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四日後、ミストレイン王国から、セスとともに国王の使いがやって来た。
保養所の食堂に集まって、使いの言葉を聞く。
「雨降りの聖樹の葉でも、〈復活薬〉の代用となるそうだ。陛下じきじきに検証してくださった。ひれ伏して喜ぶがいい!」
尊大な態度で、使者は言った。金髪碧眼の美しい男は、派手な羽飾りがついた帽子をかぶっている。羊皮紙を掲げて、胸をそらした。
「まさかじかに検証していただけるなんて!」
「あの難しい薬をあっさりと!」
「ミストレイン国王陛下、なんて方だ……」
サランジュリエの薬師達はどよめいて、自然と頭を下げる。
薬師達にはその一言が実力を示す言葉になり、イファへの尊敬の気持ちがあらわになった。これには国王の使いも満足したようで、くるくると羊皮紙を丸めると、後ろを振り返る。
二十代半ばの女性エルフが歩み出た。大臣のエファリアといい、貿易の調整に来たという。
「あなたがたの代表と話し合いたい」
「私です。どうぞよろしくお願いします」
アズラエルが丁寧にあいさつをして、彼が泊っているホテルのほうへ移動することになった。
「俺達はこれでお役御免かな?」
アズラエルとエファリアが去ると、修太は傍らのグレイを見上げる。だが、グレイではなく国王の使者が口を挟んだ。
「まだだぞ、人間の子ども。イファ陛下より、海龍との対話をとりもったことへの褒美が出ている。寛大な処置に感謝するがいい!」
「……褒美?」
いったいなんの話だろうか。修太はきょとんとした。
「いや、あれはたまたまのことで……、むしろ聖樹の葉の取引につながったのでそれで充分……」
「嘆かわしい!」
「うわっ」
突然、使いの男が芝居がかった仕草をして叫んだので、修太は思わず後ろに飛びのいた。彼は大げさに泣くのをこらえるポーズをとる。
「それとこれとは別問題であろう! よいか、災害級のモンスターの被害を未然に防いだのだぞ。功績には見合った対価を! ごく当たり前のことであろう!」
「す、すみません。そんなに怒らなくても……」
どうして褒美をくれるという話で、修太は使いに叱られているのだ。
「聖樹の葉の取引は貿易であり、別のことである。なんだ、貴様。エルフが人間のようにケチくさいと思っているのではないだろうな!」
「まったく思ってません! ありがたく受け取らせていただきます!」
「それでよろしい。まったく、これだから人間というのは……」
さりげなく人間への悪口もまじえながら、使いは懐から出した保存袋を掲げる。
美しい木彫りがされた箱の中には、それ自体に価値がありそうな銀製の宝石箱と、縁に複雑な銀糸の刺繍をほどこした黒いマントが入っている。宝石箱を開けると、親指大の金色の石がぎっしり詰まっていた。
「宝石……?」
「魔石だ。エルフには〈黄〉の魔法使いが多いゆえ、我らは魔石を貨幣代わりに使っている。水にでも浸けて使うがいい」
「ああ、なるほど」
イファは修太が魔力欠乏症であると知っている。魔石や媒介石を水につけておくと、魔力が水に溶けだして魔力混合水に変化するので、治療薬代わりに選んだのだろう。
「それじゃあ、こっちは……」
背面には、オルファーレンからもらったポンチョのように、気温調節をする魔法陣が縫いとられていた。
「え、これ、ものすごく高価なんじゃ……?」
「災害級モンスターを未然にくいとめるのは、これくらいの報酬が妥当だ。それでも、あのモンスターがくれた龍の鱗にははるかに及ばぬがな」
「ソウナンデスカ」
修太は旅人の指輪に入れている、ドラゴンの鱗を思い出した、冷や汗がにじむ。中身を木箱に戻して、修太は丁寧に頭を下げる。
「結構なお品をいただきまして、感謝していますと国王様にお伝えください」
「子どもにしては礼儀正しいな。良かろう。その言葉、陛下のお耳にお入れしておく」
最後まで尊大な態度で、国王の使いは保養所を出て行く。
セスが修太の肩をポンと叩いた。
「いやあ、イファ様は、冬の二百年を宰相として支えただけの方だよ。功績には対価を示す。素晴らしい方だ。――それから、お土産をありがとう。あれだとわりに合わないと思ってね、とりあえずキノコを山ほど持ってきたからもらってくれ」
セスの保存袋から、大きな木箱に山盛りつまれたキノコが取り出された。
「は!? いや、もらってばっかりですけど!」
「貴重な薬草に、あのお土産だから、これくらいはもらってくれ。それじゃあ、私は大臣の警護に戻るからまたね」
セスは修太がお土産にと、小さくくだいた媒介石を入れておいたことを言っているのだろう。
「たいしたことしてないんだけどなあ」
報酬を半ば押し付けられた修太は首を傾げる。
「いや、何を言ってんだ、ツカーラ。ドラゴンと友好的に話せるだけですごいことだぞ」
セヴァンが突っ込みを入れ、食堂に集まっている面々はうんうんと頷く。
「そうですかねえ。なんか、龍のじいちゃんのおかげで、いい感じに丸くおさまりましたね」
「龍が出てきた時は死を覚悟したけど、終わってみると拍子抜けだよ」
ウィルがぼそりとつぶやき、ヘレナも同意する。
「本当に! なんであんた達は驚かないのよ」
「何年こいつらと旅してると思ってるんだ。あれくらいで驚いていたら、とっくにストレスで死んでるぞ」
グレイがさらりと返事をして、キノコを検分する。
「キノコは育ちすぎるとそれほど美味くないんだがな。これはどうなんだ?」
「とりあえず炭火で焼こうよ、父さん」
宝物の入った箱は旅人の指輪に入れ、修太はキノコの調理について、目を輝かせる。
「そこで報酬より、キノコのほうが気になるのかよ……」
けげんそうにするレコンに、トリトラは笑い返す。
「シューターだよ? 食い気のほうが優先に決まってるじゃん」




