RIOとエリコ その3
ヤンデレりお様という言葉を思い出した
エリコ。配信で観ていた通りでした。
戦意に溢れた瞳でエネミーと戦う姿、とても凛々しくてうっとりします。
今が敵同士であることすらも、忘却の彼方へと消え去りそうなほど。
どこをとっても平均的な自分の中の秘匿している感情が増大し、顔が茹でられているかのように熱くなってしまいます。
飛び散る汗の一滴すらも、私だけのものにしたいと思うほどの劣情が波のように押し寄せてきます。
「まだまだっ!」
姿こそいつも近くにいる時と違えど、やはり恵理子なのですねと、二つのあなたを重ねて見てしまいました。
「あの人、においはこわいけど凄くかっこいいね」
隣に立って観戦しているエルマさんから、エリコを見直す発言が出ました。
「エルマさんもそう見えますか? それもエリコの魅力ですが、他に幾らでも知れる部分がありますよ」
そう、エリコは誰から見ても素晴らしいと言えるでしょう。
私の眼には太陽そのもののように光り輝いて見えて、太陽の光を反射してるだけの月光しか拝めない吸血鬼では、見惚れてしまうだけとなるはずです。
「受けてみて! 《閃光斬》!」
【私の体力はあと半分か、これだけあれば十分だ】
目を戻せば、剣に光を纏わせたスキルによって、ヴァンパの胸部に刻まれた傷跡が溶岩のように染まり、再生を阻害し始めました。
【まだまだ来い! 天駆ける飛翔の悪魔将が、地の底へ送り届けてやろう!】
すると、遠くまで吹き飛ばされていたフラインが怯んだ状態から立ち直り、一気に滑空して強襲。
ヴァンパとせめぎ合っている最中のエリコの背後を突ける形となりましたが。
「《シールドチャージ》!」
接近される前に、エリコは盾を構えて高速で突進するスキルを発動し、ヴァンパを戦場の端まで吹き飛ばしました。
「そろそろバフがきれそう! お願い!」
「合点っす!」
時折こうして仲間から強化魔法を受け取っていますが、それが隙になるかは別問題。
「そこだよっ!」
肉薄したフラインの攻撃を盾で受け流し、ほぼ同時に一太刀浴びせてHPを削ると、殲滅力こそそこまでではなさそうですが、ひたすら堅実な戦いぶりはまさに上位の冒険者らしさを際立たせています。
『ぐへへ無しのマジモードエリコはホンマ戦いのエキスパートだな』
『二体が襲ってきても、二体同時に相手をする必要はない。片方をシールドチャージで場外ノックバックして一対一の状況を維持するってのが、エリコの戦術なんだと』
『フラインもヴァンパも飛んでる分、軽いからなぁ……』
『エリコはHP半分も削れてないとは不味い、というかRIO様が加勢しなけりゃこんなもんなのは必然』
『アハハハ、ボクなら5秒あれば終わりを見させられるけどねぇ』
『クッ、RIO様のテイムしたエネミーがマ○ンガ様とラン○アーマーだったら……!』
上級悪魔二体が相手だろうと、まるで予め立てていた作戦の通りに立ち回り、勝ちに行く。
花も実もある勇者とは、まさしくエリコのことです。
【面白い! 不死を死に追いやるほどの敵と出会えるとはな!】
固唾をのんで夢中になっていると、ヴァンパの残りHPはあと僅かになっていました。
これ以上、私の勝手な事情に付き合わすのも酷でしかありません。
「そこまでです! フラインとヴァンパは戦闘を切り上げて下さい」
撤退を命じ、有無を言わさず二体とも宝石になって戻りました。
「ふぃ、まずは私の勝ちだね」
「はい、お見事です。私と戦う資格があると認めましょう」
「あのさ……なんでもない。吸血鬼と戦えるならなんだっていい」
そう言いながら一度剣を納め、回復魔法でダメージを完治したエリコでしたが、「なんでもない」なんて言葉は何か裏がある証拠ですよね。
しかし、エリコのなんだっていいと口にした瞬間、どうしたことか口に出そうとしてた興を削ぐような発言を躊躇ってしまいました。
「私も、エリコのような完成された矜持を持つ冒険者と戦えるなら、どんなことも受け入れる所存です」
杖を前に構えます。
変形は……許してくれませんか。私の覚悟は、本番になっても形になれなかったようです。
エリコは信念を貫き通すとの結論がとっくに出ているのに、私は葛藤してばかり。そんな自分がしてあげられることは、せめて表面だけでも吸血鬼の通りに取り繕うとするだけです。
「まずはペナルティでも決めましょうか。私が勝利したら、実力不足などではなく単なる無力だと思い知った後、もう二度と私達に手出ししないと約束して下さい」
あなたとは二度も敵対したくありません。
倒しても倒されても、軽蔑の目が向けられる懸念を気にしながら戦うなんて、勝敗よりも先に心が潰れてしまいます。
本当に言いたかったのは「私を嫌わないで下さい」でしたが、拒まれることを恐れている故にこのペナルティとなりました。
「私ってね、負けたらそこで全部終わりの覚悟でここに来たんだよ。このペナルティなら、失うものはなんにもないようなものだね」
「む、言うまでもありませんでしたか」
失言と受け取られるなんて。
今日は判断ミスばかりでてんで駄目ですね。
次に、エリコがペナルティを提示する番です。
