二人で暖を
web拍手に載せていた小話です。糖度高め。
「寒いわ」
唐突に隣から声が聞こえて、ゼイヴァルは顔を声の主の方へ向ける。
寝台に横たわるその主は、煌びやか金髪を白い肌に流し、気の強そうな瞳は、こちらを強く睨んでいる。
自分の妻はいつであろうとも綺麗だ。そんなことを寝ぼけた頭で考えていると、なにも言葉を返さない事に痺れを切らしたのか、細い指がこちらに伸びて、ぐにっと頬をつねられる。
「聞いてるの?」
「……いひゃいよ」
むっと顔をしかめて彼女は顔を近づける。すると、なんだか良い香りがしてつい更にゼイヴァルが顔を寄せると、すかさず頭を叩かれた。
「いたっ」
「あのね、そうやって私の取り分まで持っていくから私がとても寒い思いをしているのよ」
つい、と指を指された方を見れば、なるほど。確かに布団の多くはゼイヴァルの体を包み込んでおり、妻であるアランシアは布団の端でなんとか体を隠している、という状態だった。
「あれ、いつのまに……」
「いつのまに……って、いつもいつもなの! いつも布団をそうやってすぐとるのよ!」
眉間にしわを寄せて、小さい声ではあるが怒鳴られる。朝のまだ早い時間だという事に少し遠慮しているのかもしれない。
「うん、ごめんね」
謝るが、アランシアはなぜだか不愉快そうに更に顔をしかめた。
「そうやって謝れば私が許すとでも?」
「ごめんね」
もう一度謝りつつ、むくれているアランシアの鼻の頭の口付ける。次に額、頬、と順番に口付け、最期に至近距離で目を見つめながらもう一度謝った。
お互いの唇が触れ合いそうなほど近い距離でのやり取りに、先に降参をしたのはアランシアだ。
むぐ、と誤魔化されたくないアランシアは顔を歪めるが、やがて観念して自分から口付けた。
触れ合うだけの口付けをしてすぐ離れようとするアランシアを捕まえ、ゼイヴァルが噛みつくように深く口付ける。
「んむっ」
アランシアの素肌を撫でていく。滑らかで傷一つもない肌だ。これからも、彼女に傷を負わせたくはない。
アランシアの腰を掴み、自分の方へ引き寄せる。
視線を上げれば、窓の外は雪が降っていた。暖炉の火はもう消えていて、お互いで暖をとるしかない。
細い彼女の足に自分の足を絡ませると、胸板を叩かれた。
「冷たいわ!」
ゼイヴァルの足先は冷えていて、それが彼女の肌に触れたらしい。
「大丈夫。すぐ温まるから」
ぴったりと体がくっついて、寄り添うだけで少し体が温かくなる。
アランシアはただ暖をとるだけなのだろうと思っていたようで、ほっと息を吐くが、ゼイヴァルの手が不埒な動きをして、彼女は眉を寄せる。
「ねえ……」
「ん?」
にっこりと笑顔で返すと、アランシアは頬を膨らませる。朝から冗談じゃないと彼女は言いたいのだろう。けれど、ゼイヴァルはやめるつもりがなかった。
「少しだけ」
と、そんな事をいいつつ、結局アランシアがぐったりするまで付き合わせる事になるのは、もう毎回の事だった。




