074 70万PV記念 閑話『新米冒険記 ニックディアス』sideニック
お待たせしました、同人活動がひと段落したので更新再開します。
そして100万PVありがとうございます!(今回は70万記念ですが)
あとネット小説大賞の二次選考も突破してました! ありがとうございます!
てっきり、薄汚れた酒場みたいな建物が相場だと思っていたんだが、どうやらそれは俺の妄想に過ぎなかったらしい。
二階建ての年季の入った洋館。それが冒険者ギルドの姿だった。
とはいえ入り口は開け放たれていて、どうぞご自由にお入りくださいといった感じなのは冒険者らしいといえばらしい。
なら遠慮はいらない。
どすどすと中へ入ると、赤い絨毯が敷き詰められた室内に、三つ四つのカウンターがあった。
丸いテーブルと簡素な椅子もあり、冒険者らしき奴らが集まっているのが見てとれる。
この辺りは想像通りだな。
酒を飲んでる奴が居ないのは意外だが。
「ちょっと待ってくれよニック」
「おせーぞディアス。お前に付き合ってたら日が暮れちまうっつの」
ディアスとはガイスト学園に入る前からの付き合いだが、こういうどんくさいところは未だにイライラする。
それでもなんだかんだと一緒にいるのは、こいつと俺が同じ穴のムジナだからだろう。
同じように貴族として生まれ、同じように魔導騎士に憧れ、そして、同じように現実を突きつけられ、やさぐれた。
だがそれも今日までだ。
冒険者になり、実力をつけ、魔導騎士科に入る。その為の第一歩を、これから踏み出す。
別にあの怪しさ満点のタロウとかいう野郎を信じたわけじゃない。
ただ、このまま腐ってるより、奴の言う方法を試した方がマシだと思っただけだ。
「冒険者の登録はここでいいのか?」
「いらっしゃいませ。はい、そうですが、冒険者ギルドは初めてですか?」
「ああ。なんか問題あんのか?」
「いえ、大丈夫です。ですが登録に伴い冒険者について、そしてこのギルドについて一通り説明させて頂く事になります。少し長くなりますがお時間は大丈夫でしょうか?」
「ちっ、めんどくせぇな」
「まぁまぁそういうなよニック。良かったじゃないか」
「まぁ、何の説明もなしに放り出されるよかいいけどよ」
「受付のお姉さんが美人で! これでゴツいおっさんと長時間手取り足取り話し合いだったら拷問だよごうもあいたっ!?」
「連れが悪りぃ」
「いえ、よくあることですので」
「よくあるのか……」
「日に三回ほど」
「めっちゃあるな!?」
冒険者はギルドに入ると、まずGランクから始まる。
このランクは最高でS+まであり、G最下位だ。
ちなみに受付で渡されたランク別実力の目安はこうなっていた。
S+:Sですら計れない実質測定不能ランク。人間ではまずいない。
S:神々とすら渡り合える半神レベルの存在。
A:ドラゴンと正面から戦い場合によっては打ち倒せる。
B:並の魔物にはまず負けない。
C:下位の魔物ならまず負けない。上位の魔物はPTを組めば倒せる。
D:魔獣単体なら負けないが群れだと厳しい。魔物相手はPT推奨。
E:獣なら倒せるが魔獣相手ならPT推奨。魔物からは逃げろ。
G:武器があれば獣相手に抵抗できるが群れだと逃亡推奨。魔獣・魔物と出会ったら諦めろ。
「おい、なんでこんな適当なんだ」
「はい? 実際にこの通りですが」
「そうじゃなくて、なんつうかこう、言い回しっつうか」
「ああ、ギルドマスターの証言をそのまま書き込んだだけですから」
「ちゃんと校正しろ!!」
それから幾らかのやりとりを経て、無事に登録を済ませる。
身分証明として紋章展開機も提示したので、俺たちはEランクからのスタートだ。
貴族が偉いからじゃねーぞ?
