077 わたくし産廃を見つけましたわ
急いで書き上げたのであとで修正するかもしれません。
飛び続けるゴーレムに連れられて、何度か目の角を曲がると真っ白だった壁が緑色に染まっている。
そういえば病院でも目への効果を考えて壁を白から緑しようという運動があったけど、そんな感じだろうか?
なんて考えていた矢先、壁が蠢いた。
壁じゃない、恐らくスライムの一種だろう。それがびっしりと壁を覆っている。
無数の触手が生え出し、僕ら目掛けて勢いよく伸びる。
「ちょっ」
ゴーレムはその全てをかわしきり、先へ進んでいく。
なるほど、壁が綺麗だったのはこいつが汚れを食べていたからか。
「な、スライム!?」
「クリーナースライムです。魔法・物理共に高い体性を誇りますが熱に弱いので」
「任せろ! ”燃え盛れ火炎、猛き焔よ”《焼却炎》!」
なんか後ろで恐ろしい爆発音が響いてるけど、気にしないことにしよう。
大分先行してるはずの僕までものすごい熱波が届いてるけど。
いやだからこそ、振り返ってはいけない気がする。
「”貫いて”」
突如壁から生えた氷柱がガーベジゴーレムを貫こうと襲い掛かる。
ゴーレムはブーストを利用して緊急回避するも、あのままだと下手したら僕に直撃していた。
ありがとうガーベジゴーレム。
「ちょっと! わたくしに当たったらどうしてくれますの!?」
スライムを無視して追ってきたらしいミゾレが、僕ら目掛けて精霊魔法を放っていた。
ゴーレムに吸われるわ触手は迫るわ熱波は届くわ氷柱は掠めるわと散々だ。
「ん? あれくらいなら障壁で防げる」
「っ……、つ、捕まってると上手く魔法が使えませんのよ!」
「なるほど。ごめんなさい」
という事にしておく。
ん? ここ氷柱が掠ったのかな? 塗装が剥げて違う色が見えている。
いや、ここだけ塗り重ねられているのか?
白いボディの中に、うっすらと薄緑色の模様が見える。
そこで突然ゴーレムが停止する。
周囲には特に何も無く、通路と壁、それだけだ。
てっきりゴミ捨て場にでも連れて行かれると思っていたから、よくわからない状況に戸惑ってしまう。
氷柱にぶつかったことで誤作動でも起こしたのだろうか?
ゴーレムはゆっくりと壁に向き合うと、側面から折りたたみ式のアームを伸ばし、コンコンとノックする。
地味に高性能だな。
すると壁の一部がガコンっと真上に開く。
中身は真っ暗、というか縦穴になっているようだ。
あ、なんかこれ見たことある。ダストシュートっていうんじゃなかったっけ?
そしてそこへ放り込まれる僕。擬音にしてひょいっとか、ぽいっとか。当然落ちる。
再び壁が閉まる中、ミゾレが飛び込んできた。
「ミゾ……」
「”風よ、逆巻いて”」
僕が話しかけるよりも早く、ミゾレは精霊へと語りかける。
突風が真下から吹き上がり身体が浮かび上がる、とはいかずとも、落下速度が緩やかになっていく。
人ふたりの重さを支えるほどの突風なので髪やら服やらばっさばさだし、当然言葉もまともに発せない。
次第に下から光が見えてくる。
そうして僕らは広い空間の、天井部分へと現れた。
風の精霊魔法に支えられ、ふわふわと、もといぶわっさぶわっさと降りていく僕たち。
「よっと」
「あ、ありがとうミゾレ。ところで、下ろしてくださいます?」
「ん」
着地したとき、僕はミゾレにお姫様だっこされていた。非常に恥ずかしい。
鍛えているとはいえミゾレの細腕で男を抱えられるとは思えないし、無詠唱の強化魔法で使っていたのかな。
「クリスタさん軽い」
「そ、そう。ありがとう」
女の子に軽いと言われる男の気持ちを誰かわかってほしい。
僕は心で泣いた。
落ち着いたところで状況確認だ。
見たところここはゴミ捨て場、というか何かの廃棄場らしい。
試験管のようなガラス製品や魔道具らしきもの、鉄骨やらゴーレムの残骸らしきものまで山となって積みあがっている。
その山の数もひとつやふたつではなく、この空間も結構広い。
正確な広さがわからないけど、100m四方はあるんじゃないだろうか?
