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特殊部隊だと思え

 藤阪学園――

 それが咲達の通う学校だ。小高い丘の上に立ち、異能の街を見渡せる場所にある。

 基本的には魔法や異能の能力を底上げするのが目的の学校で、部活も格闘技や武器術のものが多い。

 教育方針は魔術や異能を向上させようなんて謳っているが、実際校長の生徒を見る目は酷く差別的で冷たいのだが。

 咲と絢のクラスは二年C組。一言で言い表すと、とてもやんちゃなクラスだ。

 そんなクラスも今話題になってるのが、

「さっきの大爆発聞いたか!?」

「びっくりしたよねぇ」

「しかも、高層ビルがいきなり倒れたんでしょ?」

 つい先ほど、異能訓練の最中にここから遠く離れた場所に建つ高層ビルが爆発し、倒壊したのだ。

 それを目撃した生徒が目を輝かせて興奮し、それが伝播して校内でも大騒動が起きている。

「ねぇ、あんたなんか知らないの?」

 咲は隣の席に座る男子生徒に声をかける。名前を氷崎浩二(ひざきこうじ)

 銀の髪に、耳にピアスをつけた男だが、一七〇センチぐらいの高身で顔もよく、女子からよく言い寄られているらしい。

 咲には何がいいのかよくわからなかったが。

「なんで俺が知ってんだよ。あれか? 異能訓練受けてないからか?」

「さぁなんのことか」

「ほんと、あんたがランクSってのが未だに信じらんねーわ」

 この男は異能の街に一五人しかいないランクS、その第六位である。能力は『創造(クリエイション)』。想像したものを無機物、有機物問わずに創り出せる能力。でも、強力なものを創り出す度に体の負担が大きいのが欠点らしい。

「そこは信じようや。にしても、スゲー騒ぎになってるのは確かだよな。携帯でニュース見てたんだが、その後すぐに死者二十七人の異能の犯罪が起きたらしいぜ?」

「何それ。物騒ね〜」

「詳しいことはわからんが、犯人は炎の異能を使ったらしい」

「炎? そんなら私と良い勝負できんのかな?」

 炎と聞いて、同じ炎の異能使いの絢が反応する。

「その時の炎なんだが、軽くランクSぐらいあったらしいぞ?」

「マジ!? それはヤベーわ。でも、ランクSの炎の異能使いって……」

「一四位の工藤義満(くどうよしみつ)だな。だが、その時間工藤は勤務先の会社にいたってよ」

「アリバイあったんだ」

 そうなると、工藤が何かをするのは難しいだろう。

 そもそも、炎使いとはいえ工藤がそんなことをする理由がない。そんなことをすれば、警察に捕まって懲役刑になったりと嫌なことしかないはずだ。

「それにしても、先生遅いね」

 現在、体育館で体術訓練のために待たされているのだが、一向に教師が来ない。

 全員動きやすい服を着用し、退屈な待ち時間を各々過ごしていた。

「なんか事件で怒鳴りあったりしてんじゃね?」

「――馬鹿な連中の相手は疲れるわ」

「うひょえ!?」

「氷崎、なんだその声は」

 いきなり背後からの高千穂聖奈(たかちほせいな)先生の声に、浩二が間抜けな悲鳴を上げた。

 長い髪をバレッタで止め、デニムシャツにガウチョパンツという姿。

 高千穂先生は身長も一五〇前後と小さいが、これでもランクはS。加えて、体術だけでも恐ろしく強く、なんでも世界レベルで戦える凄腕らしい。

 昔から父親にテコンドーと太極拳を習っている咲も一度手合わせしてみたのだが、けちょんけちょんにされてしまった。そんじょそこらの大人なら相手にもならないぐらいの実力者である咲がだ。

