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085 わたくし初めて謁見いたしますわ

ロスタイム、ロスターイム!(テンプレ化しつつある

 白い建材に、赤い絨毯が差し色として置かれた空間。

 グリエンド王国王城、その謁見の間に僕らは居た。

 気になることはいくつもあるが、最たるものはこの場に居る人の少なさだろうか?

 少なくとも目に入る範囲では僕、イリス、お爺さま、ロバート、王様、そして王族らしき誰か。


 本来ならいるであろう文官や護衛の騎士がひとりも居ない。お爺さまやロイドがいるから戦力的には申し分ないとしても、これは一体?


「先ほど、息子から困った話を聞かされてしまってな。罪もない平民を、町を、盛大に焼き払ったとのことだが……真か?」


 そこまで考えたところで、王様から声を掛けられる。

 さて、なんと答えたものだろう。真かと言われたら、真も真なわけだけど、素直にそう返して良いものか。かといって下手な嘘は通じそうもないし、王族への嘘がバレたら……うん、考えたくも無い。


 この息子ってたぶん第二王子だよな。


 考える時間がほしいけど、王様への返答にそんな時間は掛けられない。


「真でございます、国王陛下。偉大なるグリエンドの王と(まみ)える栄誉を賜りましたこと、このクリスタ=ブリューナク、光栄にございます」

「!?」


 背後でイリスが息を呑み、驚いているのが伝わってくる。

 たぶん「クリスタさまそんな態度とれたんですか」とか思っているんだろう。忘れられがちだが、僕が横暴に振舞っているのはブリューナク家のイメージを損なわないためだ。そしてブリューナク家は王家へ忠誠を誓っているので、王家に対しては礼儀正しく接しても大丈夫、というか接さないと仮に王様が許してくれてもお爺さまに殺される。


 今やらかしたら多分、イリスも巻き込まれるから迂闊なことは出来ない。……もう十分巻き込まれてると思うけど。


「ふむ。何故そのようなことをしたのか、説明して貰おう」

「はっ」


 説明する内容は、表向きそういう噂が流れるようにと考えていたものでいいかな。

 とはいえそのまますぎると平民好きらしい王様から反感を買うだろうから、多少いじって……。


「全てはグラスリーフの町に蔓延る流行病を食い止めるためにございます」

「続けよ」

「事の始まりはグラスリーフが領主」


 あれ、コレットパパの名前なんだったけ。えーと、えーと。


「こ、コンラッドの一人娘コレットからの密告でした」


 危ない、本気で名前忘れかけてた。


 今回話す内容をまとめよう。


 僕はコレットからコレットパパ、つまりコンラッドが《魔食菌(マナイーター)》を私欲のために解き放ち、それを制御できないにも関わらず王家へ報告もせず、密かに解決しようとしていると密告を受けた。


 それを受け《魔食菌》が広まる前に通常の方法で対処するのは困難。最悪国中に蔓延すると判断し、罹患者の魔力ごと焼き払うことにした。王家への報告が遅れたのは事態が一刻を争うものであったからに他ならず、他意はなかった。


 そう、《魔食菌》は焼き払ったことにする。アリスちゃんの中に残っていると知られたら、最悪実験台、モルモット扱いされてもおかしくは無い。王様がそんな事をするかは分からないが、お爺さまならやりかねない。


「では貴女は、その病原菌の処置のためならば、国民が犠牲となっても構わないと、そう判断したのですね?」


 憤りを隠しもせず問いかけてきたのは、王様の隣にいた若い王族だ。

 なんとなく予想はついているが、間違えたらそれだけで首吊りものなので誰何(すいか)はしない。


「そういえば会うのは初めてになるか。紹介しよう、わたしの息子マリウスだ」



 この人が噂の。一応学園へ送り込まれる前に肖像画は見ていたけど、実物のほうが存在感があるな。見た目はよく言えば綺麗、悪く言えば優男だけど、その姿勢、体感の良さから身体を鍛えているだろうことがわかる。顔立ちはロバートとも、王様とも似ていないけど、髪の色からして肉親なのは間違いないだろう。王妃さまとはお会いしたことが無いから、そちら似なのかもしれない。


「お会いできて光栄です、マリウス殿下」

「そんなことはどうでもいいのです。それよりも、わたしの問いに答えてください」


 この王子さまは国民第一って感じかな。王様のほうはもう少しこちらの都合も慮ってくれそうだけど。いや、まだその判断をするには早いか。相手はこういったやりとりについて海千山千の猛者だ。対して僕は悪役令嬢を演じていても中身は日本の庶民。相手の考えを図ろうにも器が違いすぎる。


「たかだか数百人の犠牲で王国中の民を救えるのなら、迷う必要はありません。それに結果的に病原菌だけを焼き払うことに成功しましたので、民に犠牲はでておりません」

「生きていればいいというものではないでしょう。それに、報告では件のグラスリーフ家さえ焼いたと聞いていますが。その後どうなりましたか?」

「ああ、彼らですか。ご安心ください。逆賊たるコンラッドは討ち取りました。残るコレットはまだ若く、女の身ではありますが領地を運営するだけの才はございますので、何ら問題はないかと」


