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048 わたくし犯人を見つけましたわ

寝坊して投稿が遅れました(´・ω・`)<ゴメンネゴメンネ

 燃え盛るアルドネスの屋敷を背に町を出た後、僕とイリスの前にジェイドが現れたのはすぐの事だった。

 

 やっぱりなにかしらの方法で監視してたんだろう。

 だったらもっと早く手を貸してくれても、と思わなくもないけど、今回のことは相当な無茶だった。僕をイリスの下へ送り届けてくれただけでも充分だろう。


 ちなみに王都まで帰ってきた方法は……生臭かったです。


 ジミーたちは村で子供たちが送り届けられるのを待つということでまだ学園に戻っておらず、他の班もまだ実地訓練中らしい。

 本当なら学園の上層部にも色々と報告すべきなのだけど、僕ら魔導騎士科の管理はロバートとドロシー先生に一任されているので、その二人が他の班についていていない今、報告する相手がいない。


 収束したとはいえ緊急時になにを、と思うかもしれないけど、公爵であるロバートを差し置いて他の人に報告するのは色々と問題なのだ。グリエンド王国が身分差別の激しいお国柄だという事を忘れてはいけない。





 そして翌日、僕はお爺さまに呼び出されて、王城の宰相専用の執務室にいた。

 公爵を差し置いて実地訓練の報告ではなく、孫に会いたいだけ……という建前らしい。ずるい。

 ちなみに学生の正装は制服、ということで貴族用の赤い学生服を着ている。

 だって、特注の黒い学生服ボロボロなんだもん。また作らなきゃ。


「久しいなクリスタよ」

「嫌ですわお爺さま、先週お会いしたばかりではありませんの」

「その短い間に、随分と派手に動いてくれたものだ」

「あら、お兄さまが悪いのですわ! わたくしのお気に入りを、お爺さまからの贈り物を奪おうとするんですもの!」


 ジェイドからどこまで聞かされているのか知らないが、ここは僕が立てた筋書き通りに誤魔化そう。

 

 え、《繁殖のネックレス》目的って事にしたんじゃないかって?

 いやいやいや、平民や騎士相手ならともかく、お爺さまに『ごっめ~ん宝石ほしかったからお孫さんひとり殺っちゃった♪ テヘペロ~』とか言えるやつがいるなら会ってみたい。

 そんなヤツお爺さまより先に僕が倒す。


「わたしからの贈り物だと?」

「ええ、ええ、お爺さまから戴いたあの素敵な首輪! それを着けたわたくしの下僕(ペット)(かどわ)かそうとなさいましたのよ?」


 実際にあの首輪はお爺さまからのもらい物だし、結果的にイリスはアレをつけたのだから嘘はついていない。厳密には連れ去られた時はつけていなかったのだけれど。


「報告では、お前は平民の女を奴隷にしたと聞いているが。それが同じブリューナク家の人間を害してまで欲するものだとでも言うつもりか」

「あらお爺さま、勘違いなされては困りますわ。わたくし、自身の尊厳から朝食のパンの一欠片に至るまで、他人に奪われるのが我慢なりませんの」


 これもわりと本音だったりする。

 ちなみに自分から誰かに譲る、あげるのは問題ない。

 差し出すのと奪い取られるのとでは話が違う。


「ふん。知らぬ間に、随分と傲慢に育ったものだ。お前こそ、たかがゴブリンキングを倒した程度で、自分が力ある存在だと勘違いしているのではなかろうな」

「さぁ、ゴブリンキングがお爺さまにとってどの程度の存在なのかは分かりかねますけれど。わたくしにとっては少なくとも、ブリューナク家の人間を倒す方が楽ですわね」


 僕のそんな言葉にお爺さまの目が細まり、部屋に魔力が満ちていく。

 冷たく、お兄さまやゴブリンキングの魔力より重い濃密な魔力。

 イリスのような暖かさも、ジェイドのような気高さもない、鋭くギラついた蒼い魔力。


 こ、怖い……。


「……面白い、偉大なる始祖より受け継がれしブリューナクの力が、ゴブリンごときに劣るというか。何がお前にそう思わせたのか、言ってみるがいい」


 だがその恐怖をおくびにも出さず、僕は堂々と言い放つ。

 だって、これも本音なのだ。

 僕はゴブリンキングより、お爺さまのほうがまだ戦いやすい相手だと思っている。


 何故なら。


「だってお爺さま」


 僕はあのゴブリンキングとの死闘を思いだし、疲労の滲む声に心からの思いを込めて吐き出した。


「人は首を落とせば死んでくれますもの」

 