この国の貴族なら、最低でも詠唱すれば魔法を使えるからだ。そこらの獣相手に武器がなきゃ歯が立たない雑魚どもと一緒にされちゃ困る。
「んじゃ手始めになんか依頼くれ」
「あちらの掲示板をご覧ください」
「みてもわかんねーから適当に見繕ってくれ。こちとら魔法は使えてもど素人だからな」
俺の言葉に納得したのか、受付嬢はひとつ頷いて依頼ークエストーを提示してきた。
【クエスト:ゴブリンの討伐】
種類:常設・討伐
報酬:ゴブリン一体につき1000ジェム
詳細:グリエンド王国内のゴブリンの討伐をお願いします。
「これは、安くねぇか?」
「そうでしょうか? 倒しただけ報酬が増えますので、その気になれば一日で100万ジェムを稼ぎだす事も可能となりますが」
「ゴブリンなんて、少し間違えば死ぬまで奴らの苗床じゃねーか。そんな危険なの相手にして、たかが1000だろ?」
魔法を使える俺たちはともかく、真っ当に冒険者やってる平民どもじゃわりに合わねーだろ、これ。
「いくつか理由はありますが、まず挙げられるのは騎士団の存在です。この国は魔境に囲まれていることもあり、生存圏確保のため主要都市に近づく魔物は騎士団が積極的に討伐しています。そのためゴブリンの討伐は必ずしも冒険者がやらなければいけない仕事ではありませゆ」
なるほどな。
騎士団の奴等は手練れ揃いだし、魔導騎士ならゴブリンごときいくらでも相手にできる。
そして事実そうしているからこの国は成り立っている。
「ん? いま噛まなかったか」
「噛んでおりません」
「いやでも」
「噛んでおりません」
ま、まぁいいか。
「んで、他の理由は?」
「簡単な理由ですと、そうですね。冒険者ギルドの依頼に強制力はありません。ですからその依頼料が内容と見合うか、そして自分に果たせるかは冒険者の方々にご判断していただくわけです。つまり」
お綺麗な受付嬢さまは。
「報酬に目がくらみ、ゴブリンの巣の奥まで深入りする未熟者はこの依頼で消えます。ようはふるい落しですね」
それまでの笑顔を崩さずに、そう言った。
「おーい、聞きたいことがあんだけど」
「あら、貴族さまじゃないですか」
「お、あんたが居るなら楽でいいや」
あれからしばらく、俺とディアスは冒険者としての経験を積んでいた。
その中でこの受付嬢とも親しくなったが、こいつは性格はあれだが依頼の内容を誤魔化したりはしない、信頼のおける奴だ。
たまに誰も受けない依頼を押し付けようとする受付嬢もいるんだよな、あれにはキレた。
「本日はどのようなご用件で?」
「あぁ、俺たち名指しの依頼が来てねーか?」
「え、指名依頼ですか? 駆け出しのあなた方に?」
「いいから調べてくれ」
怪訝そうな顔をしながらもしっかり調べてくれるから、この受付嬢は当りだ。
ちなみにハズレはなに言ってんだこの新米、と追い返される。
ちゃんと調べろや。
「ございました。クリスタ=ブリューナクさまからの指名依頼ですね。なるほど、貴族としてのコネですか」
「ちげ」
「違うんですか?」
これは、どうなんだ?
タロウを介した依頼だが、あいつも貴族だよな。たぶん。
「違わ、ねえな」
「素直ですね」
「あはは、ニックはこれで正直者なんだよ。特に、可愛い女の子にはね」
「あ゛ぁ゛!?」
それまで黙ってたディアスのヤツが横から何かほざきだす。
「それは違うのではないでしょうか」
「お?」
てっきり俺をいじりにかかるかと思った受付嬢が、そこで反論した。
「わたしは可愛い女の子ではありません」
「そうか? 見た目は整ってると思うが」
「私は美人です」
「そういうやつだよなお前はよ!!」
「あははははは!」
俺達のやりとりをみてげらげら笑い出すディアス。
この野郎覚えとけよ、後でしこたま殴ってやる。
なに、回復魔法があるから手加減しなくても大丈夫だろう。
「さて、依頼内容はこちらになります。ご確認ください」
【クエスト:魔導武器、あるいは魔道具の探索】
種類:指名・納品
報酬:500万ジェム
詳細:魔物との戦闘で有用な魔導武器、あるいは魔道具の探索と納品。
「たしかに、聞いてた通りの内容だな」
「そうだね。受けるのは確定として、どこへ行こうか?」
市場に出回っている魔導武器や魔道具は、そこまで強力なものはない。
そもそも魔導武器は上位魔法に比べたらおもちゃみたいなものだ。
だからこの依頼、実際には何かしらのダンジョンへもぐって、未発見の強力なものを持って来いという無理難題だったりする。
とはいえ報酬はでかい。
もちろん貴族である俺やディアスにとってははした金だが、今の俺達は自分達の実力だけでのしあがらないといけない。
この報酬を、貴族という立場なしに、実力で掴み取れると思えば大金だ。
「ねえ、僕らでも潜れそうで、未発見の魔導武器がありそうなダンジョンってあるかな?」
「そんな都合のいい」
「ありますよ」
「あるのかよ!?」
おいおい、何か裏があるんじゃないだろうな。
「ひとまず、この依頼は受諾ということでよろしいですか?」