「廃棄場?」
「そのようですわね。スクラップ置き場といったほうが近い雰囲気ですけれど」
「ん、出口探す」
生ゴミの類いがないことが救いだろうか。
この密閉空間であの独特な臭気が充満していたらと思うとゾっとする。
軽く見たところ出口がない。
とはいえ、いくら廃棄場だからといって出入り口がダストシュートだけという事は無いだろう。
たぶん、このゴミ山に埋もれて見えていないだけだと信じたい。
そうしていると、僕らが落ちてきたダストシュートから再び何かが落ちてきた。
見れば僕を連れ去ったガベージゴーレムだ。
全身焼け焦げ、大半が溶けている。
次いでイリスとジミーが着地。
いや、あの高所から普通に着地しないでほしい。うっすらと光ってるから強化魔法使ってるんだろうけど。
最後にジェイドが降りてきたけど、彼はクラゲに支えられていた。
触手のうち何本かを上に、残りで身体を支えさせているみたいだ。召喚魔法、便利。
「大丈夫ですかクリスタさま!」
「よっす、無事かお前ら」
「ご無事ですか、お二人とも」
飛びついてきたイリスを支えてくるっと一回転。
「危ないですわよイリス」
「そんな事言ってる場合じゃないですから! 本当に大丈夫ですか!?」
「落ち着きなさい、大丈夫ですから」
そういえばイリスは僕が魔法を使えないことを知ってるんだよな。
そんな僕が物理攻撃の通じにくいゴーレムに連れ去られたら心配もかけるか。
空とべたーとか言ってる場合じゃなかった。
「あら? あなた達何故汗だくなんですの?」
地下2階に入ってからというもの、まるでエアコンでも効かせているかのように涼しいんだけど。それはこの廃棄場もかわらない。
「あ、ごめんなさい、臭かったですよね」
「いえ、そんなことはないのですけれど」
「ジミー様の高位魔法で道が一部溶解しまして。強引に突破してきたのでこの有様です」
見ればみんなの制服は一部焦げていた。
この制服、魔導騎士科に相応しく防御力が高いはずなんだけど、まじか。
「ジミー貴方……」
「仕方ないだろう。お前追いながら、仮にもスライムを瞬殺するにはあれくらい必要だったんだよ」
「ミゾレさんに凍結していただこうにも、スライムを潜り抜けてさっさと進まれてしまいましたので」
「あ……ごめんなさい」
「ミゾレさんが謝ることじゃないですよ、おかげでクリスタさまを見失わずにすみましたから」
なんでもミゾレの残した光の精霊がここまで誘導してくれたらしい。
ちゃんと後続への道しるべを残すあたりさすが冒険者、探索慣れしてる。
「でも助かりましたわ。ちょっと探しても出口が見つかりませんでしたの。ジェイドが居れば帰りも安心ですわね」
頼れる次元魚さんがいるからな。
ここから地上に出るくらいわけないだろう。
「それはともかく、なんだここ。ゴミばっかだな」
「魔導師たちが作ったものの廃棄場でしょうか? こんな場所があるなど、聞いたこともありませんでしたが」
「ジェイドはずっとここで冒険してたんだろ? 探索済みの地下2階で知らない場所があるのか?」
「探索済みといっても、恐らくもう何もないだろう、というだけですからね。ここは半ば隠し部屋のようでしたし」
落ちているガラクタのひとつを拾い上げ、しげしげと見つめるジェイド。
本業が冒険者であり、魔導師である彼にとっては興味深い品なんだろう。
「詳しく調べたいところですが、機材もありませんし、ここでは難しいですね。鑑定したいところですが、生憎と私は古物商というわけでもありませんし」
「わたしもお父さんに教えて貰った魔道具や魔導武器しかわからないです」
残念そうなジェイドと、申し訳なさそうなイリス。
不測の事態はおきたけど、別に急いで帰る必要は無い。
何より今回の目的は魔道具を起動するための魔石だ。その魔道具だってこの遺跡で見つかったらしいから、ここを調べたら他の方法が見つかるかもしれない。
なら、これは無駄な道草ではないはずだ。
「じゃあ、文字通り《鑑定》できる方を御呼びしましょう」
「「え?」」
折りたたみ式の簡易テントを広げた。
入り口に箒の一部を貼り付けた。
「ぱんぱかぱーん、シルシルですぅ」
「なんでまた私まで……」
メイド服のシルシルとナーチェリアが現れた。
「「「「ええええええええ!?」」」」