 その後、お爺さまが盛大に笑い出すという大事件が起きた。

 しかも何を気に入ったのかお小遣いを貰うというイベントが発生。

 和やか、というには殺意が渦巻いていた気がするけれど、なんとか無事に王城を出ることが出来た。


 お爺さまとの会話はいつも緊張して仕方がない。

 奴隷をきちんと奴隷ギルドに登録するようにとも言われたけど、今はそんな場所に行く気分じゃないから後回しだ。

 当のイリスもいないし。

 

 気晴らしは買い物に限る。

 懐も潤ったことだし、魔道具店にでもいこうか。

 前回来たときは盛大にぼったくってしまったし、今日はちゃんと買ってあげよう。


「いらっしゃいませ……」

「ええ、邪魔しますわよ……店主? どうなさいましたの?」

「い、いえ、失礼いたしました」


 ああ、どうやら僕に見とれていたらしい。

 僕の顔がお地蔵さま、つまり美の女神由来の美術品レベルだという事を忘れかけていた。

 昨日はちょっと春風晶ナイズされてたから、感覚をクリスタ=ブリューナクにしっかり戻しておかないと。


「今日は適当に見せてもらいに来ましたわ。あれから何か面白いものでも入りまして?」

「それはありがとうございます。しかし、あれからですか? 失礼ですが、以前ご来店されたことがおありでしょうか?」

「ん?」


 あ、そっか。あの時は顔を隠してたんだ。

 今日はお城から直行なのでそんな事していない。

 服装は、前ここへ来た時はこっちの赤い服だったから同じだと思うけど。


「これですわよ、こ・れ」


 そういって僕は腰の《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》を軽く叩く。

 え、お城に持ち込んだのかって? 一応入り口で没収されたんだけど、その後色々と突き破って僕の手元に帰ってきたのだ。

 たぶん何かしら騒動になっていたと思うけど、知らん。後のことはお爺さまに任せる。


「お、おお!? ま、まさかあの時の。嫌ですよ! 幾ら詰まれてもそれは買い取りませんからね!」

「いきなり失礼ですわね貴方!?」


 お前それが貴族の客に対する態度か!

 僕が相手じゃなかったら、ぶちのめされるどころか首を落とされかねないぞ。


「売りませんわよ、これには色々と助けられましたもの」

「そ、そうなのですか。いやぁそれでしたらわたくしも手放した甲斐があるというものです」

「こ、この男いけしゃあしゃあと……」


 なんという手の平クルー。


「ま、まぁ良いですわ。そういうわけですから、今日はそのお礼も込めて色々買って差し上げようと思って来てあげましたの」

「それは誠にありがとうございます。とても助かります」


 その言葉で、店主さんの顔が若干やつれていることに気がつく。

 どうしたんだろうか?

 まさか、前回巻き上げた50万ジェム如きで店の経営が傾いた、なんてことはないよね。

 たしかに大金だけど、魔導武器を扱う店にとってははした金だろうに。


「どうされましたの? 何かご心配事でもおあり?」

「あ、いえ。失礼いたしました。お客様にお話しするようなことではございませんので」

「今更ですわね、あれだけ堂々と失礼な寝言を吐いておいて。構いませんから話してみなさい。わたくし、これでも貴族でしてよ?」


 お世話になった包丁の元の主だ。何か困ってるなら助けるくらいしてもいいだろう。

 幸いここは人目がないし、彼も僕が巷で噂のクリスタ=ブリューナクだと気がついていないようだし。

 ちなみに噂の原因はほとんどジェイドの魚なんだよね。解せぬ。


「ですが」

「さぁ、さっさとお吐きなさいな」


 渾身のエンジェルスマイルを放つ。

 これは僕が男だと知っているジェイドすらも一瞬放心させたのだ。

 無力な魔道具店の店主が耐え切れる代物ではない。


「じ、実は」


 そして店主は話し始めた。

 

 なんでもこの店を立ち上げる資金源になったのは、遺跡から彼自身が発掘した魔道具らしい。

 それをとある貴族が大層な値で買い取ってくれたお陰で、彼の故郷である寒村は助かり、彼自身もこうして王都で店を構えるほどになったという。


 とはいえ、本当にそれだけで王都に店を建てるほどのお金が手に入ったわけじゃなく、商人ギルドからそこそこの大金を融資してもらったらしい。

 その貴族はそれからも継続的に珍しい魔道具を買ってくれていたので、店主にとっては恩人であり、貴重な収入源でもあった。


 その彼が、なんと死んでしまったという噂なのだとか。


「本当に惜しい方を亡くしました。無論収入が減ることも気がかりですが、私にとっては恩人であったのです。彼が魔道具を買い取ってくれたお陰で娘を学園へ入れることもできました」

