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とりあえず、修太は“気”について覚えなくていいということで話が終わった。
グレイは出口を示す。
「話はもういいな?」
「ああ、そうだった。聖堂に行こう」
グレイからあからさまに距離をとるライゼルも連れて、一緒に冒険者ギルドを出る。第一聖堂も広場の傍にあるので、少し歩くだけだ。
「あれ? でも、父さんの傍にいると肌がピリピリするっていう理由は聞いてないぞ」
「そいつが他人の気を感知するのに長けているんだろう。俺はほとんど気配を消しているから、普段は気が外に出ることはない。……イライラしている時は、別だが」
ということは、リュークは気配を読むのが上手ということなのか。修太がリュークのほうを見ると、リュークはグレイを気にしながら答える。
「私が身構えるのは、待合室でグレイさんがイライラしている時に、居合わせることがたまにあるからだよ」
「それなら納得だ」
あれは修太も怖いので、リュークが苦手に思うのは自然だ。
「俺も最初はグレイにびびってたもんな。まあ、今でもたまに怖いけど」
「……怖いのか?」
グレイが意外そうに問う。
「うん。でも、怖いのもグレイの個性だから、受け入れてるよ」
「あなた、本当に懐が広いわねえ」
セレスはしみじみと感想を口にした。
「怖いのを個性って言い切る奴には初めて会ったよ」
後方から、ライゼルがこぼす。
話しているうちに、第一聖堂の門前についた。
開け放たれた門の向こうは広場になっており、奥にはハンドベルを伏せたような聖堂と、建物がいくつか密集している。
「そういえば、父さん、ビルクモーレにいた時に、聖堂のことは教えられなかったの?」
「聞いていない」
「フレイニールさんも知らなかったってこと?」
「そうじゃないか? 親父はレステファルテ人だからな。まあ、あれだけ人気者なら、教えられていそうなもんだが。聖堂に行くこともなかった」
ビルクモーレにいる時、修太も冒険者ギルドを出入りしていたが、聖堂のことは耳に入らなかったので、そんなものなのだろう。
「えっ、親父ってことは、グレイさんのお父さんですか? ビルクモーレにいらっしゃるのですか?」
リュークが気にするので、グレイがあっさり返す。
「とっくに死んだ。あそこに墓があるんだ。ダンジョンで、友人に裏切られて殺された」
「は?」
リューク達が息をのみ、目が泳ぐ。
「お前達、冒険者としてやっていきたいそうだな。ダンジョン内では何が起きようと自己責任だ。裏切り者には気を付けろ。――それから、不用意に質問するんじゃねえぞ」
「すみません……」
彼らがあからさまに落ち込んだので、修太は苦笑した。
こういうことがあるから、過去に踏み込んではいけないのだと学習する良い機会になっただろう。グレイも答えなければいいのに、手厳しい対応をする。
しばらく気まずげに黙り込んでいたリュークだが、意を決した表情で問う。
「あの、聖堂だけでなく、貴族の保護はどうですか? お二人が良ければ、ハートレイ子爵家が後ろ盾になりますよ」
リュークが売りこむと、グレイは眉をひそめる。
「王侯貴族にかかわるとろくな目にあわない。却下だ」
「レステファルテの貴族って、そんなにひどいんですか?」
「民をおもちゃにするクズもいたし、俺は毒殺されかけたこともある」
「……セーセレティーの貴族は、そこまでは」
「第三王女の嫁ぎ先の貴族にもめごとがあって、こいつは巻きこまれて誘拐された」
「……すみませんでした。えーと、もしかして、レコンにあげてた騎士団の推薦状ってその辺りのこと?」
リュークが確認する。修太は肯定した。
「よく覚えてるなあ。それだよ」
「君はなんなの。不幸の星の下にでも生まれてきたのかい?」
――そこまで言うほど、ひどいだろうか。
修太は首を傾げる。
「ツカーラさん、あなたに精霊と先祖の霊の祝福がありますように」
セレスがお祈りしてくれたが、修太は喜ぶべきか分からず、会釈にとどめた。
・2021.4/20 リューク達が黒について知ってると勘違いしていたので、その辺を削除して修正しました。




