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「落とし物?」
黄の曜日。学校帰りに冒険者ギルドに寄り、夕方の報告ラッシュが終わった頃をみはからって受付のリックに話しかけると、リックは意外そうに問い返した。
「なんでそんなに驚くんだ?」
「こんな細剣と指輪、冒険者ギルド内で拾ったわけじゃないだろ」
修太の当然の質問に、リックは首を傾げる。
「西の森だよ」
「都市の外とダンジョン内じゃ、拾った者がそのまま自分のものにしたって、誰も文句を言わない。わざわざ届ける奴はいないよ」
「名前入りなんだ。誰かが探してるかもしれないだろ」
「シューターは良い奴だなあ」
呆れたように言われると、なんとなく馬鹿にされている気がする。修太がムッと口をへの字に曲げると、リックは手をひらひらと振る。
「親切だと感心してるだけだって。――おっ。これ、ガレウスの細剣じゃないか」
細剣の名前を読み、リックは驚いて、食い入るように見つめた。
「もしかして、ボスの巣の近くまで行ったのか?」
「そうだよ。タマゴドリを避けるうちに、ちょっと奥深くまで迷いこんでな。洞窟の中にあった。そっちの指輪も」
「洞窟に? 前に地竜が暴れてた時に討伐に行って、地竜に殺された冒険者のものなのに」
「俺が理由を知るわけないだろ」
改めて考えると、タマゴドリが集めていたなんて話したって、信じてもらえると思えない。修太は核心をにごして、強引に話をまとめることにした。
「遺族に渡しておくよ。こっちの指輪も、エレからティーへって書いてあるから、たぶん持ち主はティリアだ。最近、森で婚約指輪を失くしたって騒いでたから。恋人がエレニオっていうんだ」
「間違いなさそうだな」
さすがはリック。よく周りを見ている。
「今回は預かるけどさ。わざわざ届けなくていいからな」
「分かった。仕事を増やして悪かったよ」
「お前のことだから、都市のルールを気にしたのかもしれないけど、外とダンジョンのことはわりとアバウトだからなあ、この国は。ま、気になることがあるなら、いつでも聞いてくれ」
「おう、ありがとう」
リックの好青年っぷりに、思わず拝みそうになってしまい、修太はぐっとこらえた。
「あ、ちょうどティリアが来たな。おーい、ティリア。これ、お前の探し物じゃないか?」
「何よ、リック。ダンジョン帰りで疲れてるのに……あーっ」
銀髪をポニーテールにして、甲冑を着た剣士の女性がうるさそうにこちらを見て、大きな声を上げた。
「その指輪は! 間違いないわ、私の指輪! 良かった~、失くしたって言ったら、エレニオがへこんじゃって」
「そりゃあ、婚約指輪を失くされたらなあ」
「ネックレスにして、首から下げてたのに! チェーンが切れちゃったのよ。今度から保存袋に仕舞っておくわ。リックが見つけてくれたの?」
「いいや、シューターだよ」
リックが示して初めて、ティリアはカウンターの前に立つ修太に気づいたようだ。
「ツカーラさんが良い人っていうのは、冒険者ギルドじゃ有名だけど、真実そうなのね。ありがとーっ」
「えっ。ちょっ。痛い痛い、鎧が痛い!」
感極まったティリアに抱擁されたが、彼女の腕力と鎧に挟まれて締めあげられる羽目になった。修太の悲鳴を聞いて、ティリアはすぐに離れる。
「あら、ごめんなさい」
「ティー! 指輪を失くしたかと思えば、少年と浮気なんて!」
待合室では、小柄な青年が青くなって、頭を抱えている。
「エレニオ、浮気じゃないわよ。彼が婚約指輪を拾って、わざわざ届けてくれたの」
「えっ。西の森で落としたから、見つけるのは絶望的だったのに」
どちらもセーセレティーの民らしく、エレニオも輝く銀髪を持っている。ティリアと並ぶと、彼女が強い騎士に見えるだけに、優男のように映った。
「ありがとう! ぜひとも、お礼をさせてくれ」
二人は大喜びで礼を言う。そして、謝礼金の申し出を断った修太に、今度、おいしいお菓子を持ってくると言って、連れ立って帰っていった。




