4
庭仕事を始めたせいか、商店通りで、いつもは気にとめない商品が目にとまるようになった。
「アイテム屋に、植物活力剤が売ってる……」
なんとなく通り過ぎようとしたアイテム屋のガラス窓の向こうに、不思議なものを見つけたのだ。
つい足を止めて、修太がまじまじと、緑色の液体が入ったガラス製のアンプルを見ていると、先を歩いていたグレイが戻ってきた。
「なんだ、気になる物があるのか?」
「これ見てよ、父さん。なんでアイテム屋に植物活力剤が売ってるんだろう」
「この店はダンジョンのドロップアイテムを仕入れているようだな。おい、店主」
グレイは店に入り、植物活力剤について質問する。行動が早いなと驚いて、修太は急いでグレイの傍に行く。
息子が気にしていると話すと、グレイを見てあきらかにビビッていた店主はほっとした様子を見せた。
「ええ、うちは冒険者ギルドから、アイテムを買い付けているんですよ。それから、これは植物活力剤ではなくて、植物生長促進剤です。これをドロップするモンスターがいるそうでね。ちょっと値はしますが、効きますよ。セーセレティーは植物が育つのが早いほうなんですけど、更に早くなります」
「それなら農家は皆使えばいいのに」
「ははっ、値がするので、経費が馬鹿になりませんからな。趣味の方がよく買っていかれます」
値札を見ると、一セット五本で、千エナと書いてある。
一般庶民の一月の給料が、だいたい一万から一万二千エナだ。そう考えると、確かに馬鹿にならない。
修太は試しに一セットだけ買ってみた。
ガラス製のアンプルで、木製の蓋がついている。こんなものがドロップするって、なんだか不思議だ。
家に帰ると、さっそく庭に行って、果樹や野菜の根元に刺してみた。あとは放っておけばいいらしい。
「どうなるんだろうな、コウ」
「わふっ」
わくわくする。
翌朝、修太は庭に出て目を疑った。
「うっそぉー」
思わずそう呟いてしまった。
昨日まで苗だったのに、瓜みたいな野菜がなっている。ハーブはこんもりしているし、果樹には実がなっていた。
「さすがはファンタジー世界。まだまだなめてたぜ」
もう驚くことはないと思っていたが、エレイスガイアは神秘に満ちていた。
この光景を見せねばと、グレイを呼んできて庭を見せた。
「良かったな」
「えっ、それだけ!? 驚かないの?」
「店主が言ってただろ、植物生長促進剤だと」
「だからって、この生長速度はおかしくない!?」
納得がいかない修太に、グレイはあっさり返す。
「ダンジョンでは常識は通用しない。そこで手に入れられるアイテムが、多少常識外れだからなんだ。当たり前だろ」
「すごい理屈を平然と言ってる……。そうか、そんなものか?」
「あえて変だと思うのは、生長しすぎて枯れるものが一つも無いことだ。これはおかしい」
「……確かに」
なんていう不思議現象。
啓介がいたら教えてあげるのにと、アリッジャに住んでいる幼馴染を思い浮かべる。
「不思議だなあ。いったいどういう理屈?」
「俺が知ってるなら、とっくにダンジョン研究家が発表してる」
グレイの返事はそっけない。
いやまあ、確かにそうだけどと、修太はもごもごする。ちょっと驚きを分かち合って欲しかっただけだが、この辺は黒狼族らしく、反応が冷たい。
ちぇっ。修太はちょっとだけすねて、珍しくふくれ面になった。
「どうして怒ってるんだ?」
「別にぃー」
「おかしな奴だな。で、それはどうする」
「収穫するよ、もちろん」
そう答えると、グレイは頷いた。
