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断片の使徒 After   作者: 草野 瀬津璃
紫ランク昇格試験編
121/178

 3



 トリトラが唐揚げを食べたいと言い出して、追加でケテケテ鳥を買ってきた。

 保養所に戻ると、台所を借りる許可をとり、修太達は料理を始めた。


「何してるの?」


 暇をしてぶらついているヘレナがひょっこりと顔を出す。


「料理。自分で作ったほうが屋台より美味いんだって」


 修太は首だけ振り返って答えると、旅人の指輪にいつも入れている調味料を出した。トリトラが一口大に切り分けたもも肉とむね肉にフォークを突きさしてから、にんにく(リーム)醤油(ゼユル)の合わせタレに漬け込む。しばらく置いておかないといけない。

 その間に、レコンはあっという間に鳥肉をさばき終えて、木串にさしていく。

 塩やハーブソルトをかけたものを、外に石で簡易カマドを作って、炭火でじっくり焼くようだ。


「これから夕食なのに?」


 ヘレナはけげんそうにしていたが、修太のしていることが気になったらしく、こちらにやって来た。ちょうど水をもらいに来たウィルやセヴァンも加わって、修太の手元を眺める。


「もしかして、秘伝のタレ?」


 見ては悪いのかなという気づかいを込めて、ウィルが問う。


「俺の故郷の料理ですよ。唐揚げっていいます」

「カラアゲ?」

「ごちそうしてあげたいけど、この肉はトリトラのなんで」


 そんなに興味たっぷりに見つめられると気まずい。

 すると、ちょうど下ごしらえをしていた料理人がこちらにやって来た。二十代前半くらいの若い男だ。


「面白いねえ。ねえ、夕食のケテケテ鳥の塩焼き、それに変えようか? あ、でも、材料がないかな。このソースはなんだろう」

「スオウの調味料で、ゼユルですよ。これとリームを混ぜただけです。下味で塩コショウは振るけど」

「意外と手が込んでるんだね」


 修太が調味料を提供すると、料理人は教えるままにあっという間に下ごしらえを終える。


「で、これを小麦粉か片栗粉にまぶして、揚げるんですよ。小麦粉にハーブを混ぜても美味いっす」

「小麦粉にハーブを混ぜるのかい? ハーブソルトならよくやるけど、つなぎにハーブってしたことないな。それ、使っていい?」

「もちろん。故郷じゃ普通ですし」


 普通かはともかく、アレンジ程度にテレビで放送されている程度の内容だ。


「お前な、料理のアイデアは金になるんだぞ」


 レコンが串をさしながら言った。修太はすかさず言い返す。


「いいじゃん。美味いものが増えたら、ハッピーだろ」

「僕、シューターの、食事についての平和主義は好きだなー」


 トリトラが笑いながら言った。ケテケテ鳥をさばいた残り――骨などを洗い、ザルに移している。干して乾燥させたものを保存袋に入れておいて、旅の合間にスープの出汁に使うそうだ。

 その後、夕食に出したカラアゲは大好評だった。




「君、薬草だけじゃなくて、料理も詳しいんだね」


 翌日、アズラエルの護衛組の騎士達と合流すると、御者の騎士に話しかけられた。


「なんです、いきなり」

「保養所に泊まった仲間から、カラアゲのおいしさを自慢されたんだよ」

「後でレシピをあげましょうか?」

「いいの? ありがとう! 俺、鳥肉料理が大好物なんだ」


 御者の歓声が思ったよりも響き、徒歩で護衛している騎士が何人か振り返った。とがめる視線に、御者が首をすくめる。


「他の奴にも教えていいかな?」

「大丈夫ですよ」


 どうやら、うらやましいという視線もあったみたいだ。御者がほっと息をつく。

 そして、ミストレイン王国の門に到着した。いぶかるエルフの門衛(もんえい)に、修太は手紙を渡す。


「あの~、すみません。そちらにお住まいのセス・マッカイスさんに会いたいので、こちらを届けてもらえませんか」

「なんだ、お前は。人間の用事など知るか!」


 門衛は人間嫌いのようで、手紙を返される。


「セスさん達が銅の森にいた時からの知り合いなんです。ウェードさんかエトナさんでも構いませんから」


 ムッとしつつも、下手に出て交渉する。とどめに、スノーフラウ・改を旅人の指輪から出した。


「セスさんから、バ=イクをもらう程度には親しいです! シューター・ツカーラと言ってくれれば伝わりますから、お願いします!」


 二人の門衛はバ=イクを見て、わずかに動揺を見せた。


「銅の森というと、アーヴィン殿下の守衛(しゅえい)一族のことではないか」

「どう見ても本物のバ=イクだが……」


 話し合ったが、門衛はすぐに応じない。


「人間の頼みをただで聞くなどごめんだ」

「手間賃なら、もちろん払いますよ」


 門からミストレインの中心部までは遠いので、運送代を払うのは当たり前だ。


「後ろにいるのは、見たところ、騎士や冒険者だろう。私の出すクエストを達成したら、報酬として頼みを聞いてやる」

「ちょうど困り事があってな」


 門衛達は意地悪ににやにや笑っている。修太は嫌な予感がしたが、後ろからグレイが言った。


「何をさせようって言うんだ? 内容次第だ」

「実はな、この崖下に大型の()が大量発生して困ってるんだ」

「モンスターか?」


「いいや、虫だ。だが、育った蛾はミストレイン内の畑に卵を植えつけて、幼虫が野菜を食い荒らすんだよ。国内で見かけ次第、一頭ずつ駆除しているが手間でな。大本の巣を叩けば早いだろ」

「どうしてミストレインの連中はそれをしないんだ?」


 守衛は崖を指さす。


「巣が崖下の狭い場所にあるからだ。それから、卵を狙ってモンスターが湧くし……」

「幼虫は自爆することがあって危険だ」


 それはもうモンスターではないのか? 修太はうろんに思うが、虫なんだろう。


「それから、体液がくさい。誰も近づきたくないのさ」


 いろんな意味で害虫なのか。くさいと聞いて、グレイは眉をひそめる。数秒考えて、答えを出した。


「罠をしかけて、一網打尽にすればいいか」

「なんでもいいよ、退治してくれるならな」

「クエストにするなら、ちゃんと契約書を用意してもらう。それでいいな」


 グレイが話をまとめ、ウィルを振り返る。


「了解。契約書作りなら僕がするよ」

「決まりだな。さて、ここを降りるのは手間だな。下はどうなってる」

「俺が見てくるよ」


 バ=イクのエンジンをかけると、ふわりと宙に浮く。そのまま発進する前に、グレイにポンチョの端をつかまれた。修太はつんのめって座席から落ちそうになる。


「うわっ」

「待たんか、馬鹿。大型の蛾がいると、今しがた聞いたばかりだろうが」

「そうでした。でも、これを使えるの、俺だけだぜ?」

「俺が一緒に行く。お前らはここで待っていろ」


 グレイは邪魔なハルバートをトリトラに預け、荷台に乗ってからスローイングナイフを構える。


「ナイフで大丈夫ですか?」


 トリトラが問うと、グレイは頷いた。


「大きい虫なんだろ。落とせばいい」

「それもそうですね」


 そんな感じなのかと修太は首をひねるが、彼らの言い分にいちいち反応していると疲れる。


「それじゃあ、行ってきます」

「気を付けるんだよ、ツカーラ君」


 ウィルは修太にだけ、心配そうに声をかけた。



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