エルマ奪還戦 その10
さて、帰り道となる通路は天井が低いので、飛んだり跳ねたりすればエルマさんの頭が割れかねませんね。
「いた、いたいよぉ」
それ以前に、この段階で頭が擦れて痛そうにしていました。
だとしても、病み上がりのように弱った体で歩かせれば時間ばかりかかってしまうので、あの方法を使いましょう。
「お姉さんがちっちゃくなった!?」
肉体操作で体をいじり、背の小さな子供の姿になりました。
これで間隔が空き、エルマさんは頭上からによるダメージは無くなるでしょう。
「いかがでしょうか、このようにエルマさんと同い年のような姿にも変えられるのですよ」
「ふぇ〜。なんだかお姉さんがお友達になってくれたみたい」
そう感嘆の声を出したエルマさん。
何故か私の頬をつまんだりこねくり回したりとしていました。
「わぁ〜! もちもちほっぺだぁ〜! かわいいなぁ、お姉ちゃん」
「む」
「あっごめん、お姉さんはお姉さん……」
こんな幼い子からちゃん付けは遠慮したいですね。
『お姉ちゃん』
『お姉ちゃん』
『そこはかとない姉妹感』
『てぇてぇ』
『RIOお義姉ちゃんだっこ〜』
このように、視聴者様からここぞとばかりにまくし立てられるので。
「もういっそ好きに呼んで下さい。エルマさんが私に甘えられるようなら何でも構いません」
「うーん。でもお姉さんって呼び方が落ち着けるからそれでいい?」
「ほっ。私も、その呼ばれ方がしっくりくるので、こちらこそですよ」
「にへへ〜」
エルマさんは、そう口を緩ませていました。
なんてことのないやりとりをし、急接近しては距離が遠のきまた狭まる。なんだか毎回のようにやっているような気がします。
「ウガ」
「肯定ですね。承知しました」
尚、あの元人間のエネミー達は、どなたも帰るべき体が無くなっているか腐り果てているかだったため、私にはどうしようもありません。
なので彼らが収監されている鉄格子をこじ開け、元に戻らない旨を伝え、死にたくない者は野に帰し、苦しまずに死にたいと願う者だけを天へと送り届けました。
▲▲▲
『一階だー!』
『やっと清浄な空気を吸えるぅぅ』
『エキサイティングな一日だった』
『倫理観ぶっとび施設とかもう行きたくねぇ』
『エルマちゃん仕草がいちいち庇護欲掻き立てるわなぁ』
『エルマちゃんは配信画面の華だな』
地上へと戻って来れました。
特にエルマさん付きなのが成果ですね。
「む。魔法」
一難去ってまた一難ですか。
出入り口の扉を開けて外に出た瞬間、火球や水球、色とりどりの魔法の球がこちらに放たれていました。
「いまのなに!?」
「敵襲です。長時間配信していれば、建物の外で待ち伏せはされますよね」
横に走って躱した後、エルマさんを降ろして、大剣を構えて迎撃姿勢をとります。
「RIOが出てきたぞ! ガッチリ囲め!」
「ガキも一緒だ!」
「よし、また魔法を同時に放つぞ!」
「ヒュー! RIOのやつ、囚われの姫を救った王子様みてぇだ!」
一部茶化してくる者がいましたが、敵意を放つ冒険者達数名が次の魔法を放つ準備をしていました。
この状況、好ましくはありませんね。
ここに留まり一斉射撃を食らえばひとたまりもなく、屋内を戦場にしても、攻撃の余波で建物が倒壊すればエルマさんは圧死しかねません。
「多勢に無勢、ですけど一人一人は私より劣っていそうです」
一瞥する限り相手は攻撃魔法を得手とする冒険者が多いため、魔法が放たれる前に接近出来さえすれば、一人ずつ切り崩して全滅させることが可能なはずです。
なので敵の一人まで走り、うまく攻撃の射程距離内に入ろうとしたタイミングで幾多もの魔法がとんできたのですが。
「エルマさんが、これはいけません」
この私に直撃するつもりと推測していた魔法球は、何故か私を避けるように軌道がそれぞれ曲がり、後ろで屈んでいるエルマさんの方へと殺到していたのです。
「うわわ! 当たっちゃうよ!」
「はっ」
全弾斬り落として事なきを得ましたが、私に当てないなんて解せない挙動です。
命中精度が低い者ばかりとは考え難い、ならば、放つ直前からエルマさんを標的として考えるが自然……。
そう思索していたら、一際目立つ錫杖を手にした男性が真相を喋っていました。
「いいか! ガキの方をよく狙え! RIOは必ず庇いに来る。ガキの息の根を止めるつもりで撃て!」
「「「アイアイサー!」」」
……防衛対象から潰すのは戦略的に間違いではありませんが、彼ら冒険者、もう戦闘者と改名した方が良いのでは?