そのまま居間に戻るので、どうやら会話が終わったようだと肩すかしな気分を味わっていると、意外にも籠と鋏、ナイフを持って戻ってきた。
「もしかして手伝ってくれるの?」
「でなければ、どうして道具を持ってくる」
首を傾げる修太を、グレイはけげんそうに見下ろす。
たまにどうしても噛みあわない時があるが、手伝ってくれるのは嬉しいので、まあいっかと、機嫌を直すことにした修太だった。
「とりあえず、植物生長促進剤は考えものだな」
ある程度収穫してみたものの、二人暮らしには多すぎる。果樹にはまだ木の実が残っているが、摘むのは諦めた。
籠に摘んだものを種類ごとに木箱に移したのだが、それぞれ山になっている。
「普通は少しずつ実が熟すからな、こう一度に実ったんでは消費が追いつかない」
グレイも同意見のようだ。
「使うなら、畑のほうにしておけ」
「そうだな」
苗一つ分だけ急成長して、野菜をつけている。
確かに、この様子では、植物生長促進剤を野菜に使うのは採算がとれないから赤字だろう。
「野菜だと赤字だろうけど、果樹は元もとれて利益が出そうだけどな」
修太は果樹を眺めて首をひねる。グレイがふんと鼻を鳴らした。
「それは、この値段で必ず売れると確約されている場合だろう。同じ物が市場に大量に出回ったら、どうなると思う?」
その質問に、修太ははたと問題点に気付いた。
「あ、そっか。売値が下がるよな。あー、それじゃあ、あんまり利益にはならないか。普通に育てて、周りと足並みをそろえながら、ある程度の利益確保をしたほうが有利だよな」
「これだけ綺麗な実ができるんだ、貴族なら多少高くても買うだろうがな」
「ああ、ブランド品扱い? すごいな、父さん。商才もあるのか」
「少し物を知ってりゃ、誰でも気付く」
いや、そんなことはないと思うが。
修太は日本にいた時に、ニュース番組で経済について見ていたから、聞きかじった程度でもなんとなく分かるだけだ。
だがグレイは違う。修太と会うまで、グレイは文字の読み書きもできなかった。だが、かなり地の頭が良い。話をしていると、すぐに本質を見抜くし、それを指摘もする。そう簡単にできることではない。
修太は余っている木の実を眺めて、名案を思い付いた。
「あ、そうだ! 孤児院と和解大作戦!」
するとグレイが口を挟む。
「和解? あっちが勝手に誤解してるんだろ。いい迷惑だ」
「それじゃあ、仲良し大作戦かな。うわ、なんか響きが微妙」
「俺を巻き込むなよ」
グレイは近隣との関係に興味が無いらしい。「仲良し」なんていうと子どもっぽい響きだから、グレイが嫌がるのも分かるが。
「いいよ、俺が頑張るから! お裾分けしに行って、ついでに料理のしかたも教わってくる」
野菜と果樹はよく見るものを植えた。だから名前は分かるのだが、調理法は詳しくない。旅の間は、野宿以外は外食がほとんどだ。
今度、レシピ本でも探したほうが良さそうだ。
「コウも連れていけよ」
「分かった」
とりあえず木箱にお裾分け分を詰め込んで、旅人の指輪に収納する。
修太は「お隣さんと仲良くなるぞ」と意気込んで、さっそく出かけた。
*
収穫しているうちに、午前十時くらいになっていた。
孤児院の門に行くと、庭で子ども達が遊んでいる。修太は子ども達に声をかけた。
「すみませーん、お隣の者ですがー!」
幼い子ども達はぎょっとこちらを見た。
「お隣?」
「逃げろ!」
「うわぁぁん、怖いよー!」
すると泣きだした子もいて、阿鼻叫喚の事態になった。
まさかの光景に、修太は唖然となる。
(まじで前の住人、何をやったんだよ!)
