表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
薬師ギルドでの騒動編
59/178

 7



 食堂の外には木製のテーブルと椅子が置かれていて、カフェテリアみたいだ。

 熱い日差しが降り注いでいるせいか、周りに生徒はいない。

 六人がけのテーブルについて、それぞれお弁当を広げた。リューク達のような坊ちゃんがどんな弁当箱なのだろうかと思ったら、三段重ねの重箱みたいだ。

 修太は今日も大皿におかずを盛り、鍋とスライスしたパンを詰めた籠を持ってきていて、とてもじゃないが置くスペースが足りない。そこでいつも使っているローテーブルを隣に出して、料理を並べた。

 最後にお湯を入れたやかんを出して、茶葉をそなえつけてあるポットに湯を注いで、お茶を淹れる。


「ん」

「おー、ありがとな」


 アジャンは礼を言ってカップを受け取り、修太は自分の茶もついで、やかんを旅人の指輪にしまった。アジャンにも取り皿を渡して、それぞれおかずやパンをよそってテーブルにつくと、修太は切り出した。


「それで、専属採取師の件ですけど」

「いや、待て待て待て」


 ライゼルの言動がおかしい。


「何をさらっと変な行動をとってんだ。弁当じゃねえだろ、それ!」

「俺にとっては弁当です。俺はたくさん食べたい。でも弁当箱に詰めるのは面倒くさい。それなら皿ごとでしょ? 保存袋さまさまですね」

「キリッとして言うな!」


 なんだかライゼルがうるさいが、修太は空腹だし、クライブのせいでロスした時間が惜しい。さっそく食事に手をつける。


「ツカーラさんの料理、おいしそう。少しもらってもいいかしら」

「私も」


 セレスとリュークがおずおずと切り出す。


「おかずを交換してくれるならいいですよ。俺、大食いなんで、取られると困るんです」

「「分かった」」


 セレスとリュークは元気良く答え、それぞれのお弁当からおかずをつまみ、修太の皿に入れる。リュークはアジャンにもおかずを分けた。お裾分けすると言っていただけあって、量は多い。

 セレスは果物を使ったサラダとヘルシーで、リュークはにんにくの芽のようなものと牛肉をピリ辛にいためたもので、どちらもおいしい。

 ケテケテ鳥とモルゴン芋が主流のセーセレティー精霊国では、牛肉や豚肉は高価だ。さすがは貴族の息子が持ってきている弁当だけはある。


「お前ら、他に言うことねえの?」


 ライゼルは呆れているが、興味をひかれたのは同じみたいで、修太に自分のおかずを分けて、修太の皿からコロッケをとった。ライゼルがくれたのは細切りにした芋とパプリカみたいな野菜、鶏肉をいためた料理だ。これも塩味でおいしい。


「初めて食べるなあ。ホクホクしておいしい。芋と牛肉?」


 リュークが首を傾げた時、アジャンが驚きの声を上げた。


「うわっ、中からチーズが出てきた」

「それは当たりだ。何個か仕込んでるんだ。豚肉と牛肉の合いびき肉とレーノ葱、モルゴン芋をマッシュしたものをまとめて、油で揚げたやつだよ。俺の故郷ではコロッケって言ってた。美味いけど、手間がかかるから味わって食べろよ」


 そもそもセーセレティー精霊国にはひき肉が売っていないので、肉の塊を買ってきて薄切りにしたものを、包丁で細かくするところから始めないといけない。芋をマッシュするのも手間がかかる。

 モルゴン芋は主食になるだけあって、じゃがいもと風味が似ているから、結構おいしい。


「へえ、コロッケかぁ。今度、うちの料理人に頼んでみよう」

「レシピをやるよ」


 修太が親切で言うと、セレスとライゼルも身を乗り出した。


「私も欲しい!」

「……俺も」


 ライゼル、むすっとした顔をしているくせに、気に入ったらしい。アジャンも欲しいと言うので、後で四枚書いて渡すことに決めた。

 領主の息子に教えるのはいいことだ。その調子で作り方が広まって、コロッケを売る屋台が出たらありがたい。


「それで、専属採取師なんだけど」


 もぐもぐと食べながら、修太はウィルから聞いたことを話した。リュークは難しい顔をしている。


「なるほどね。薬師ギルドのマスターがそんなことをしているなんて、初めて知ったよ。こちらでも調査してみる。放っておいたら、腕の良い薬草採りが減ってしまうから、医療面で大損失だ」

「ええ、そうね。聖堂や薬師ギルド、冒険者ギルドでも薬草を育てているけれど、外でしか採れないものもあるもの」

「俺も親父の耳に入れておく。流通が減ったら、薬草が値上がりする。市民に影響するからな」


 三人とも、険しい表情になった。

 権力者の子どもだけあって、この土地のことには真剣な思いがあるらしい。


(ちょっと面倒くさい奴らだけど、良い奴なんだろうな)


 そう感じたのはアジャンも同じようで、意外そうに三人を見ている。特にライゼルを。よく馬鹿にされるからと、アジャンはライゼルを嫌っているのだ。

 そして昼食をたいらげると、ちょうど良いタイミングで予鈴が鳴った。


「ありがとう、ツカーラ。とりあえず、君も目を付けられてるみたいだから、気を付けて」


 リュークは念を押して忠告し、セレスやライゼルとともに去っていった。修太も片付けて、アジャンと教室へ向かう。


「護衛が必要なら、うちの親父に話しておこうか? 冒険者ギルドを通すから、金はかかるけど」


 最後まで静かに聞いていたアジャンだが、気にかけてくれてはいたようだ。


「大丈夫。今は父さんが不在だけど、代わりにトリトラがついててくれることになってるんだ」

「トリトラさんか。黒狼族が一人ついてれば安心かな。でも、なんでまた黒狼族とそんなに親しくしてるんだ?」

「次、アンソニー先生の授業だぞ、走れ!」


 修太は叫ぶように言って、必死に走る。誤魔化すためもあったが、アンソニーが本気で怖いせいだ。ギリギリ滑り込んで着席したせいで、アンソニーににらまれた。


「慌ただしいぞ、気を付けなさい」

「「はい!」」


 青い顔で返事をし、二人はいそいそと教材を出した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