第十七話 聖堂へ寄付に行こう 1
2021.10/21 元十六話を十六と十七に分けました。
十七話はP1だけ修正が多めに入っています。
『え? ピザの作り方? 俺が料理のことを知るわけないだろ』
冒険者ギルドから戻ってくると、久しぶりに電話もどき――啓介命名のピイチル君がつながったので、修太は啓介と通話していた。
「だよな。他の料理は?」
『説明できたのはフライドポテトくらいだけど、その程度はこっちにもあるよな?』
芋が主食のセーセレティー精霊国なので、芋を使った料理は様々だ。それでも、ポルケという蒸した芋が一番人気だが。
「お前の料理スキルが低すぎてびっくりしたわ」
『しかたないだろ。母さんが、家庭の武器庫だから近づくなって言って、料理全般を拒否してたんだから。まあ、皿洗いくらいはさせてくれたけど』
その原因は、壊滅的な料理下手である雪奈のせいだろう。啓介の妹を思い浮かべ、修太は苦笑いをする。どうして彼女のことを考えるだけで、こうも寒気がするのか。
「商人ギルドにレシピを登録して、無料公開するつもりなんだ。啓介は構わないか?」
『もちろん! そしたら、俺はサランジュリエに行って、レシピを全部書き写して帰るよ。俺もあっちの料理を食べたい。登録できたら教えてくれよ』
「分かった。……ちなみに、ピアスは怒るかな?」
情報は金になると、口をすっぱくして注意するピアスなら、後で騒ぎそうだ。
『ピアスは金をとるべきだって言うだろうけど……俺達からしたら、オリジナルレシピでもなんでもないもんな。シュウだって気が引けるんだろ?』
「まあな。俺達が金に困ってるなら、これで商売するけどさ。余裕ありまくりだし……。この間なんて、スーリアの巣の掃除をしてさ。地竜の鱗から、冒険者達が森に残した武器や防具やアイテムなんかをどっさりもらったよ」
『ぶはっ。相変わらず、モンスターに貢がれてるのな、シュウ』
「笑うな!」
『あははは。前にそのスーリアからもらった媒介石がたくさんあるんだから、利益については、それで納得するようにってピアスには話すよ。レシピのことは気にしないで、好きにしてくれ』
嫁にでれでれの啓介だが、わきまえるラインはしっかりおさえているらしい。ピアスだって、商人として金稼ぎとお金が好きなだけで、欲まみれの悪女ではない。ちゃんと話せば分かってくれるだろう。
『でもさ。薬師ギルドでひどい目にあっただろう? 珍しい知識を披露しすぎると、お前の価値が上がりすぎて、また厄介なことになるんじゃないか。とりあえず、友達に食べさせるのはこのくらいにしておけよ。時間を置いて、思い出したっていうふうに登録していけば、目立たないだろ』
「うっ。そ、それもそうだな……」
『あんまり考えてなかっただろ? シュウは料理のことになると、ちょっと馬鹿になるからなあ。レシピを置いておけば、おいしいものが増える~くらいに思ってそうだよな』
さすがは幼馴染。修太の考えなんてお見通しのようだ。
「そんなことはないぞ……?」
『声に動揺が出すぎだ』
「うっせえなあ」
『図星かよ。あんまりグレイに心配かけるなよ。安全第一でな』
「分かったよ、もう。小言とかやめろよな」
修太が不満を混ぜて返すと、急にピアスの声が割り込んだ。
『なんの話をしているか知らないけど、シューター君はもっと自分を大事にすべきよ。それから、たまにはうちに遊びにいらっしゃいよ。フランジェスカさんとトリトラのほうが来てくれるのよ。トリトラよ、トリトラ。黒狼族に負けてるじゃないの、シューター君ったら!』
「アリッジャは距離があるからしかたねえだろ、ピアス。そうだな、俺もお姫様に会いたいから、冬休みにでも顔を出すよ」
事前にササラからアドバイスされていたので、出産祝いは渡したが、啓介とピアスの娘に会ったのは、生まれてすぐの一度きりだ。学園に入学する前のことだったから、訪問できたのである。
『やったわ! お土産をよろしくね』
「はは……現金な奴……。分かったよ。ちょうど指輪を整理してたら、装飾品が出てきたんだ。ピアスにゆずろうかと思ってた」
『装飾品? うれしい! それから、サランジュリエの特産品も楽しみにしてるわね』
「おう」
ピアスときたら、ちゃっかりしている。だが、人懐っこく甘えられると悪い気はしないもので、喜ばせたくなってしまうのが困りものだった。
そもそも、だ。修太と啓介は家族ぐるみの付き合いをしていて、兄弟同然の親友なのだ。その啓介の妻なので、修太にはピアスは親戚のように感じている。あまり親戚に縁がなかったせいか、修太は家族にはべた甘だった。二人の子どもとくれば、尚のこと可愛い。
ベビーグッズやおもちゃも見繕わねばと考えていると、ピアスが急に礼を言う。
『そうそう、この間は、媒介石をたくさんありがとう。新作をプレゼントするから期待してて。何か欲しいものがあったら、遠慮なく言ってちょうだい。がんばって開発するわよ!』
「赤ん坊の世話で大変な時期じゃないの? ピアスこそ、体を大事にな」
『やだ、うるっとしちゃった。シューター君ってば優しいんだからぁ。お世話は大変だけど、ナニーを雇ってるから、楽をしているほうよ。ケイも、料理以外の家事はなんでも手伝ってくれるし。本当に、良い旦那さん。大好き』
「おい、いちゃつくなら通信を切れよ!」
ピアスがのろけ始めたので、修太はピイチル君に向かって怒る。すると、遠くから赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
「げっ、俺のせい?」
『違うわよぉ。お腹が空いたんだと思うわ。それじゃあ、待たね』
『シュウ、俺も手伝ってくるよ。また連絡する。――あ、ピイチル君の連絡以外でも、手紙をくれてもいいんだからな』
「そうだな。たまには手紙でも書くよ。そっちもくれよ」
日本語を扱えるのは修太と啓介だけだ。使わないと忘れるので、啓介には日本語で手紙を書くのも良いだろう。
『オーケー。ついでに面白い物を見つけたら送るから』
「怪談本だけは絶対にやめろよ!」
『ええー、それが面白いのに』
啓介が怪談や不思議な話を収集しているのは、相変わらずのようだ。
「お前なんか、怖い話をして、娘に『パパ嫌い』なんて言われてしまえっ」
『それは絶対に嫌だ! 分かったよ、お前の苦手分野は送らないって。うわあ、もう、想像するだけで冷や汗が出た! それじゃあな、シュウ』
「おう、またな」
光の鳥が消え、音声も切断された。
啓介達一家が楽しそうで何よりだ。
「サランジュリエの特産品ってなんだろうなあ」
ダンジョン産の何かしか思い浮かばない。手紙を送るついでに、店を覗いて、適当に買ってみよう。