「おう、それは間違いない」
「ではカードの提示をお願いします」
そう言われて、俺達は自分のジェムカードを取り出す。
これは財布としての機能とは別に、簡単な身分証明としても使える。
貴族として証明するには別途紋章展開機がいるけどな。
他の国では冒険者専用のカードが発行されるらしいが、この国ではその証明もこのジェムカードで行える。便利だよな。
受付嬢が依頼書を俺達のカードに触れさせると、カードが発光し、空中に羽の生えた目玉のようなナニカが現れ、消えた。
偵察などに使われる使い魔のようなもので、冒険者ギルドの依頼遂行中はこれで監視がされている。
だから不正なんて出来ないし、しようものなら多額の罰金、最悪ギルドから命を狙われることになる。
「毎度毎度気持ち悪いよなこいつ」
「いいじゃないですか、透明になるんですから。それより、ちゃんと依頼を達成したら報告にきてくださいね」
「なぜだい? 達成した時点で報酬は振り込まれるじゃないか」
この監視者はなにも不正をチェックするだけじゃなく、無事達成したらその時点でカードへと報酬を振り込んでくれる。
依頼人がギルドへ報酬を預け、達成されたらギルドから冒険者のカードへと振り込まれるのだ。
だから、冒険者ギルドはこれで結構健全に運営されている。
「普通はそういうものなんです! 他国ではジェムカードなんてありませんから、報酬も手渡しですし。まったく、これだからグリエンドの冒険者は」
「じゃ、じゃあ俺達はそのダンジョンいってくるな。場所はここでいいんだよな」
「ありがとうね、またね!」
真顔で愚痴を言い始めた受付嬢をその場に残し、俺達は受付嬢おすすめのダンジョンへと向かった。
「おい、簡単なダンジョンだっつう話だったよな」
「そうだね、初心者の僕らでも余裕だと聞いていたね」
「落し穴の底に隠しダンジョンがあるなんて聞いてねえぞ!」
「ははは、わかってたら隠しじゃないじゃないか」
「笑ってる場合かあああああっ!!」
俺たちは暗い地下の底で、徘徊する甲冑の群れに囲まれていた。
「うおおおおお!!!?」
「逃げるのかい?」
「あぁ!? 俺とお前の魔法じゃあんなん相手にできねえだろうが! それともなんか打開策でもあんのか!?」
「ないね!」
「なら黙って走れえええええええええええ!!!!!」
「ディアス、あそこ、宝箱があるよ!」
「そんなもん置いてけ!」
「でも、ここまできて手ぶらで買ったりしたら、太郎になんて言われるか」
「ぐっ」
「それに今回の直接の依頼主はあの侯爵令嬢なんだろう? 何の成果も挙げられませんでしたーなんてことになったら、この甲冑たちと戦うよりひどい目にあうんじゃないかな?」
「くぅっ!」
俺は進行方向を少し右に寄せ、地面に打ち捨てられていた宝箱を拾い上げるとそのまま走り続けた。
幸いな事に地面に固定されてなどはいず、また思ったよりも軽かったことから、抱えて逃げるのに支障はなさそうだった。
「ほれニック」
「うわっ、とと。何するのさディアス!」
「それはお前が持ってろ! 俺はそんなもん抱えながらあいつらの足止めできるほど器用じゃねえんだよ!」
俺は走ったまま宝箱をニックへと投げ渡すと、後方を睨み詠唱を開始する。
無詠唱なんて高度な事はできねえし、省略詠唱じゃ威力が足りない。
それでもこの程度の魔法は使えるんだよ!
「”絡み捕れ魔力の糸”《蜘蛛の網》!」
金色の魔力で編まれた太めの糸が、迫りくる甲冑たちへと覆いかぶさる。
バランスを崩された甲冑たちは転がり、倒れこみ、そのまま粘着質な糸によって地面とくっついてしまう。
「よし!」
「さすがだよディアス、君の事は忘れない!」
俺がガッツポーズをしていると、宝箱を受け取ったニックのやつは全力で走り去っていた。
「って待て! 俺も逃げるつってんだろ!」
「え、ここは俺に任せて先に行け! っていうヤツじゃないのかい?」
「馬鹿野郎、んな事したら死ぬわ!!」
あいつらは確かに身動き取れないが、俺の剣や魔法じゃあの強固な甲冑に傷ひとつつけることはできない。
あの蜘蛛の糸だって、俺の魔力量じゃそう何度も使えない。
そんな状態で一人残ってどうしろってんだこいつは!
「せっかく格好つける機会だっていうのに」
「はっ、俺たちが格好悪いのは今更じゃねえか。それに、野郎相手にかっこつけてどうすんだ!」
「違いない、それじゃあお綺麗な侯爵令嬢様のところへ向かうとしようか」
ガチャガチャガチャッ。
「「うん?」」
奇怪な音に背後を振り向けば、甲冑たちは拘束を振りほどき、特殊な姿勢をとっていた。
アレはそう、最近第二王子が走るときにいいと広めているクラウチングスタートとかいう。
直後、甲冑たちがものすごい速度で走り出した。
「「「「「「ギギギギギギッギイギギギギギギギ」」」」」」
「「ぎゃあああああああああああああっ!?」」
俺たちは今度こそ本気の本気で逃げ出した。
受付嬢「貴族様、まだ帰ってきませんね。一階層をひたすら横に進むだけのダンジョンのはずですが」




