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食堂の外には木製のテーブルと椅子が置かれていて、カフェテリアみたいだ。
熱い日差しが降り注いでいるせいか、周りに生徒はいない。
六人がけのテーブルについて、それぞれお弁当を広げた。リューク達のような坊ちゃんがどんな弁当箱なのだろうかと思ったら、三段重ねの重箱みたいだ。
修太は今日も大皿におかずを盛り、鍋とスライスしたパンを詰めた籠を持ってきていて、とてもじゃないが置くスペースが足りない。そこでいつも使っているローテーブルを隣に出して、料理を並べた。
最後にお湯を入れたやかんを出して、茶葉をそなえつけてあるポットに湯を注いで、お茶を淹れる。
「ん」
「おー、ありがとな」
アジャンは礼を言ってカップを受け取り、修太は自分の茶もついで、やかんを旅人の指輪にしまった。アジャンにも取り皿を渡して、それぞれおかずやパンをよそってテーブルにつくと、修太は切り出した。
「それで、専属採取師の件ですけど」
「いや、待て待て待て」
ライゼルの言動がおかしい。
「何をさらっと変な行動をとってんだ。弁当じゃねえだろ、それ!」
「俺にとっては弁当です。俺はたくさん食べたい。でも弁当箱に詰めるのは面倒くさい。それなら皿ごとでしょ? 保存袋さまさまですね」
「キリッとして言うな!」
なんだかライゼルがうるさいが、修太は空腹だし、クライブのせいでロスした時間が惜しい。さっそく食事に手をつける。
「ツカーラさんの料理、おいしそう。少しもらってもいいかしら」
「私も」
セレスとリュークがおずおずと切り出す。
「おかずを交換してくれるならいいですよ。俺、大食いなんで、取られると困るんです」
「「分かった」」
セレスとリュークは元気良く答え、それぞれのお弁当からおかずをつまみ、修太の皿に入れる。リュークはアジャンにもおかずを分けた。お裾分けすると言っていただけあって、量は多い。
セレスは果物を使ったサラダとヘルシーで、リュークはにんにくの芽のようなものと牛肉をピリ辛にいためたもので、どちらもおいしい。
ケテケテ鳥とモルゴン芋が主流のセーセレティー精霊国では、牛肉や豚肉は高価だ。さすがは貴族の息子が持ってきている弁当だけはある。
「お前ら、他に言うことねえの?」
ライゼルは呆れているが、興味をひかれたのは同じみたいで、修太に自分のおかずを分けて、修太の皿からコロッケをとった。ライゼルがくれたのは細切りにした芋とパプリカみたいな野菜、鶏肉をいためた料理だ。これも塩味でおいしい。
「初めて食べるなあ。ホクホクしておいしい。芋と牛肉?」
リュークが首を傾げた時、アジャンが驚きの声を上げた。
「うわっ、中からチーズが出てきた」
「それは当たりだ。何個か仕込んでるんだ。豚肉と牛肉の合いびき肉とレーノ葱、モルゴン芋をマッシュしたものをまとめて、油で揚げたやつだよ。俺の故郷ではコロッケって言ってた。美味いけど、手間がかかるから味わって食べろよ」
そもそもセーセレティー精霊国にはひき肉が売っていないので、肉の塊を買ってきて薄切りにしたものを、包丁で細かくするところから始めないといけない。芋をマッシュするのも手間がかかる。
モルゴン芋は主食になるだけあって、じゃがいもと風味が似ているから、結構おいしい。
「へえ、コロッケかぁ。今度、うちの料理人に頼んでみよう」
「レシピをやるよ」
修太が親切で言うと、セレスとライゼルも身を乗り出した。
「私も欲しい!」
「……俺も」
ライゼル、むすっとした顔をしているくせに、気に入ったらしい。アジャンも欲しいと言うので、後で四枚書いて渡すことに決めた。
領主の息子に教えるのはいいことだ。その調子で作り方が広まって、コロッケを売る屋台が出たらありがたい。
「それで、専属採取師なんだけど」
もぐもぐと食べながら、修太はウィルから聞いたことを話した。リュークは難しい顔をしている。
「なるほどね。薬師ギルドのマスターがそんなことをしているなんて、初めて知ったよ。こちらでも調査してみる。放っておいたら、腕の良い薬草採りが減ってしまうから、医療面で大損失だ」
「ええ、そうね。聖堂や薬師ギルド、冒険者ギルドでも薬草を育てているけれど、外でしか採れないものもあるもの」
「俺も親父の耳に入れておく。流通が減ったら、薬草が値上がりする。市民に影響するからな」
三人とも、険しい表情になった。
権力者の子どもだけあって、この土地のことには真剣な思いがあるらしい。
(ちょっと面倒くさい奴らだけど、良い奴なんだろうな)
そう感じたのはアジャンも同じようで、意外そうに三人を見ている。特にライゼルを。よく馬鹿にされるからと、アジャンはライゼルを嫌っているのだ。
そして昼食をたいらげると、ちょうど良いタイミングで予鈴が鳴った。
「ありがとう、ツカーラ。とりあえず、君も目を付けられてるみたいだから、気を付けて」
リュークは念を押して忠告し、セレスやライゼルとともに去っていった。修太も片付けて、アジャンと教室へ向かう。
「護衛が必要なら、うちの親父に話しておこうか? 冒険者ギルドを通すから、金はかかるけど」
最後まで静かに聞いていたアジャンだが、気にかけてくれてはいたようだ。
「大丈夫。今は父さんが不在だけど、代わりにトリトラがついててくれることになってるんだ」
「トリトラさんか。黒狼族が一人ついてれば安心かな。でも、なんでまた黒狼族とそんなに親しくしてるんだ?」
「次、アンソニー先生の授業だぞ、走れ!」
修太は叫ぶように言って、必死に走る。誤魔化すためもあったが、アンソニーが本気で怖いせいだ。ギリギリ滑り込んで着席したせいで、アンソニーににらまれた。
「慌ただしいぞ、気を付けなさい」
「「はい!」」
青い顔で返事をし、二人はいそいそと教材を出した。