この怯えようはただごとではない。あっという間に庭から子どもがいなくなり、入れ替わりに院長が外に出てきた。
「あらあら、子ども達が驚かせたみたいで、ごめんなさいね」
おっとりと歩いてきた院長は、不思議そうに小首を傾げる。
「この間もそうでしたけど、どうして中に入らないんですか? 門は開けてますよ」
「よその敷地内に勝手に入るのは良くないので」
「ああ、そういう……。大丈夫ですよ、門を開けている場合は、中に入って、家のほうに声をかけていいという合図なので」
「そうなんですか」
セーセレティーでの暗黙の了解ってやつか。
院長はうんうんと頷いた。
「礼儀正しい方みたいで、ほっとします。少々申しづらいですけど、そちらのお父様がその……ちょっと」
「ああ、おっかないですよね。大丈夫ですよ、黒狼族は悪人でない限り、弱い人には手出ししないので。でも、仲間を馬鹿にしたりすると、怖いですけど」
「そうですね。この都市には色んな種族が集まっていますから、子ども達にもそれぞれへの礼儀はしっかり教えておりますよ。それで、今日はどうされましたの?」
「果物と野菜をたくさん手に入れたので、お裾分けしようかと。あと……急に押しかけておいてなんですが、できればその、これをお代に料理を教えてもらえませんか。旅ばかりしていて、使い方が分からないんです」
修太の頼みに、院長は目を丸くする。
「ま、食べ物を寄付してくださいますの? お昼ご飯を一緒に作りながらで良ければ、教えますわ」
「やった、ありがとうございます!」
思わずガッツポーズすると、コウが足元で良かったねと言いたげに吠えた。
「ワフッ」
「このワンちゃん、おりこうさんですね」
「一緒にいいですか? でも、犬嫌いの子がいるなら、ここで待たせます」
「大丈夫ですけど、子ども達の遊び相手でもみくちゃにされますわよ?」
悪戯っぽく返す院長。それはどうだろうかと、修太はコウを見下ろした。
「オンオン、ワフッ」
どんと来いと言ってるのか、尻尾を振って首をそらす。その頼もしい空気に、修太は噴き出した。
「大丈夫みたいですね」
「ふふっ、可愛らしいワンちゃん。では、どうぞこちらにお入りになって」
「お邪魔します」
修太が院長について横に広い平屋の建物に入ると、子ども達がキャーキャーワーワー叫びながら、他の場所に逃げていった。
(く……っ、これはつらい)
何も悪いことをしていないのに、鬼扱いか。
「すみません」
「いえ」
院長にはそう返すしかないが、がくっとうなだれた。
建物の奥まった場所に食堂があり、その更に奥の、ひんやりと涼しい場所が食料庫だ。
頑丈そうな木製の棚に、モルゴン芋や小麦粉の袋、ハーブや調味料が置かれている。
だが、ガランとしているので、修太は驚いた。
「え? これだけしかないんですか。肉や魚は?」
「そこの氷室に、干し魚と干し肉を入れています。出汁に少し使う程度ですわ。ほとんど根菜ですの。ケテケテ鳥を飼っていますから、卵は食べられますけどね」
「そうなんですか、本当に最低限の補助金なんですね」
「ですが、住む場所と、安全に遊べる広い庭があるだけで、かなり良いほうですよ。スラムで暮らす子もいるんですから。あの子達も分かってますから、文句は言いません」
確かにスラムに比べれば恵まれているだろうが、だからって貧相な食事で耐えるべきというのもおかしな話だ。
(餌付けするみたいで微妙だけど、どうせ食べきれないし、まあいっか)
目的は、隣との関係を良くすることだ。
修太は床のあいているスペースを示す。
「ここに置いていいですか?」
「ええ、どうぞ」
院長の了解を得て、旅人の指輪から木箱を出した。一抱えもある木箱に、野菜と果物が山になっている。それを見た院長は、驚きの声を上げる。
「ええっ」
「え?」
「あ、すみません。まさかこんなに頂けるなんて思わなくて」
確かに、お裾分けというより、食堂に食材搬入してる感じに近い。
