妻の笑顔の下
エブリスタで連載している時に掲載していた応援特典です。
城下のゴシップ紙は、ビッという嫌な音を立てて勢いよく裂けた。パリッと開いて見開きの特集を読んでいたアランシアが感情のまま力を入れたのだ。
「ひ、姫様、どうか落ち着いて下さい……」
横でポーラがなんとかアランシアの怒りをおさめようとするが、無理だ。たかがスキャンダル好きな出任せ新聞と思っていていたが、ここまで酷いとは。
見開きで組まれていたのはアランシアの夫であり、この国の王太子──ゼイヴァルの過去の恋人特集だった。
赤裸々に綴られる元恋人達の話や、デートの話。くわしく書かれているそれらは、果たして全てが出任せだろうか。
苛立ちに任せて破けた新聞を床に叩きつける。
くだらないゴシップ紙の記事を信じている訳ではない。民衆まで王太子の手癖の悪さを知っているのが情けなくて苛立つのだ。
椅子に座ったまま怒りをどうやって発散しようかアランシアが思案していると、控えめなノックの音が聞こえ、返事を返す前にドアが開いた。
「あら、誰かと思ったら情けない女たらしの旦那様だわ」
皮肉をたっぷり含んでやると、部屋に入ってきたゼイヴァルが眉根を下げた。
「意地悪言うなよ。全部出任せなんだから」
「こんなに細かく書かれてるのに?」
「みんな想像力がたくましいんだよ」
アランシアが納得できずに顔をしかめていると、ゼイヴァルが近づいてくる。
「このバーの店員とか、花屋の娘とか、庶民ばかりだけどあなたの恋人らしいわよ」
「彼女達が一方的に勘違いしているとか」
「いつごろ付き合ってたの?」
「……付き合ったのはもう君の中で確定してるんだね」
当たり前だ。何十という愛人を囲っていた男だというのに。
「……四年くらい前かな」
負けを認めて白状するゼイヴァルに、アランシアはため息をついた。
「でもね、この仕立て屋の看板娘とか、宝石商の孫娘とかは違うからね?」
どの女と付き合っていたか否かなんてどうでもいい。こうして民衆のゴシップ紙に見開きで取り上げられたのだから皆の笑い物だ。
「それに一回きりだよ? 四年も前だし、まだ君と会う前だし……」
色々言い訳を並べるゼイヴァルににこやかに笑ってみせる。
「あなた、今日はソファーで寝て下さいね」
この情けないたらしにはたっぷり反省をしてもらおう。
アランシアはにこやかな笑顔の下、あくどい作戦を練り始めた。
2012.07.18 天嶺 優香