「さーて、始めんよ。二人一組作んな。阿久根、お前はあたしが相手するよ。あんたと釣り合う奴が一人もいないからね〜」

「今日こそ勝ってみせますよ」

「あぁ、ちなみに先生途中で抜けるかもしれないから、そん時は自主練よろしく」

「えぇっ!?」



「ここなら良いだろう。黒王、ここで良い」

 辿り着いたのは、スーパーマーケットの屋上。さっきの騒動の場所より少し離れた場所にある。

 そこに降りると、黒王はすぐに去っていった。こんな街中じゃ馬がいれば嫌でも目立つ。だから、そういう風に言って聞かせたのだ。

「ここからどうするんです?」

「そうね。久しぶりだし、あの鬼どもに会いに行きましょうか。どこにいるのか知らないかしら?」

「申し訳有りませんが、わかりません」

 パティンの申し訳なさそうな台詞に特に反応も示さず、腕を地面と水平に上げる。

 そこに、一羽の鳥が止まった。クリッとした目が可愛らしい。

「この子に聞きましょうか」

 姿は男なのに、女の声と口調で話すという不思議な光景だが、他者がいれば男のものに変えるつもりだ。

 ルシファーは耳をすませ、鳥のさえずりに聞き入る。

 少しすると、今度はその鳥に向かって何事か囁く。そして、鳥を飛び立たせる。

「何と?」

「奴らの居場所に向かわせたわ。遠隔操作の魔術をかけておいてね。存外に近くにいるらしいわ」

「それは良かった。で、それまでどうするのです?」

「そこが問題なのよねぇ」

 今の彼女は文無しだ。まだここに来たばかりではあるため、ただ歩くだけでも楽しめそうだが、それでも最小限の資金は必要だ。

 金を持っていそうな人間から殺して奪うのもひとつの手だが、そうなると少し面倒な話になる。

「金がないから……」

「それなら、こちらに」

「どこから取ってきたの?」

「先ほどの警察から、貴方様の攻撃を受ける直前に奪い取っておきました」

「さすが、その速さは役に立つわ」

「感謝の極み」

 どうぞ、と手渡された財布の山をひとつひとつ物色していく。

 全て見終えた頃には全部で八万四千円。これぐらいあれば数日は楽しめるだろう。

「では、私はこれにて」

「ご苦労様」

 ルシファーはにっこりと微笑んで見送ろうとする。すると、パティンがまっすぐ見据えてきた。

「悪魔王様」

「何?」

「お好きなだけ、お楽しみください」

 予想外の言葉に虚をつかれたが、まぁ、良いだろう。すぐに頷いて応えを返す。

 ――さて、行きますか。

 ルシファーも踵を返し、その場から立ち去ろうとする。

 不意に、強い風が吹き髪の毛が風になびいて暴れる。

 少し鬱陶しげに髪の毛を押さえる。その瞬間、背後に誰かが立っている気配を感じた。

 悪魔ではないだろう。かといって天使や神の類でもない。

 感じられる明確な敵意。

「お前が警官隊を皆殺しにした奴か」

 そう言われ、ルシファーは静かに振り返る。

 そこには目測一五〇センチ前後の女が立っていた。

 その双眸には烈火の如き眼光がルシファーに突き刺さる。その眼は、以前にも見たことがある。

「貴様は?」

「こっちのセリフだ。何者だ、お前。データに乗っていないランクS相当の異能者」

「ランクS……あぁ、さっきのアレでか? それなら、貴様らはさぞ低レベルの争いをしているのだろうな」

 訝しげな態度の女にルシファーは挑発で返す。

 実際、先ほどのアレが本気かと言われれば答えは否だ。アレで本気だとしたら逆にあの程度で済んで良かったことだろう。

「お前、まさかランクの基準を知らないのか?」

「基準? そんなものがあったのか」

 ルシファーの素の一言に女がピクリと眉を動かした。

 そもそも、今日ここに来たばかりのルシファーにはまだわからないことだらけだ。今まで何があったのかは調べたが、現在の法律、強さの基準等は見向きもしなかった。

 たかが知れている、と割り切って。

「ランクS、その基準ってのはね……一国の軍事力と対等に渡り合うことの出来る実力者のことを言うのさ。昔で言えば、魔王って呼ばれてた奴がそうだろうね」

「魔王? あの男なら、一国どころか世界を相手にも出来ると思うがな」

「随分と確信的な物言いね。まるで親しい間柄みたいな感覚よ」

「少なくとも、俺はそのように聞いている。歴史の本にも書かれていたぞ」

 実際は共にいた間柄だった。魔王がどんな男で、どれ程強かったのかは骨身に染みて分かっている。

 少なくとも、あの警官たちなら一捻りだ。

「……まぁいい。あんたを殺人の疑いで逮捕する」

「逮捕? 貴様、警察か何かか?」

「公安みたいなものよ。相手が異能者であることを想定して訓練を受けている特殊部隊と思ってほしいね」

「ほぅ。だが、俺はまだ野暮用があってね。捕まるわけにはいかない」

 抵抗の意思を示すために、ルシファーは拳を静かに握りしめた。

 女はそれを見て取ると、同じように構えた。軽く拳を握り、足を前後に開く。

 二人の間に見えない火花が散る。

 方や相手の一挙手一投足を見逃さないように凝視し、方や余裕綽々と不敵な笑みを浮かべる。

 互いに隙はない。先に動いた方が先手を打たれる。それが、まともな対人戦闘だった場合だ。

 だが、これはまともな対人戦闘なんかではない。

 異能という不可思議な力を使うもの同士の戦闘だ。

 不意に女の姿が消える。

 ――後ろか!

 敵の位置を察知し、背後を振り返る。

 そこでは、今にも蹴りが繰り出されようとしていた。

「へぇ!」

 感嘆の声を上げつつバックステップで後退。繰り出された蹴りを悠々と躱す。

「なるほど。空間移動か」

「なっ!?」

 どうやらあたりらしい。女は眼を見開いて驚きを露わにしている。

「まさか、一度見ただけで当てられるとは」

 ルシファーはそれを聞き、冷笑した。

 この女はまだまだ未熟だ。驚くのは別に構わないが、それをいちいち反応で見せるのは未熟な証拠だ。

「少しは楽しめそうだ」

 指をパキリと鳴らし、嗜虐な笑みを浮かべながら女と対峙する。女も警戒心を露わに、同じように構えた。

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