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尋問

お久しぶりです。シュガーイーターです。

まだ受験は終わってはいませんが、休憩に少しずつ少しずつ書いていたものを投稿しました。

少しずつ書いていたとはいえ、本腰を入れていたと言いがたく、文章構成が以前よりもひどくなっているかもしれません。面目次第もございません。文章量も、これまでより短くなっているかもしれません。

 陽は天高く昇り、窓から照りつける日差しに鬱陶しげに目を細める。

 太陽が示す通り、既に真昼。場所はなんの変哲もないただのレストランだ。その中で、ルシファーは苛立たしげにコーヒーを啜る。

 周囲にはまだ学校にも通えないような幼子を連れて食事をしている主婦や休憩中の会社員がおり、特に子供が五月蝿く騒ぎ立てている。

 それが、ルシファーにどんどんと苛立ちを募らせていく。

 そもそも、ルシファーは幼い子供が嫌いだ。意味もなく、ただ無邪気に自分の示す興味を大声でひけらかし、加えて周りの迷惑を考えない。実に頭に来る。

 その思いは、魔王と呼ばれる男が産まれる遥か昔から変わらないことである。

 おかげで、魔王に子が出来て一〇年ほどの間は毎日苛立っていた。

「……ハァ」

 どれほど苛立ちが募ろうと、下手に騒ぎを起こせないためにため息をついてなんとか堪える。

 だが、ルシファーにはもうひとつ苛立つものがある。

 それは、周囲からの視線である。

 ルシファーの容姿はかなり整っており、彼女が天界にいた時から、天界で最も美しい天使である、と讃えられていた。

 自分で思うのもなんだが、これまででルシファー以上の美貌の持ち主を見たことがない。

 その美貌の所為で――男女問わず――好意の視線を集めてしまう。加えて自分の対面に座っている女もかなりの美貌の持ち主であるため、それもあって更に視線を集める結果となっている。

「何だ? 機嫌が悪そうだな?」

「誰かさんのおかげでね。朝から連れ回された挙句、人間の目が沢山集まる場所に連れられたのよ? 苛立たないわけがないでしょう!?」

「へぇ、そうかい」

「しかも、『その服しか持ってねぇのか? だったら、服を買いに行くぞ! いつまでもウィルの姿じゃ別の意味で視線を集めちまうよ。なに、金は私が出すから』って言われて連れていかれた場所は服屋! 何で私が人間の服を着ないとならないわけ!?」

 文句を口にするうちにルシファーの目がどんどんと殺気立つ。

 対する千秋もそんな殺気を軽く受け流し、「似合ってるけどねぇ」と悪びれもなく言う。

 会話の内容の通り、現在のルシファーは魔王の姿ではなく、普段の彼女の姿をして――もちろん黒翼は隠して――いる。しかし、身にまとっている服がいつもとは全く違う。

 チェック柄のカジュアルなブラウスに、ワイドパンツ。そして、トングサンダルである。ブラウスは胸元を大きく開いて谷間を強調させており、ここに来るまでにすれ違う男達の舐めるような視線には殺意すら湧いていた。