「あら? ガイスト学園は平民は学費免除ではありませんでした?」


 正確には平民でありながら入学できるほどの才媛なら、自動的に特待生扱いで学費免除になる、というだけなのだけど。

 平民なのに学費が居るということは、相当な大商人がお金を積んで無理やり子息を入学させたくらいしか思いつかない。さすがにこの店主さんがそんな事したとは思えないけど。


「ああ、いえ。その、貴族の皆様にはわからないことかも知れないのですが、勉学には何かと金がかかるのです。私の娘は、私などより遥かに優秀なのですが、それでも無から知識を得ることは叶いませんので」

「ああ、そもそもの入学するための勉強にお金が掛かったという話ですのね」


 グリエンドは植物紙と活版印刷(のようなもの)が普及していて、本も多少高いが平民も買えるお値段だ。


 ただし、それは普通の本の話。

 前世の日本だって、専門の学術書は高かった覚えがある。

 それは当然こちらも変わらない。いや、身近に魔獣や魔物といった危険がある分、そういった日常で直接生かされない知識をまとめた本は、平民にとっては高価な娯楽の品と大差ない扱いだったりする。


 だって魔法の勉強とか、ねぇ。

 ほとんどの平民にとっては使えないのだから、そんな本買わない。

 前世で『簡単にエラ呼吸するための本』が売ってあっても1p目に『まずエラから水をとりこみ』とか書いてあったら投げ捨てるだろう。

 当然だ、人間にはエラがない。完全にジョーク本である。


「たしかにまぁ、わたくしに話してもらっても、どうにもならないお話ですわね」

「いえ、聞いていただけただけで、多少心が軽くなりました」


 そういって人のよさそうな笑顔を浮かべる店主。

 少しでも《肉を切り刻むもの(ミートチョッパー)》の恩返しができたなら良かったけど。


「ですが本当に、なぜブリューナク卿がこのような目に合われなければいけなかったのか」

「え?」


 一瞬僕が呼ばれたのかと思ったが、すぐに違うと察する。

 卿というのは貴族への敬称だが、僕は正式に位をもらっていないのでつけられることはない。

 最近無くなったブリューナク卿……てまさか!?


「ね、ねえ店主さん? 貴方がその恩人に売ったという魔道具なのですけれど、名前は覚えておいでかしら?」

「あの魔道具ですか? ええ、あのお方から、もしまた見つけたら自分へ売るようにと頼まれていましたのでちゃんと覚えていますとも。《繁殖のネックレス》という首飾りです」


 ……ふ。

 …………ふふふ。

 ……………………ふふふふふふ。

 …………………………………………ふふふふふふふふふふふふ。


「お……」

「おや、どうなされましたかな?」

「お前かああああッッ!!」

「な、何をするのです! お、お止めください、やめ、アイアンクローはやめてえええっ!?」


 お母さま直伝のアイアンクローが唸りをあげる。

 ロバートもよくやってくるからこの国ではポピュラーな体罰に違いない。


「貴方のせいでどれだけ、どれだけわたくしが苦労したかっ!」

「あ、頭がああああああっ!?」


 お兄さまが暴走、ゴブリンキングに支配される結果となった魔道具《繁殖のネックレス》。

 いったいどこの馬鹿がお兄さまに売りつけたのかと思っていたけど。


 犯 人 を ミ ツ ケ タ ぞ 。


「ぎゃあああ! 死ぬ、死んでしまいます、手を離して」

「この程度じゃまだ死にませんわ! さて、この男どうしてくれましょう。このままお爺さまの下へ連れて行ってもいいのですけれど」


 手に入れる力を込めて、ギリギリと店主の頭を掴む。


「きゃあああっ!?」


 と、そこへ誰かの悲鳴が響き渡った。

 もしや他の客かと思ったら、声の主は店の奥から現れて、僕の腰へ飛びついてきた。


「止めてください! 何事ですかクリスタさま!?」

「イリス!? なんでこんなところに、ちょっと抱きつくのはおやめなさい、はしたないですわよ!」


 女の子に、それもイリスに抱きつかれると心臓と下半身に悪いので今すぐやめてほしい。

 こんな事で男だとバレるわけにはいかない。

 ていうかほんと何でこんな場所にいるんだよ!


「クリスタさまこそ、そのロバート教官みたいな技やめて下さい! お父さんが死んじゃいます!」

「貴女のお父さまのひとりやふたり死んだって別にかまいま、せん、わ?」


 え? いま何て言った?


 僕はもう言葉も上げず、その頭を僕の手に掴まれるがままになっている店主をじーっと見つめる。


「いまコレの事なんて言いましたの?」

「この人、わたしのお父さんなんです!」

「はあああああっ!?」


 思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

 色々聞きたいことはあるけれど、どうやらこのまま締め上げて、お爺さまのところへ連行する事は叶わなくなったらしい。

ついに明かされるイリスの秘密! なんと店主は父だっ……え? 前にその話あった?

(ノ∀`)アチャー

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