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「おやおや、君がシューター・ツカーラ君ですか。娘から話は聞いておりますよ」
セレスが祭祀官に寄付の件を伝えると、奥から立派な帽子とマント、三日月を模した杖を手にした恰幅の良い男が現れた。
「ホルス・オルソニアと申します。こちらで祭祀長をつとめている者です。おお、賊狩り殿もご一緒とはうれしいですなあ」
にこにことおだやかに笑うホルスは、人を惹きつける魅力があった。
「だ、第一聖堂の祭祀長様が、寄付の受付を?」
「まさかそんなわけがないでしょう? お父様ったら、その話を堂々と言わないでくださいませ!」
驚く修太に、セレスが訂正を入れる。
「我が娘よ、そう怒るな。一度、会ってみたかったのだ。家族愛の定義が違うのではと、娘に助言してくれたそうですな。おかげで私達はすれ違っていることに気づいたのです。どんな方かと思いきや、想像通り、落ち着いていますね」
神官にそんなことを言われても、あんまりうれしくない。
「そういえば、そんなことを言ったなあ。セレスさん、お父さんと話し合えたんですか」
修太が問うと、セレスはもじもじと手を組んだり開いたりする。
「ええ。私はお父様と食事する時間がなくてさびしかったのですけど、お父様にとっては、父親との食事はつらい記憶になっていたのですって。同じ思いをさせたくなくて、距離を置いていたそうよ」
「しつけが厳しいご家庭だったんですか?」
修太がホルスに質問すると、ホルスは頷いた。
「マナーを守れないと、すぐに叱責されるので、父がいると、ろくに食べられませんでした。ですが、娘は家族とそろって食事したかったそうで……。放置しておくくらいが子どもには気楽と思っていたのに、まさか悲しませていたとは。私の家族愛の定義は、放任だったというわけですよ、サランジュリエの賢者殿?」
「ここでもそれを持ち出してくるんですか!?」
「あなたはお若いのに、薬草のことだけでなく、本当の賢者のようですなあ。はっはっは」
いたたまれない気分になる修太だが、セレスと父親が歩み寄れたのなら良いことだ。
リュークが不満げにセレスに話しかける。
「セレス、悩みがあるなら、私達に相談してくれればいいのに」
「ふふ、ありがとう、リューク。ただ、ツカーラさんとグレイさんの仲が良いのがうらやましくて、ちょっとこぼしただけなの。そしたら、彼、『私とお父さんでは、家族愛の定義が違うんじゃない?』ですって。あなた達はそんなことを思いついたかしら」
「いや、思いつかないよ……」
「占い師のじじいみてえだな」
リュークは首を振り、ライゼルが最近よく聞く言葉を口にした。もしかして、セーセレティー精霊国の占い師というのは、お悩み相談にも乗るのだろうか。
ホルスは微笑んで、娘達の会話を聞いていたが、申し訳なさそうに修太に切り出す。
「では、私は仕事がありますので、祭祀官のシスティを残します。寄付はあちらの部屋でお願いしますね。あなたがたに精霊の祝福がありますように」
杖を振って祈る仕草をすると、ホルスは悠々とした足取りで奥に消えていった。代わりに、二十代半ばほどの若い男が、こちらにお辞儀をする。
「お客様、さあどうぞ。応接室にご案内いたします」
「ありがとうございます。それでは、セレスさん、付き添いをありがとうございました」
「いいえ、こちらこそ、いろいろとお話できて良かったわ。本当に、あなたがたに幸運がありますように!」
セレスは最後まで、修太への憐憫をあらわにして祈り言葉を投げかける。
「リューク、ライゼル、時間があるならお茶をしていかない?」
「いただくよ」
「セレスの茶は美味いもんなあ」
セレス達は和気あいあいと話しながら、聖堂を出て行く。
ほとんどの時間をいつも一緒にいるのに、飽きないのだろうか。
不思議に思いながら、修太はシスティのほうについていった。
※2021.5/17 間が抜けていたため、割り込み投稿しました。