 ルシファーがこれまで生きてきた中でそんな愚行を許す存在は、魔王と恐れられた存在以外には許さない。まぁ、あまりそんな視線をしなかったわけで物寂しく思っていたが。

 今は着ていないが、薄茶のトレンチコートも――現在は千秋に預けて――ある。

 いつまでも魔王の姿で行動していては、その間の呪力の消費量が尋常ではない。

 ルシファーにとっては何でもない程度のものでしかないが、塵も積もれば山となるという言葉があるように、疲労はどんどんと蓄積されてしまう。

 おそらく、その辺りを懸念しての善意なのだろう。

 その行いを許すかどうかは別問題だが。

「おうおう、おかんむりだ。いいじゃないか。たまにはこういうのも」

「この姿で表に出た時はいつもよっ! こんな視線の何がいいわけ? まったく理解出来ないわ」

「まだまだ私も若いな、とか思わないか?」

「思わないわよ! それに、貴様は別れてから六百年近く経っても何の変化もないでしょう!?」

 その言葉に千秋がムッとしたように口をへの字に曲げる。

「失敬な。私だって変わったところはあるさ」

「へぇ? いったいどこが変わったっていうのかしら? 面白そうね。この私に訊かせなさい」

 バカにしたような笑みを浮かべながらルシファーは詰問する。それに怒った様子も見せず、ふふん、と千秋は胸を張る。

「変わってんだろ? こう……大人の色気っていうか、なんて言うの? ほら、話し方もおしとやかになってるだろ?」

「……おしとやかかどうかは侮蔑と嘲笑によって流してあげるけれど――」

「……それ流してねぇよな?」

「――少なくとも大人の色気なんてものは、あの子はとうに感じていたみたいね」

「えっ? それマジで!? わあお、それならあの子との間にガキ作ればよかった!」

 千秋のトンデモ発言にルシファーは自然とため息を吐いた。

 やはり彼女は以前と何も変わってはいないらしい。

「自分の子供と? 随分と励むのね?」

「あったりまえだろ間抜け! 私はあの子を愛してる! だったら、そのままあの子との間に子供を作ることに何の不思議もない!」

「あの子にそんな趣味はなかったわよ。相変わらずねぇ……貴様のその親バカは」

 千秋は魔王の生きている時代から魔王を溺愛していた。彼女は魔王以外にも子供を育てており――つまりは魔王の兄弟な訳だ――それらにも溺愛してはいたが、魔王に対しての溺愛っぷりは異常だった。

 よく問題を起こす不良児だったのだが、いったい何故彼女が魔王にこれほど溺愛を見せたのだろうか?

 少なくとも、魔王自身にその理由はわかってはいなかった。もちろん、ルシファーもそうである。

「そうかい? 自覚はないけどねぇ。まぁ、冗談はここまでだ。お前に訊きたいことがあったんだ」

「あらあら、タチの悪い。しかも、貴様が言うと冗談に聞こえないのよ。――で? 貴様がこの私に、何を訊きたいのかしら?」

 ルシファーは無表情のままコーヒーに口をつける。

 こういう時、千秋の双眸は自然と相手の挙動を見逃さないように細められる。そうわかりやすい変化ではないのだが、彼女のことをある程度知っている者は共通の認識である。

 嘗ての天界の存在との戦争を生き抜いた者達にとって、ルシファーという存在は戦闘面でこれとないほど頼りになるものである。

 しかし、その人格においては皆ルシファーに猜疑の目を向けている。

 それも当然だろう。ルシファーは悪魔の王であり、天より堕ちた堕天使だ。彼女の思考の基準は面白いかどうか。そうでなければ、何をしでかすか油断出来ない、そんな存在なのだ。

 その腕の一振りは神々には劣れども、その魔力の余波のみで荒地に変えてしまうほどの力を持つ。ひとつ指を鳴らせば地面が裂け、一度柏手を叩けば重力ですらも支配下に置く。

 それは、魔王ですら一度も勝てなかった混血の女であっても、その脅威は変わらない。

 むしろ、そんな女だからこそルシファーに対して疑心暗鬼になってしまうのだ。

「率直に訊く。お前は何でまた、ここに来た?」

「無粋な問いね。貴様ほど付き合いが長ければ、そんなものは野暮ってものでしょう?」

「真面目な話をしてるんだ」

「こちらも真面目に答えたつもりよ。付き合いが長いからこそ、私は貴様の問いに答える」

「だが、ある程度の付き合いでも、お前が面白いと感じれば同じく問いに答える。それに、私はまだ納得のする回答を得てないのさ」

「貴様が納得しようがしまいが、私には関係ない。退屈だから来た。それ以上でもそれ以下でもない」

 自然とルシファーの声音が低くなる。双眸もその温度を急激に下げ、冷徹な眼光が真っ直ぐ橙の瞳を射抜く。

 だが、この程度で気圧されるような相手では断じてない。逆に彼女を刺激するだけだ。

「そうかい。ちょっとした興味本位で訊くが、ウィルに関係のあることじゃないのかい?」

 挙動の上ではルシファーに反応はない。鋼の如き体裁で背もたれに背を預け、変わらずに冷めた眼差しを向けるだけ。しかし、一瞬だけ彼女の眼がワインレッドを通り越して赤黒く不気味に淀んだ。

「――ビンゴか」

 それを見逃すほど千秋は甘くはない。

 魔王の魂に欠損があるのはルシファーにもすぐにわかった。念のためにサリエルにも見せたが、同じことを言った。


 ――何者かによって、魂の一部を切り取られた。


 何者か、ということに関して言えば、ルシファーは誰に気づかれることなく調査をしていた。

 魔界にそんなことをした輩はいない。ならばと思い冥界にも一度足を運んだが、結果は同じだ。

 その為に半信半疑でこの地に赴いた。もちろん、退屈凌ぎに観光をというのもあながち間違いではない。

 嘗て見た世界を、己の足で立ち、己の眼で見る。それだけで、ある程度の退屈凌ぎにはなった。

「お前は言ったな。六百年前のあの時、『自分に最も近しい存在として受肉させる』ってな。それからこれだけ時間が経ってるんだ。ほとんどの準備は終わったことだろう。が、それが達成される前にお前はまた地上に来た。