「実は、アイテム屋で植物生長促進剤っていうアイテムを見つけて。使ってみたら、一晩でたくさんできたんですよ。でも、俺と父さんの二人じゃ食べきれなくて。庭にはまだ木の実がなってるんですけど、採るのも疲れちゃって放ってます。そちらで収穫してくれるなら、あげますよ?」
「木の実って、そのヴィオーレの実ですか? いただけるなら、是非!」
院長が前のめりで言うので、修太はのけぞった。院長は恥ずかしそうに顔を赤らめる。
「あ、ごめんなさい。私の大好物なんです。それに栄養価も高いので、成長期の子ども達にもちょうどいいですし、余ればジャムにもできます。医者いらずの実といわれていて、一日に一個食べると健康を維持しやすいとか」
ヴィオーレの実は、楕円形の大きな果物だ。紫色の皮に包まれているが、皮をむくとりんごみたいな白い実が出てくる。味もりんごだ。
(この木の実、りんごと同じ評価なんだな)
薬草にもなるので、修太も知っている。
甘いので、おやつにもちょうどいい。
「はい。あと、そっちのシャナもまだあります。放っておいても鳥の餌にしかならないんで、採っていってください」
レモン風味の、姫りんごくらいの大きさをした赤い木の実だ。
「ありがとうございます、助かります。あなたに精霊と祖先の霊のご加護がありますように!」
「あ、どうも」
「ふふっ、そこは、『あなたにも』と返すんですよ。セーセレティー流の祝福のあいさつですわ」
「はい。ええと、あなたにも」
――なんかちょっと照れるな。
修太は顔が熱くなるのを感じたものの、教え通り返す。
他には、緑の皮をしたスイカくらいの大きな【緑瓜】、バジルに似たハーブの【バージ】、玉ねぎそっくりな【レーノ葱】だ。
「緑瓜は嬉しいです。暑い日にぴったりなんですよ。スープや煮物にもできますし、炒めてもおいしいです。それにピクルスにもできるし、塩もみしてゾナと混ぜれば一品になります。万能野菜です!」
マリネも良いなあと、院長はレシピを思い浮かべて笑っている。
ゾナは青紫蘇のことだ。
聞いているだけでおいしそうだ。修太はふんふんと頷いた。
院長は料理好きみたいだ。これは良い相手に教わりにきたみたいだぞと、修太は内心でにやりとする。
「お昼は、緑瓜の卵炒めとポルケにしましょうかね」
ポルケとは、じゃがいもに似ているモルゴン芋を蒸かしたもののことだ。セーセレティーの主食はポルケなので、日本で言うなら、野菜炒めと白ごはんといったところか。
「手伝います。よろしくお願いします」
「始める前に、エプロンがあるなら持ってきてください。汚れますよ」
「あ、エプロンか……。持ってないですね」
「では、イスヴァンのものを貸しますね。今日は仕事に行っていて留守ですし、構わないでしょう」
あの野良猫みたいな少年を思い浮かべる。持ち物を勝手に使ったら怒りそうだが、院長が大丈夫だと言うので、修太は彼のエプロンを借りた。青い布のシンプルなものだ。
「メリッサ、ドルトン、手があいたら料理を手伝ってください」
院長が大声で誰かを呼ぶと、二十代くらいの女性と男性が現われた。ここで働いている孤児院のスタッフだそうだ。冒険者ギルドには院長と三人、住み込みで雇われている。独り立ちする時にそなえ、家事は子ども達も役割分担して手伝い、皆で協力して暮らしているそうだ。
「わぁ、どうしたんですか、こんなにたくさん」
「ヴィオーレの実だ、美味そう」
メリッサとドルトンは驚きの声を上げる。
メリッサとドルトンはどちらも茶色い目を持つノン・カラーだ。メリッサは茶色の髪を三つ編みにしていて、ドルトンは銀髪を短く切り、額に布を巻いている。メリッサは地味な雰囲気なものの、少しぽっちゃりしていて穏やかそうな雰囲気だ。ドルトンは結構がたいが良い。
院長は二人に朗らかに話しかける。
「こちら、お隣に越してこられたシューター・ツカーラさんです。紫ランクの方が引っ越してきたとお話したでしょう?」
「ああ、イスヴァンがジジイの手下で殺し屋とか騒いでた」
ドルトンが思い出した様子で呟く。
「前の人とは全く関係ないので!」
修太はすかさず否定した。グレイのことは否定できないが。
