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その夜、修太はグレイに勉強会のことを話した。
「というわけで、明日と明後日、友達を家に入れていい?」
「お前が家に招こうと思う程度に信頼しているなら、構わねえぞ。だが、初日は俺もいる」
どうやらグレイは友人を見極めるつもりのようだ。
「過保護すぎません?」
バルが口を出す。修太も同意見だ。
「まあでも、父さんにとってはテリトリーだもんな。中をうろつく人間が安心できるか見ておいたほうがいいだろ」
修太だけの家ではないので、グレイが納得したほうがいい。
「それもそうか」
この一言で、バルは気にしないことにしたようだ。
「なあ、俺も傍で見ていていいか。勉強が気になる」
「面白くねえと思うけど、それでいいなら」
「ああ、問題ない」
知識欲旺盛なバルらしい。
バルは居間の本棚を示して、修太に問う。
「そこの本、読み終えたんだよな。他になんかねえ?」
そう言われて、旅に出てから三週間以上が経っていることを思い出した。居間に置いている本は少ないので、バルほどの熱心さなら読み終える頃である。
「読むのが速いな。小説でもいいなら、まだあるぞ。専門の本なら、図書館塔に行ったほうがいい」
「ああ、この間、行ってきた。入場料が必要だからな、週一くらいにしておく」
バルがそう言うのは、まだ弟子身分で、十五歳でもないから冒険者にもなれない宙ぶらりん状態だからだろうか。バルはたまに都市の外に出て獲物を狩り、店に売ることでいくらか小遣いにしているようだ。それでも散財できるほどの余裕はないのだろう。
(そんなに読みたいなら、今度、本屋で仕入れてくるか)
そう考えていて、十月――ここでいう紫夕の月は、セーセレティーでは年に二回ある収穫祭があることを思い出した。
「来月末が収穫祭だぜ。フリーマーケットやガレージセールが多いし、市も出るから、古書が出回ると思う。買うならねらい目だぜ」
「俺の小遣いで買えるなら、買うけどな。レステファルテよりも羊皮紙が安くっても、やっぱり本は貴族の持ち物だよ」
「マエサ=マナでは、なんでそんなに家にあったんだ?」
「物々交換。商人には、岩塩はそれくらい魅力的ってこと。だいぶぼったくられてただろうが、あんな辺鄙な所に、重くてかさばる本を運んでくれるだけましってことで見逃してたよ。それに、元手ゼロだしな。痛くもかゆくもねえ」
エズラ山で拾えばいいだけなので、黒狼族にとってはさして懐が痛むわけでもないそうだ。
「よし、そんなに読みたいなら、今度、本屋に行こうぜ。俺も読みたいから、ばんばん買ってこよう」
「は? 家にあるもんを見せろと言ってるだけだぞ」
「金ならあるから問題なし! それにほら……この間、スーリアからいろいろと押し付けられ……もらったからな。あれを売ってもいいし」
「ああ、そういや、そうだったな」
「そろそろ旅人の指輪の中を整理しないとやばい」
「お前さ、モンスターのヒモになって、貢がれて暮らせば? 一生楽ができるぞ」
「やめろ! そんなことしたら、巣に閉じ込められるだろ!」
おそらくなんの問題もなくそうやって過ごせるだろうが、モンスターは修太を外に出さないようにするだろうと簡単に想像がつく。
「え……できるんだ……うわ……」
「引くなよ! だいたいあいつら、〈黒〉だから可愛いとか言ってるけど、度をこすと、一口かじりたいとか言い出すからな」
「それは怖い」
修太はため息をつき、これまでに会ったモンスターを思い出した。
「そういや、寝ぼけてお前を食おうとした氷竜とかもいたな」
「あの時は助けてくれてありがとう、父さん」
グレイがぽつりとこぼし、修太は礼を言った。バルが「うわあ」という顔で、静かに引いていた。
しばらくほのぼの?話が続くと思うので、章題に迷ってあんな感じにしていますが、決まったら変えると思います。
書きたいことメモを開いて、時系列に並べなおして、思いついたのを追加して~としてたら、見事にのんびり回ばっかり(笑)
ときどき事件も混ぜつつで、とりあえず十月末の収穫祭くらいまでをぼちぼち書いていこうかな。(現在はおおよそ八月――赤火の月の下旬くらい)
書きたいことメモっていうメモ帳に書いてるデータがあるんだけど、久しぶりに読み返してたらどれも楽しそうでにやにやしちゃいますね。それがどう形になるかは私も知らんけど(笑) マジでこの話はノリで書いてるからねえ。