 これだけの判断材料じゃ確証とは程遠いが、私の直感が嫌ってほど言ってるのさ。ウィルに何かあったってな」

「既に魂のみの存在でしかない者に、一体何があると?」

「そうだな……こいつは勘だが、大切に傍に連れているウィルの魂に欠損が見られる、とか?」

「――ほぅ、喩えば?」

「簡単な話さ。魂の質、もしくはその大きさがそれまでに比べて劣っている。お前が大のお気に入りの変化をそう見逃すはずもない。ありとあらゆる手段を用いてそれを探し出すはずだ。ここに来たってことは、大体の場所を見て回ったってことだろう。違うか?」

「仮にそうだとしよう。それなら、どうして私はこのように泰然としていられる? この私の大のお気に入りがここにあるとわかったなら、草の根分けてでも、生物種全てを根絶やしにしてでも、いや――世界そのものを滅ぼしてまでも探し出すはずだ。違うか?」

「いや、全くその通り。業腹だが、そうなっちまえば私にお前は止められないさ。だが、そう出来ない理由があるのさ。――受肉でもしてるのか? その魂」

 ルシファーは応えない。そもそも、魔王が受肉しているかどうかは彼女にもまだわかってはいない。

 喩え受肉していたとしても、少なくとも日本ではありえない。日本という場所は、魔王を嫌う者の多い場所だったからだ。

 他国でも魔王を忌み嫌う者は数多くいたが、日本ではそれが他国に比べて驚くほど多かった。そんな人間が多い場所で、誰が魔王を復活させようか?

 そんなわけで、日本は度外視している。

「知るわけないでしょう。それに、どれも仮定の話。さて、これでいいかしら?」

 一般の人間には決して理解出来ない会話だ。それに、各々が自分のことに集中しているために話を聞かれた様子もない。

 横目で壁に掛けられた時計を見やる。

 そろそろ昼も過ぎる。今いる場所から咲達を迎えに行くなら、そろそろ向かった方がいい。

「さて、それじゃあ行きましょうか。あの子達と合流して、鐳の場所に行きましょう」

「お前は相変わらず、ボロと言えるボロを出さないな……。手強いったらないねぇ」

「さて、何のことかしら?」

 お互い軽口を飛ばしてはいるが、意識は別の場所に向いている。

 どちらからともなく横目でそちらを盗み見る。

 陽光が差し込む窓際のそこ。唯一自然の光のみでも明るいそこで、一人の外国人の女性がいた。

 透き通るような金髪を長く伸ばし、ニットセーターにフレアスカートといった装いをしている。目鼻立ちも整っており、まだ二〇歳前後といった若い女性だ。

 彼女は窓の外を柔らかな微笑みを浮かべながら眺めており、その姿はまさに穢れを知らない聖女のようにも見えた。

 怪しさなどこれっぽっちもない女性だが、二人はある程度の警戒は抱いている。

 ルシファーは肉体の前の持ち主がそうであっただけだが、銃火器を扱っていた二人にとって、それを感じ取ることは容易であった。

 彼女の傍らに置いてあるコート。その中に、拳銃が携帯されている。

 見ている限りでは騒動を起こす様子もなく、護身用なのだろうと判断している。しかし、そうだとしても警戒しない理由にはならない。

 そもそも、他人の心中など分からないが故に、人間は相手を疑ってかかるのだ。

「さて、行こうか」

「貴様の奢りね」

「はいはい。そうとは言っても、軽い昼食だったからそこまで高くないんだよな。ほら、コート」

「あぁ、捨てていいわよ」

「買ってすぐ捨てるやつがあるかよ。いいから着ていけ」

「面倒ね」

 そうは言いつつも、ルシファーは手渡されたトレンチコートに袖を通す。

 なんだかんだ言いつつ、貰えるものは貰っておく性分なのだ。

 ルシファーは千秋が勘定を済ませている間に外に出る。

 魔力を原料として動いているらしい車が目の前の道路を流れていき、それを退屈そうに見送って行く。

 程なくして千秋が出て来た。

 それを確認すると、咲達の通う藤阪学園に向けて歩を進めていく。

 互いに、先ほどまでと変わらない軽口を叩き合いつつ、二人の記憶上最大の戦いについて語り合っていくのだった。

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