「私が勝ったら、エルマちゃんを連れていく」
「何ですって?」
ペナルティにしては空前絶後なまでに衝撃的な内容。
『なんだって!?』
『エルマちゃんをPET対象に!?』
『エリリオ……エリリオが拗れるような展開は草枯れる……』
『負けた奴は勝った奴に何でも奪っていいし何を強要してもいいのは勝負の摂理。ボクはエリコを支持するね』
嗚呼、申し訳ありません。私にはあなたという人の考えが尚更分からなくなりました。
「ひいっ!」
当のエルマさんは膝から崩れ落ち、私の後ろに隠れて怯え出していました。
私が倒されればエルマさんだけがここに残るのは難しく考えなくても分かります。
ですが、連れてくなんて物言いが私から見たエリコにはとてもあり得ず、エルマさんを庇うように立っていました。
「怖がらないで聞いて。その後はギルド本部にある施設で人間に戻す、昼も外に出歩けるようにさせる。もちろん痛い思いとかはさせないよ」
「ふむ……」
エリコは悪へ対する憎しみの他に、神さえも口出し出来なくさせる優しさも持ち合わせていたのでしたか。
それよりも、吸血鬼化したエルマさんを人間に戻せる方法があったことがまたもや衝撃的です。
ゆで卵が生卵に戻らないように、吸血鬼化すれば二度と人間になれないという先入観を思いきり否定するような冒険者ギルドの万能な科学力が驚きでした。
「RIOはもう断罪されるしかないけれど、エルマちゃんは全然やり直せると思うから。大丈夫、私がみんなを説得する、人としての幸せをプレゼントしてみせるまで、エルマちゃんを見捨てないで一緒の配信を企画するから」
それが、あなたの要求なのですね。
裁くべき者を裁き、弱き人へは救いの手を差し伸べる。
それだけに留まらず、善悪を未来まで含めて見定められる慧眼さえも備えているだなんて、どこまで探ってもあなただけにしかない魅力が見つけられます。
「あのお姉さんに連れてかれるの、なんか怖いよぉ。どうにかしてやめさせられないの、お姉さん……」
しかし、自分の足元に目線を向ければ、涙を潤ませながら私の脚にしがみつくエルマさんの姿。
そうでした。エルマさんにだって、種族こそ吸血鬼だとしても自分の意思は通常の人間同様に持っています。
エリコによる善意で人間に戻れたとしても、精神の拠り所を失くしたエルマさんは今後一生安心が訪れるはずがないのです。
「……エルマさんにも、人ならざる者としての尊厳があります」
意識せずに口から出ていた言葉。
想い寄せる者に対し、守りたい者のためのものでした。
「人か吸血鬼かの選択肢を与えたのはこの私です。しかし、エルマさんは自分の意思で私と同じ吸血鬼になりたいと勇気を出してくれました。いくらエリコでも、エルマさんを不幸だなんて決めつけるのは許しません」
きっと、大半の人があなたの方を正しいと唱えるのでしょう。
されど、私にだって貫き通したいものがあるのです。
何と反論されようとも、エルマさんは私のチャンネルにおいて代えられない主要人物ですから。
『そうとも、RIO様ラブのエルマちゃんはRIO様にしか幸せにしてやれないからな!』
『冒険者程度のエゴじゃ、エルマちゃんの心変わりは起こらないと断言しよう』
『エル×リオおたくを敵に回すとヤバいぞぉ〜』
『キミにしては正統派アンチヒーローっぽい返しじゃん』
目的を達成するまでは、エルマさんを手放したくはありません。
「うん、RIOならきっとそう言うと思ってたよ」
「えっ」
ところが、エリコからは肯定でも否定でもない言葉が返ってきました。
そのまま真後ろへと振り向き。
「みんな、バフお願い、とびっきりのをかけて」
「ふぅん、やる気がムンムン満ち溢れたってところかしら?」
「あらまぁ、それじゃあお熱い魔法をかけてあげるわね」
エリコの仲間達それぞれの手のひらから放出された光の帯を受け取ったのです。
「私もRIOも相当頑固みたいだからね。これで私達は相容れなくなった、命懸けになるための理由作りはそれで十分でしょ。だからもうさ、私に優しくするのはおしまいにして」
あっ……エリコの考えていることが分かってしまいました。
全部、私に気遣ってあのようなペナルティを出したのですか。
私に発破をかけることで、エルマさんとは違った形で手を差し伸べてくれるというのですか。
嗚呼……いけませんってば。あなたを曇らせたくありません。
あなたは永久にそのままのあなたで……その清く優しく正しい信念で、応援する人から救いを求めている人まで眩ませるほど輝くべきです。
私では、勝てないというよりも負けたいという思いが先行してしまいます。
このまま一思いに倒されてしまえれば、お互い悲しんだり苦しむ必要が無くなるという希望が、戦闘意欲を失せさせてくるのです。
「お願いだから勝ってよぉ……助けてお姉さん……」
ですが、負けられない理由があるのもまた事実です。
事実に背いたところで、私だけでなくエルマさんまで苦しむ終幕なのです。
「ではエリコ、胸を借りるつもりで参ります。《魔法・闇の気弾》」
「【Sランク序列1310位・プリンセチュエリコ】。いくよ!」
エリコと、終わりを迎えるまで戦える証明の攻撃を放ちました。




