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保養所から十分ほど歩くと、商店通りに出る。薬屋や薬草売りが多い中、お守りを売る屋台や容器を並べる店を見かけた。
「健康祈願、病気平癒?」
通り過ぎざまに見えたのは、エターナル語で書かれた単語だ。修太は思わず声に出した。
「お前、あんな難しい字が読めるのか」
レコンが呟き、修太のほうをちらりと見やる。
「そうか、あれって難しいのか」
「嫌味か?」
「読めるから、よく分からないんだ」
「意味不明だ」
それはそうだろう。修太はレコンの意見に同意する。修太や啓介が言語に困らないのは、霊樹リヴァエルの葉を飲んだおかげであって、学んだからではない。
「あの瓶や樽はなんだろう?」
「水を汲むんだろ」
グレイが肩越しに振り返って言った。
「ああ、そっか。ここは名水が有名なんだっけ」
「水が綺麗だと、酒も美味いよ。期待できるね」
「トリトラは酒のことばっかりだな」
上機嫌のトリトラは、たぶん気づいていない。黒い尾が楽しそうにブンブン揺れていることに。
見かけた雑貨屋でグレイが紙煙草を買い、修太は屋台でモルゴン芋をふかしたポルケと、ケテケテ鳥の串焼きを買った。
木陰のベンチで食べている間、トリトラは酒屋に消える。離れた場所でグレイは煙草を吸い、修太の隣で、レコンも串焼きを頬張る。
残念、はずれだ。サランジュリエでの馴染みの屋台のほうがおいしい。
それでも食べ物を無駄にする気はないので、黙々と食べる。レコンがぼそりと呟いた。
「なんか、この肉は微妙だな」
「え? いたんでる?」
「たぶん処理が下手なんだよ。羽の抜き方が悪い。舌触りがひどいだろ」
全てたいらげると、レコンは市場のほうへいなくなった。
「なんだ?」
「どこに行くんだ、あいつ」
「さあ。肉が微妙って言ってから、出かけていったぞ」
グレイに訊かれても、修太は知らない。相変わらず、黒狼族は気まぐれだ。せめて一言言ってから離れればいいのに。集団行動が向いていなさすぎる。
しばらくして、トリトラがいくつかの酒瓶を木箱に入れて運んできた。
「薬酒に、果実酒だって。おいしいと思う?」
「薬酒だあ? 消毒薬でも飲んでおけよ」
グレイが嫌そうに言った。
「ハーブを漬けた酒ですよ。肉にハーブで味をつけるのと、似たようなものでしょ」
それはどうだろう。トリトラの言い分が、修太には謎だ。
「あれ、レコンは?」
瓶をガチャガチャと鳴らしながら、木箱を地面に置いて、トリトラは周りを見回す。そこへ、ケテケテ鳥の足をロープで結んでぶら下げたレコンが戻ってきた。最初は死体かと思ったが、生きているようだ。
「え、鳥を飼うのか?」
「まさか。料理するんだ。俺が作ったほうが美味い」
「レコン、そんなに焼き鳥を食べたかったのか」
どうやらレコンの好物は、鳥肉らしい。
スランプってる間に、ぶらぶら町めぐりで何を書くか忘れたので、(急遽入れた題材だから、メモしてない;)、話を進めようと思います。




