃えてる」


 案内のためにこちらに背を向けたのをいいことに、こっそりズボンで手をふいた。気付いているグレイが、フッと鼻で笑う。頼むから内緒にしてくれと、修太は首を振った。

 ネムレスが修太の様子をけげんそうに見る。


「なんだ?」

「いや、なんでもないよ。おお、すごいな。ササラさんが喜びそう!」


 いつも世話になっているので、土産に買って帰ろう。


「ササラ? モイス家の奥方のことか?」

「知ってるの?」

「ああ、うちのお得意さんだからな」


 まさかの、ジャックの配下の店と、アレンとのつながりが見えた瞬間である。


「奥方がスオウ出身らしくて、旦那がいろいろと買っていってくれるんだ」

「そっか、じゃあ、あんまり土産に買うとアレンがやきそうだな。かんざしと化粧品、食べ物以外は、俺のだけ買おう」


 ネムレスが持ってきてくれたカートに、買いたいものを入れていく。


「うちはありがたいが、そんなに買うのか? って、そういやあ、あのアイテム持ちだったな」


 食べ物がいたむのを気にしたみたいだが、ネムレスは修太達がジャックと知り合うきっかけになった事件を思い出したらしかった。旅人の指輪狙いで、ジャックに地下牢に放り込まれたのだ。


「助けてもらった礼だ。食料だけタダにしてやるよ。それ以外は普通に払ってくれ」

「いや、悪いよ! それなら値引きで」

「駄目駄目。それじゃあ、俺の気が済まないからな。借りは返しておかないと、商人としては気持ち悪いんだ。不運で代価になるよりずっといいんだよ」

「はあ。迷信深いなあ」


 そこまで言うなら、もらっておこう。

 他には、スオウの着物や帯、下駄(げた)草履(ぞうり)反物(たんもの)、こまごました日用品なんかを買った。小さくても品が良いので、一つ一つが高価だ。


(夜宮の持ち物は良い品が多かったんだなあ)


 当たり前だろうが、あちらで良い品を見慣れたので、なんとなく良し悪しが見える。


「なんだ、意外と目利きだな」


 ネムレスが感心を込めてつぶやく。


「そんなに買ってどうするんだ?」


 グレイの問いに、修太は部屋に飾るのだと答える。


「故郷のものと似てるから、置いておこうかと思ってさ。それと、啓介にもあげるんだ」


 甚平(じんべい)みたいな着物は、寝巻にちょうど良さそうだ。サランジュリエと違って、アリッジャは毎日蒸し暑いから喜ぶだろう。


「そうか」


 よく分からないがまあいいか。そんな感じの「そうか」を返し、グレイは興味をなくしたようだ。

 支払いをして、旅人の指輪に商品をしまうと、ネムレスが出入り口まで見送りに来た。


「たくさん買ってくれてありがとうな。また王都に来た時はよろしくな~」


 筋肉のせいで、ダルマみたいな顔でにかっと笑うネムレス。通りすがりのセーセレティー女性が、「素敵!」「なんてかっこいいの!」ときゃあきゃあ騒いでいるのに、修太はなんとも気が抜けた。

 セーセレティーの美意識だけは、どうも合わない。


「はは、また……」


 手を振り返して、雑踏に戻る。

 そしていくらか歩いたところで、グレイが急に立ち止まった。危うく背中にぶつかりかけ、よろめいたらコウの尻尾を踏みかけた。


「ワゥッ」


 コウが慌てて横に避ける。


「何、急に……。あ!」


 いつかの盗賊団の首領が、買い物袋を抱えて、目を丸くしている。首領――セイズの後ろにいたクレイグが後ずさった。彼らは以前よりも、身なりがしっかりしているように見えた。


「お前ら、いつぞやの……」


 グレイが害虫を見るかのようににらむと、セイズが右手を挙げる。


「おいおい、数年ぶりに会ったかと思えば相変わらずだなあ。斬りかかるのはよしてくれ。盗賊団からは足を洗ったよ」

「そうだよ、父さん。あの件は区切りがついたんだしさ」


 修太がグレイに声をかけると、セイズとクレイグが声をそろえた。


「「父さん?」」


 びっくりという顔をして、クレイグが修太のほうを見る。


「え? もしかして、あの時のクソガキ……」

「誰がクソガキだ?」

「ひぃっ、殴るのは反対!」


 グレイが眼光鋭く問うので、クレイグはセイズの後ろに隠れた。

 夕方の帰宅ラッシュの人波の中、道端で話す修太達を、通行人が迷惑そうに見て通り過ぎていく。


「ここだと邪魔になるから、そこの広場に行こうぜ」


 セイズが通り沿いの小さな広場を示した。





 本編のほうの第二十一話より、盗賊の人たちです。

 リクエストで、彼らのあの後を知りたいとお聞きしていたんですが、彼らだけでSSを書くのは気乗りしなくてリストに入れてなかったんですけど、ここで登場させてみました。


 ネムレスは、たまたまですよ。彼は第三十五話あたりに登場してるサブキャラです。


 それと、新作(?)の紹介です。

 アルファポリスさんのほうで第一部を完結したので、「邪神の神子」というお話をなろうにものせ始めました。

 異世界トリップもので、神子での召喚のハードモードバージョンです。

 主人公はひどい目にあいますけど、ヒーローがとてもいい人で、ヒロインを溺愛してる感じですね。

 よかったら読んでみてください(^ ^) 

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