こちらの意思を聞き入れてくれないか試みましょう。
「お待ち下さい! この娘は人間であり、無害な非戦闘員以上でも以下でもありません! あなた方が真っ先に討滅すべき相手は私のはずです!」
「聞き流せ! RIOが死ぬまでガキの脳天を目掛けろ!」
訴えを一蹴されるなんて、とんだ冒険者達と鉢合わせたものです。
私が必ず庇いに来ると見越した上だとしても、本来守り通さなければならない人民をよく遠距離攻撃出来ますね。
どうやら冒険者ギルドの政治が続く限りは、エルマさんは人社会に復帰出来ないと判決されてしまったようです。
「《魔法・水の気弾》」
「《魔法・雷の烈弾》」
「《魔法・朱火の暴弾》」
「押せ押せ! 慈悲をかけるな!」
続く無数の剛速球が直線の進路で放たれました。
エルマさんを失うのは敗北と同義。方向転換して走り、魔法弾よりも先回りし、エルマさんを脅威から護りましょう。
「お姉さぁん!」
「ふぅ、痛くも痒くもありませんね」
半分は剣で凪ぎ、もう半分は我が身を挺して防ぎ止めましたが、これではジリ貧です。
一発ずつの威力は肉が抉られるほどで、エルマさんには一度食らうだけでも致命傷となってしまいます。
「おいおい、あんたの予想通りじゃねえか」
「RIOにはエルマとかいうのがよっぽど死なれたら困るみてぇだ」
「勝てるぞ! 俺達がRIOに!」
「形がどうあれRIOさえ討ち取っちまえばSランク上位陣にまで昇格だ!」
情け容赦ない冒険者達。
建物内に引いて別の出口から脱出したいものですが、彼らの魔法は遠隔操作性が自由自在の域であるために、軌道の予測が出来ず一瞬たりともよそ見する隙がありません。
「ピンチだよ! なんとかならないの!?」
「今も頭を高速回転させて考えてます。それまで耐えるしかありませんね」
こうして作戦を組み立ててている間にも増援が来てますます劣勢になるかもしれないのに、呑気だと自嘲しましょう。
その後、防御面積を広めるために傘に変形しましたが、状況は変わらず防戦一方。
この場から動かずにいれば、敵のいずれかが建物に侵入し、挟撃されてしまいます。
ギルドマスター姉妹も、この猛攻を前にしては身を隠すだけでやっとです。
改めて考えてみれば、彼らがエルマさんをしつこく狙う理由は私を確実に消耗させて倒すためでしたね。
なのでエルマさんの安全を第一とするなら、いっそ私が倒されるべきかもしれません。
エルマさんを狙う凶弾が止んで、冒険者に連れられた先で丁重に扱われるならばそれで……、私との義理の繋がりがあるエリコだっていますし……。
断固拒否です。
あの冷血な人体実験を秘密裏に行う組織にエルマさんが預けられる。承諾出来るわけがありません。
「わたし、どうすればいいの、お姉さん……」
エルマさんは現状私に頼るしか道が無いようです。
ですが、そのつぶらな瞳に込められた思いは、他に助かる道がいくつもあったとしても私のみを信頼するという確固たる思いが透き通って見えました。
こんな正義のせの字も無い吸血鬼に一つだけの命を預ける心意気、またもや皮肉です。
皮肉に次ぐ皮肉、世界は皮肉に満ちていて、だからこそ飽きませんね。
「エルマさんは何もしなくていいのですよ。大船に乗ったつもりで、お姉さんに任せて下さい」
「お姉さ……?」
この窮地を打破するためには、私の身が危うくなりますがこれしかありませんね。
「一度しか言いません。この傘を絶対に手放さず、全身を覆うように被って下さい」
そう声をかけ、エルマさんに日傘を握らせます。
少なくとも日傘で防げる威力の魔法弾なので、これでエルマさんは身の安全が確保出来るはずです。
「だ、駄目だよ! これお姉さんの大事なものだよね!? わたしが持ってちゃお姉さんが戦えなくなっちゃう!」
「心配には及びません。軟弱者の寄せ集めを全滅させるのは、素手で十分ですから」
慢心をこれでもかと詰め込んだ発言。
しかし、過度なまでの慢心をしなければ、エルマさんは安心出来ず傘を受け取らなくなってしまうでしょう。
どれだけの屍を積んでも現実世界には影響を及ぼさない無価値な仮想世界で、守りたいものと初めて思えたエルマさん。
そこに打算や目論みなどは無く、ただ生き延びさせたいという理由だけで決死の覚悟をも決められ、愛情をも注げられる小さく脆く愛おしき人間です。
さて、両手が軽くなりました。
「悪役吸血鬼によるジェノサイドの時間です。望まぬ殴死の恐怖、蘇っても忘れないようその目に焼き付けると良いでしょう」
もう振り向きはしません。冒険者により閉ざされたエルマさんの道を殴って拓くまでは。
進むも退くも地獄なら、望んで地獄へとつき進むのみです。
「丸腰だぜぇー! 素手スキルゲットしてねぇのに、アホな奴だなぁ」
「よし決まりだな、RIOを袋だたきにするぞ!」
「いやまてコラ、ガキに攻撃した方が良いだろ!」
「いやRIOに目の前まで来させたら一撃で死ぬぞ分かってんのか!」
「いやガキからだ!」
「いやRIOからだ!」
勝算が限りなくゼロに近い難局でしたが、冒険者達が和を乱している間が勝負所です。
「行かないで! お姉さあああん!!」
エルマさんと共に帰るため、差し違えても一人も残さず倒しましょう。
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