 討ち取った、の辺りでそれぞれの空気が変わる。

 王様は面白そうに。ロバートは、あれは僕にアイアンクローをしようとする時の顔だ、やめてほしい。お爺さまは何を考えてるのか分からないポーカーフェイス。そして王子さまは。


「貴族を、この国の民を貴女は独断で処罰したというのですか?」


 たいそうお怒りだった。

 いや、実際はお兄さまのいるどっかにジェイドの手で送り込んでもらってるはずだから、生きてるんだけど。というか。


「お待ちください殿下。彼の者は流行病の情報を秘匿していました。その結果上位貴族たる侯爵家の人間にその病が罹患していたら、そしてそれを王都に持ち帰ってしまったら。そうなっていれば、わたし自らの手で処罰しておりました」


 そう、僕が逃がさなかったら、お爺さまが殺しに行くんだよね、間違いなく。

 グラスリーフの町のガラスは確かに貴重だけど、それを管理するのがコンラッドである必要は無い。お爺さまにとっては男爵程度、代えの利くコマに過ぎないんだ。


「ですが、彼女は以前にも勝手な行動を。そう、実の兄を焼き討ちしたというではありませんか」

「マリウスよ、私は迂遠な話は好かん。はっきりと自らの希望を述べるがいい」


 話が長くなりそうだなぁと思っていたところで、王様からの催促がとんだ。


「率直に言えば、わたしは彼女には勝手な活動を謹んでほしい、そう思っています。国のため、民のためというのなら、大きな動きをする際は、国の認可を得てほしい。わたしは何か間違ったことを言っていますか?」

「それは」

「マリウス殿下。貴方は貴族の特権をとりあげる、そう申したいのですかな?」


 意外なことに、そこへ助け舟を出したのもまた、お爺さまだった。


「貴族には自らの土地を管理し、利益の一部を国へ提供する代わりに、その管理する範囲での自由を認められているはず。それを取り上げるともなれば、貴族たちの反発は免れますまい」

「それはあなた方ブリューナク家も同じ、という事ですか?」

「まさか。我々は王家へ忠誠を誓っておりますとも。ですがブリューナク家は恐れ多くもグリエンド王国の貴族、その頂点を勤めさせていただいております。そのような立場ですら特権を取り上げられるともなれば、他の貴族たちの同様は如何ほどになるか」


 現在この国が奴隷解放派と奴隷推進派で割れているのも、結局のところこれに尽きる。

 ようは自分達の権力を少しも下げたくないという貴族と、貴族の権力は民のために使ってこそという貴族たちで割れているのだ。


 ブリューナク家は奴隷を管理していることもあり奴隷推進派だけど、奴隷の解放に反対する最たる理由は国内に混乱を生まないためだ。王子の意見は下手をすれば奴隷解放以上に混乱を引き起こす。


「ではロイルよ。王家と侯爵家、王族と貴族ではなく、あくまでもマリウスとクリスタ二人の間のみの、正当な取り決めであればよかろう」

「そうであれば問題はないかと。ですが陛下、どのような理由をもって取り決めを交わすのです? 今回クリスタは己の権利の範囲でしか事を起こしておりません。領主代行の許可も取り付けた上での行動です」


 領主代行というのはコレットのことだ。本当の領主になるにはたとえ領主の子供であっても、王様から改めて領地を授与してもらう必要がある。けれど領主に何かあった際臨時で勤めるものがいなければ混乱を生む。なので一時的に領主の子供か、セバスチャンさんのような家令が勤めることになっている。


「それについてだが、ここは力が全てを決めるグリエンドの地。決闘にてケリをつけるのが一番だろう。マリウス、それにクリスタよ。それで問題あるまい?」

「はい、父上」


 冗談じゃない、問題だらけだ。


「決闘と申されますと、剣術でしょうか? 或いは魔法で? 恐れながら、王族の方へ刃を向けるようなこと、わたくしには」


 できません。というか全うに戦ったら勝てません。


「ならば陛下、このわたしに考えがあります」


 ここで口を挟んできたのはロバートだ。

 彼は公爵。王族の血縁者なので、王様へ物申せる数少ない人物のひとりだ。


「マリウス、クリスタともに未だ学生。王族、貴族という違いはあれど、学園内において身分の差などあってなきようなもの。ならば学園の催しごとでケリをつけるのがよろしいかと」

「ふむ。なるほど。それならば角も立たんか。学生の話であれば、多くの貴族にとっては他人事であるからな」

「その通り。二人とも、それでいいな?」


 詳しい説明もなくいいと頷けるはずも無い。

 そして非常に嫌な予感がする。


「……さて、不肖の身ではその胸の内を察することができません。よろしければ、不出来なわたくしにそのお考えをご教授いただければと」


 いや、本気でわからないんだが。この力を全てとするグリエンド王国で、剣でもなく、魔法でもなく、一体何で決闘する気なんだ? 学園の催しって、実地訓練か? でも王子さまは政治科だし。

 まさか腕相撲(アームレスリング)とか言わないよな。格闘技ならありか? でもこの国にメジャーな格闘技ってあったっけ。


「わたしにはわかりましたよ叔父上。今期の学力試験、そこで決着をつけようということですね?」

「……は?」


 がくりょくしけん? なにそれおいしいの?