「なんでお二人がここに!?」
「先日お会いした際に、固有魔法でわたくしのテントまで転移する許可を与えておきましたわ」
「ありなのか? そういうのありなのか!?」
「あ、テントはぁ、きちんと組み立てていただかないとぉ、転移できませんよぉ。家として認められませんのでぇ」
「組み立てたら認められるのかよ!?」
認められるらしい。
家にしか転移できないからチートとまでは言わないけど、十分にぶっこわれ能力である。
「まだメイド服という事は、受付業務中ですの?」
「ん? ああ、今日はもう終わりよ。いまはあのへっぽこ4人組を鍛えてたとこ」
「ナーチェはぁ、意外と親切なんですよぉ」
「やる気のある奴らが嫌いじゃないだけよ。あたしはどれくらいまでなら死なないか分かるから、ギリギリまで鍛えられるしね」
鑑定ってHPみたいなものまで見えてるんだろうか。見えてるんだろうな。
現実でHPギリギリまで削られながらの訓練って、地獄と呼ぶんじゃないだろうか。
僕らにはそんなもの見えないし、仮にお腹がぱっくり裂けて血が流れている時に、HPの残ってるからまだいけるとか言われても、頭おかしいよこの人としか思えないだろう。
「んで、何の用?」
軽く事情を説明して、二人に、というか主にナーチェリアへと協力を仰ぐ。
彼女の鑑定さえあれば大した手間ではないはずだ。
代わりに、ここで目ぼしい物があればナーチェリアに対価として渡すと約束した。
「まぁ、それくらいなら構わないけど。うわ、名前表示だらけで前が見えない」
「表示?」
「鑑定発動中だと人や物の上部に名前が浮いて見えるのよ。詳しく見たいと思えば能力一覧が表示されるの」
あぁ、ネトゲのキャラ名表示とステータス表示みたいなものか。
このゴミの山全部に表示されれたら、たしかに前が見えなくなるな。
さすがにこの山全部を見てなどいられないという事なので、各自それっぽいものを見つけてはナーチェリアに見て貰うことにする。
出張ナーチェリア鑑定団。団員はナーチェリアとシルシルさん。
「これは?」
「ゴミね」
「こっちはどうですか?」
「ご、いえ、修理すれば使えるかしら」
「これはどうだ!」
「ゴミ」
「あ、それぇ、珍品コレクターさんには売れますよぉ」
「「え、これが?」」
大半はナーチェリアが見てるんだけどね。
中には長く生きているシルシルさんにしか分からないような《鑑定》的にはゴミだけど、歴史的には価値のあるものとかもあって面白い。
いや、ほんと一般には無価値なんだけどね。古のポーションのビンとか。
切手コレクターとか、王冠コレクターとか、あの辺りのイメージだろうか。
「これ、何かしら?」
「これは……、随分と物騒な魔道具ね。ちょっとこれ、あなた達が探してるものと関係あるかもしれないわよ」
呼び集められ、殴り書きの用紙を手渡される。
どうやらわざわざ鑑定結果を書いてくれたらしい。面倒見がいい。
【《魔食菌》】
分類:補助魔道具
属性:無
消費魔力:無or極大
特殊効果:
『魔力を喰らう極小の魔獣たちと、それが封じ込まれた容器の総称。
神々が眠りにつき、魔物が跋扈する世界において魔物を駆逐するために生み出された人工の魔獣。
魔食菌に感染すると、ゴブリン程度であれば身動きを取れないほど魔力を吸われ、自己再生も不可能となる。高位の魔物や、魔導師を封じ込めるのであれば空気散布ではなく、大量に直接投与する必要がある。
欠点として魔力容量の小さい人間にも同様の効果をもたらし、場合によっては死に至るため数度の実験を経て廃棄された。
魔獣の解放は容器を開けるだけだが、収納には魔獣を集める餌として、また容器の魔中封印機能を作動させるために膨大な魔力が必要となる』
(((((流行病の原因これだあああああああああ!?)))))
C班の心の声がひとつになった、気がする。
「これ、中身入ってますの!?」
「空ね。廃棄品のようだし」
ひとまず危険はないということで、ほっと胸をなでおろす。
魔道具を使うための魔石を探しにきて、たまたま僕がゴーレムに捕まって、連れて行かれた先でその魔道具の廃棄品を見つける。これが偶然なわけがない。
となれば怪しい人物は限られるのだけど、ここは一度帰って、話を聞いてみようか。
ファンタジーやロボットものにおいて産廃は強力(当たれば




