家族と。
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子供ネタになります。
「マンサナ!待ちなさい!」
広い庭に、アランシアの声が響く。自分より前を走る小さな背中は声を上げても止まってくれない。
きゃはは、と無邪気にマンサナ笑う。
アランシアの頭の中では「女の子が走るなんて」とか「母親の言う事を少しは聞きなさい」と色んな事が浮かぶが、これをポーラが聞いたら「姫様にそっくりです」と返される事だろう。
アランシアがどれだけ声をかけても走る事をやめようとしない娘をみかねて、大きなため息を吐く。
すると、手を引かれて顔を下げると、こちらを見上げる不安そうな瞳と目が合う。
マンサナと双子の弟で、アランシアの息子であるマールムだ。
「なあに?どうしたの?」
かがんで話しかけて頭を撫でてやる。するとすぐに笑顔になった。マンサナだけ構われて羨ましかったようだ。
おてんば娘のマンサナと泣き虫なマールムは今年で四歳になる。
マールムは手がかからなくて助かるが、マンサナは少し目を離しただけでどこかに行ってしまう。もう少し王女らしい落ち着きを見せてほしいものだ。
──もっとも、私もずいぶん手を焼かせたと思うけど……。
「お母様、こっちよ!早く!」
笑いながら庭を駆け回るマンサナを追いかけるのも突かれてついついアランシアは声を荒げる。
「もう、マンサナ!いい加減にしないと怒るわよ!」
手を繋いでいるマールムがびくりと体を振るわせたが、マンサナはそれでも走るのをやめない。全く図太い娘だ。
マンサナがアランシアを見ながら走っていると、その背後にすっと影が現れ、小さな体を軽々と持ち上げた。
「こら、お母様を怒らせると怖いからやめなさい」
政務が終わったのか、ゼイヴァルがマンサナを抱き上げて言い聞かせる。けれど、その顔は緩みきっていて、全く効果がなさそうだ。
「お父様!」
マンサナはぱっと顔を明るくして父親に抱きつき、マールムもアランシアの手を引っ張る。
「今日もマンサナは可愛いなあ。まるで天使だよ。きらきら輝いてる」
ゼイヴァルはマンサナを褒めちぎりながらぎゅうぎゅうと抱きしめる。最初はにこにこして聞いていたマンサナだが、あまりにも長い抱擁に段々と困惑してくる。
「お父様?もう離していいのよ?」
「なんて柔らかいほっぺ。すべすべな肌ももちもちしていて……。ああ、目を大きいね。まつげも長いし、将来は絶世の美女になるよ」
「……お父様?」
娘の言葉を聞いていない。
アランシアはゼイヴァルに近寄ると、その腕の中からマンサナを取り上げる。愛でていたマンサナが腕の中から消えると、今度は地面に座り込み、マールムをぎゅうぎゅうと抱きしめながら褒めちぎる。
「……陛下、そろそろやめてあげないと嫌われるわよ」
マールムも顔をわずかに青くして涙をうっすらと浮かべている。これが父親に対する反応かと思うと少しゼイヴァルが可哀想に思えるが、自業自得なのだからしょうがない。
マールムも奪還しようと、ゼイヴァルの腕にアランシアが手を伸ばす。──しかし、その手はゼイヴァルによって掴まれ、引き寄せられる。
抱えていたマンサナと一緒にゼイヴァルの腕の中に抱え込まれて、そのままマールムも揃って柔らかい芝の上に倒れる。
突然の事で一瞬ぽかんとするアランシアだったが、少しずつ事態を理解できるようになる。
下敷きになったゼイヴァルの身の上からアランシアはがばりと体を起こし、大きく息を吸って──
「あっぶないじゃないの!マンサナやマールムが怪我したらどうするの!?」
襟首を掴んで声を荒げて抗議をするが、ゼイヴァルは笑うだけだ。
「ごめんごめん、なんか可愛くてさ」
「意味がわからないわ!」
苛々とした感情のまま言葉を投げつけると、ゼイヴァルがここ数年で見せるようになったゆるみきった笑顔になる。
ふにゃり、と溶けたような顔は決して普段臣下達に見せる威厳ある王の顔ではない。
「だって、最愛の妻と、その分身達に囲まれているんだよ?もうなんか可愛くて可愛くて」
うぐ、とアランシアは言葉に詰まる。
もう耐性がついてもいいはずなのに、どうにもまだ慣れなくてこういう事を言われると照れてしまう。
アランシアが言葉を返せないでいると、ゼイヴァルは自分の体の上に乗った子供達の頭を撫でている。子供達ももちろん笑顔で、それを見ていると胸が温かくなる。
「……本当に、あなたは」
アランシアはため息を吐きながらも笑う。
こんな穏やかな日々が、ずっと続いたらいい。
何年先も、子供達が大きくなっても、こうして家族と笑っていられれば──きっとアランシアは幸せだ。
以前Twitterで流れた「#今日は父の日なのでウチのお父さんを紹介する」というネタに「奥さんが好きすぎて、子供は奥さんの分身だと思っている。奥さんからも子供からもくっついて離れない粘着系パパ。娘、息子達から日々ウザがれる」と投稿し、自分的になんとなくツボだったので。