 王子さまがいうところの叔父上、つまりロバートもうんうんと頷いている。実技の授業が中心だから忘れそうになるが、彼も一応教師だった。本業は聖獅子騎士団の団長だけど。いや、公爵が本業か?


「何か不都合でも?」

「いえ、そのようなことは決して。なるほど、武力ではなく、知力にて競い合おうという事ですのね。それであればたしかに、他の者に気取られることなく密かに、それでいて確実に勝敗を決することができますわ」


 たしかにじゃない! 完全に頭から飛んでたぞ。

 魔導騎士科だって座学はあるけど、実習が中心だし、そもそも第一王子は政治科だろう。いったいどうやって勝負するつもりなんだ。テスト範囲だって違うだろうに。


「もちろんわたしたちでは受ける試験の内容が違いますが、基本の4教科は被っています。それに加えて提出するレポートの内容がどれだけ国益になるかという条件ならどうでしょうか?」


 基本の4教科というと、国語、数学、社会、魔法学か。国語と数学は日本のものとあまり変わらない。ただ国語は日本語じゃなくてグリエンド語だし、数学は日本に比べれば大分レベルが下がる。社会はこの世界の歴史やこの国の建国にまつわるものから、各地の主要産業に加え、仮想敵国の軍備なども入ってきたりと面倒くさい。魔法も幅広く、各魔法の体系から魔物や魔獣についても全部ここへ放り込まれている。それぞれの専門家もいるけど、それは学校を出てから研究所などで学んでいくらしい。


 あとレポートってなんだレポートって。それは初耳だぞ。


 僕は勉強にあまり良い思い出が無い。前世でも浪人してたし、その分努力もしたが、報われていたとは言い難い。なにせ前世最後の記憶は大学受験に失敗した挙句体調を崩し、お地蔵さまのところへ走って行った挙句雨の中倒れてお陀仏というものだ。

 第一王子がそんな事知ってるはずもないけれど、学歴コンプレックスを拗らせている僕へこんな勝負をしかけてくるとは、中々えぐいことをする。


「これは正々堂々の勝負です、貴女が勝利した場合、わたしは貴女の行動に今後口を挟まない。それで如何ですか?」

「……かしこまりました。この勝負、謹んでお受けいたします」


 如何もなにもない。ここまで条件を整えられて、王族の言葉を蹴り飛ばせるやつなんているものか。お爺さまなら可能かもしれないが、僕はまだ爵位も受け継いでいない貴族の三男、表向きは長女に過ぎない。


 ここで断りでもしようものなら、王族の申し出を袖にした愚か者として話が広まってしまう。いまここにいる人物の口は固そうだが、どこに目や耳があるかわからない。

 最初から僕に断るという選択しなどなかったのだ。


「話はついたようだな。では、細かな条件はロイルとロバートに詰めさせ、おって通達する事とする。今は休むが良い」

「は、失礼いたします」





 謁見の間から出され、王城の入り口へと向かう中、以外にも見張りの兵士などはつかなかった。

 まぁ、これでも公爵家を除けば国のナンバー2とも言える家柄だし、それを監視できるような立場の人間は居ないからか。あとたぶんだけど、お爺さまあたりが監視魔法を張り巡らせていると思う。


 なにはともあれ、人目はない。


「イリス。あなたはわたくしの手を取り、そうして黒の制服に身を包んでいます」

「え? あ、はい、クリスタさま。大丈夫です、わたしはクリスタさまの味方です」


 謁見の間で言葉を求められることがなくとも、やはり緊張していたのか、イリスは少し遅れて応えてくれた。


「でも、よかったですね。クリスタさまは、その……ですから。王族の方と決闘と聞いてどうなることかと。勝負の内容が学期末試験でよかったです」


 魔法が使えないから、って事だろう。誰に聞かれるか分からないので、ぼかしてくれるのはありがたい。


「あなたをわたくしの仲間であると見込んでお願いがあありますの」

「なんですか?」

  

 勝負が武力じゃないと決まって安堵しているイリスには申し訳ないが、魔導騎士科第一席、つまり魔導騎士科で一番勉強の出来る彼女にはこれから手を貸してもらわないとならない。

 というか、そうしないと詰む。 


「勉強、教えてくださらない?」

「え?」

「わたくし、そういうのよくわかりませんの」

「ええぇぇえぇぇええぇ!?」


 だって裏口入学だからね! 前世の勉強も数学以外内容が被ってないしね!

 あはははは……どうしようね!?

学園に通ってるんだからそりゃあ試験くらいありますよ!


ちなみにロイルというのはお爺さまの名前です。


あ、3章も入ったことですし、楽しんでいただけていたら評価やブクマよろしくお願いします。

実はブクマするだけでも2pt入るんで、まだの方がしてくれるだけで日刊ランキング入りしたりします。

僕の作品に限らず、好きな作品があったらしてあげてください。


既にしてくれた皆様は本当にありがとうございます! どこかの即売会でお会いしたら握手させて頂きたいくらいです。

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