「お庭でたくさん採れたので、お裾分けにいらしたのよ」
「代わりに、料理を教えて欲しくて」
後で残りの果樹も収穫にさせてもらいに行くと院長が話すと、メリッサとドルトンはまじまじと修太を観察する。
「ふうん、あのお爺さんとは、全然違うわね」
「怖かったもんなあ、あの人。犯罪にならないギリギリラインで嫌がらせしてくるんだもんよ。門前でいきなり怒鳴りつけてきたり、少しでもミスするとねちねち言ってきたり」
「そうそう。何をしでかすか分かんないところが怖かったよね」
ひそひそと話し合うのを聞いていて、修太は問いかける。
「ギリギリラインだから、冒険者ギルドも何もできなかったとか?」
「そういうこと。嫌らしいでしょ?」
「シクシクの木はどうして放置を?」
「シクシク? あ、あの木のことね。越してきてすぐに切り倒したんだもの、あなたにはあれが毒の実って分かったってことでしょ?」
修太が頷くと、メリッサは木の名前を呟く。
「へえ、あれってシクシクの木っていうの。変な名前。実はね、あの木の実を拾い食いした子が死にかけたのよ。最悪でしょ!」
当時を思い出したのか、メリッサは腹立たしげにその場で足踏みした。ドルトンが手でなだめ、やれやれと首を振る。
「庭木の枝がこちらの敷地に入りすぎていたら注意もできるが、ちょっと入ってる程度ではできないんだよ。その上で、敷地に入り込んでる分の木の実は、こっちが採っても問題ないルールでな」
「だから木の実を勝手に採って食べて、それで体調不良になった場合、こっちの責任になるの! 犯罪まで行ってくれたら、まだ対処もできるのに。ひどい話でしょ? ほんっと最悪のお隣さんだったわ。でも、孤児院を建てられるような場所は都市内にはそう無くてね、我慢するしか無かったの」
ここぞとばかりに、メリッサはすごい勢いで文句を連ねる。
修太はこくこくと合槌を打った。迫力がすごい。
「次に引っ越してきた人が、紫ランクとはいえ殺し屋みたいってイスヴァンが言うから怖かったんだけど。こんな息子さんがいるなら、きっと立派な方ね! 良かった!」
「え、あの、会ったばかりでそんな、過大評価じゃあ……」
メリッサは褒めてくれたが、修太は気まずい。餌付けみたいに、食べ物を持ってきた自覚があるだけ余計に。
「あら、何言ってるの。紫ランクなんて権力者の子どもは、普通はこんな場所に来ないわよ。寄付はするかもしれないけど、台所なんて近寄らないわ。でも、あんなお屋敷に住んでるのに、使用人を雇わないの?」
「俺も父さんも、あんまり他人を家に入れるのは好きじゃなくて。でも俺達じゃ掃除しきらないから、今度、家政婦を雇えたらとは思ってる」
「冒険者ギルドに紹介してもらえばいいわよ。それに商人ギルドに行けば、使用人のあっせんもしてるわ。腕が良くて信用ある人になると、高くなっちゃうけど」
「ああ、やっぱり給金が安い人は問題があったり?」
修太の問いに、メリッサは考える仕草をする。
「新人はどうしても安いけど、あとはそれぞれよ。週に一度しか働けないって人もいるし……。ただ、商人ギルドは信頼度でランクが変わるのよね。期日を守っているとか、品質が良いとか。人柄が良いから、もめごとが少ないとか」
「そうですね。家政婦だと、料理の腕が良いとランクが高いですわ。仕事内容で給金も変わります。私達は商人ギルドから仕事をいただいた身なので、こういったことは詳しいんですよ。とにかく言えるのは、信頼できる機関からの紹介状があるほうが、良い方を紹介してもらいやすいということです」
院長の説明に、修太はなるほどと合槌を打つ。
紹介状をもらえるということは、信用できる人だと、紹介者が責任を持つということだ。見知らぬ人が急にやって来るより、付き合いのある人から紹介されたほうが安心できるのと同じ理屈だ。
「親と相談してみます。ありがとうございます」
「ええ。では、料理を始めましょうか。まずはこの緑瓜から扱い方を教えましょうね」
院長は朗らかに微笑んで、木箱から取り上げた緑瓜を修太に見せた。




